Accounting

KAMを「読む」のではない。KAMを「武器にする」内部監査へ。

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

 

内部監査は、チェックリストを埋める仕事ではない。

経営者が見落としているリスクを、現場の言葉で翻訳し、組織の意思決定を変える。それが、内部監査の本来の力だ。

2026年4月6日、私は内部監査の担当者向けにセミナーを行った。タイトルは「KAM×生成AIで進化する内部監査~内部監査をチェックからインテリジェンスへ~」。2025年11月25日に実施したセミナーのアンコール開催だ。

このセミナーで私が提唱したのは、ひとつのシンプルな転換だ。

KAM(監査上の主要な検討事項)を、内部監査の起点にせよ。

 

会計不正が相次いでいる。

そして、見積もり項目の増加により、会計処理そのものが複雑化している。

「この資料にこう書いてあるから、こう処理する」。そんな単純な時代は、もう終わった。

多くの判断が必要になり、いくつもの仮定に基づいて処理が行われる構造になっている。会計を専門としない内部監査人にとって、これは相当に厄介な領域だ。

しかし、だからといって見過ごすわけにはいかない。

これだけ会計不正が世間を騒がせている今、内部監査が会計領域に踏み込まないという選択肢は、もう存在しない。

 

セミナーで参加者と話していて、改めて感じたことがある。

「会計は専門知識が必要だから、内部監査の対象にするにはハードルが高い」

この言葉は、正しいようで、正しくない。

本当の壁は、会計知識そのものではない。

「どこから手をつければいいかわからない」という構造的な迷子状態。これこそが、内部監査人の足を止めている隠れた敵だ。

会計の専門用語、外部監査の手法、見積りの仮定……。
情報は山のようにある。だが、内部監査人が自分の立場で何をすべきかに変換する道筋がない。

知識がないのではない。翻訳装置がないのだ。

 

ここで、KAMの出番が来る。

KAMとは、外部監査人が監査報告書に記載する「監査上の主要な検討事項」だ。
これは単なる監査の専門情報ではない。

KAMに取り上げられるということは、経営者が外部のステークホルダーに対して説明を要するような重大事項であるということだ。つまり、外向きの説明責任が問われるリスクでもある。

だからこそ、KAMを起点にすると、三様監査が同じ方向を向く。

外部監査人がKAMについて経営者・監査役等と協議すれば、監査役等はそれを無視できない。経営者も「はい、わかりました」で終わるわけにはいかず、業務執行の中でそのリスクへの対処が要請される。

そして、ここで内部監査が力を発揮する。

監査役等からすれば、内部監査人は現場を知る専門家だ。内部監査から情報が得られること、手続きが行われて結果が報告されることは、心強い。経営者にとっても、KAMに関わる重大事項に対して内部監査が別の角度から検討を加えることは、自らの説明責任を確保するために必要な手段となる。

KAMに着目することで、内部監査人の出番が生まれ、提供する価値が飛躍的に大きくなる。

 

KAMに着目すべきだとわかっても、実際に使いこなすには、会計知識に加えて監査の専門知識まで必要になる。ハードルは、むしろ上がる。

ここで登場するのが、生成AIだ。

セミナーで私が提供したのは、KAMを内部監査人が使えるように「翻訳」するためのAIプロンプトだ。

このプロンプトを使うことで、KAMの内容が内部監査に必要な形に変換される。出てきた結果をそのまま使ってもいいし、そこから対話を重ねて発想を広げてもいい。内部監査として何ができるか、どこに価値を出せるかを考えていく起点になる。

つまり、生成AIが「翻訳装置」の役割を果たす。

会計と監査の専門知識という壁が、一気に下がる。

 

問題を見つけて指摘する。それは内部監査の一面にすぎない。

KAMを起点に、経営者・監査役等・外部監査人と同じリスクに向き合い、現場の知見をもって組織の意思決定に貢献する。それが、「チェック」から「インテリジェンス」への転換だ。

そして、生成AIがその転換を加速させる。

 

まずは、自社のKAMを一つ開いてほしい。
そして、この記事で紹介した視点で読み直してみてほしい。

「この項目に対して、内部監査として何ができるか?」

その問いが浮かんだ瞬間、あなたの内部監査はもう変わり始めている。

セミナーで使用したAIプロンプトの提供や、個別のご相談も受け付けている。
必要であれば、遠慮なく声をかけてほしい。

内部監査を、チェックリストの消化作業から、経営を動かすインテリジェンスへ。

その第一歩は、KAMを「読む」ことではなく、KAMを「武器にする」ことから始まる。

会計入門は、なぜ最初の5分で人を振り落とすのか──BSファーストメソッドという答え前のページ

KAMを問い続けた5年間――実務家の論考が、学会レビューで先行研究として扱われたこと次のページ

関連記事

  1. Accounting

    コンテンツ化に必要な、文字の「見える化」

    コンテンツが作れずに悩んでいる方が、いらっしゃいますよね。セミナーや…

  2. Accounting

    リースの罠

    残業時間を告げる時計の針は、またしても深夜を指していた。入社して5年…

  3. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.022 AOKIホールディングス、PwCあらた

     文豪ゲーテが開示責任者なら、財務報告の流儀を求めたことでしょう。「…

  4. Accounting

    内部統制基準等の公開草案は、審議時からこう変更された

    昨日の2022年12月15日、金融庁のウェブサイトに、内部統制基準等…

  5. Accounting

    講演『KAM~内部統制、リスクマネジメント、ガバナンスとの関連の仕方~』

    もしも、KAMが監査法人だけの話と思っているなら、あなたはKAMの副…

  6. Accounting

    経営者視点の書評が、週刊経営財務に掲載されました

    こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。…

  1. Accounting

    『体験的ガバナンス論 —健全なガバナンスが組織を強くする』からの学び
  2. Accounting

    見積り開示会計基準は、決算短信でこう開示された
  3. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.041 第一生命ホールディングス、あずさ
  4. Accounting

    ASBJに提案「基準開発の予見可能性の高め方」
  5. FSFD

    バリューチェーンとリスク・機会識別の「逆転パラドックス」
PAGE TOP