Career

ボクの研修スタイルは表現芸術

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

今から12年ほど前。監査法人が主催する研修が無料で提供されていることに疑問を持っていました。

 新しい会計基準を説明した研修が多いことから、それに参加する企業の経理関係者にとっても知りたい内容。需要がある中で開催しているにもかかわらず、なぜかほとんどが無料。

 当時、ボクは、企業内研修で講師を務めることが多かったため、有料の研修でした。先方の依頼を受けての開催のため、当然に有料。

 研修を開催するにあたって、その準備や研修資料の作成、当日の説明など、労力はかかっています。それは有料の研修だろうが無料の研修だろうが、変わりません。だから、無料の研修だと、その労力が報われないと考えていたのです。

 そのときに、一緒に仕事をすることが多かった仲間のひとりに、その疑問をぶつけたことがありました。なぜ、研修を無料で提供するのかと。すると、こんな答えが返ってきたのです。

「それだけの価値しかないからなんじゃないの」

 当時は、彼が何を言わんとしているのか、さっぱり分かりませんでした。むしろ、なんてヒドいことを言うのかと少しムッとなっていたほど。

 でも、今になると、それが良く理解できます。確かに、無料の価値しか提供できていないという彼の返答は真実。

 ボク自身の研修の内容を振り返っても、同じことが言えます。たまたま、業務の依頼があったから有料でしたが、果たして有料の価値があったかどうかと問われると、今のスタイルに照らせば、No。

 とはいえ、当時のスタイルでも研修の評判は良かったため、講師として度々、起用されていました。ただし、今と大きく違うのは、会計基準の内容をわかりやすく説明しているに過ぎなかった点。つまり、会計基準の記載を超えない解説に留まっていたのです。

 今のボクの研修は、会計基準の記載を超えて解説しています。その基準を読めばわかること以外にも、開発の過程や理論的な背景など、研修の参加者が会計基準以外の資料にあたらなければならないこともカバーしています。つまり、参加者の代わりに汗をかいている部分があります。

 加えて、そうしたものとは全く違う観点から、全体像をまとめたり、ツールを作って提供したりとしています。会計基準にはないものを組み合わせることによって、さらなる価値を生み出そうと努めています。ゼロから1を創り上げた内容を提供しているのです。

 そのため、ボクの研修資料は、他の人が講師となっても説明できません。研修資料に記載された文章に至る背景が理解できていないと、ただ読み上げるだけ。

 今日、読んでいた本に、まさにその状態を示した言葉に出会いました。それは、アナウンサーから作家に転身した石井貴士サンによる『本当に頭がよくなる1分間アイデア法』という本。

 

 この本は、タイトルこそアイデア法ですが、キャリアを説いた本といっていい。そこには、「代替芸術」と「表現芸術」として説明された概念があります。

 代替芸術とは、「誰かが作ったものを、自分という人間を媒介して、表現するという芸術」を指します。例えば、歌手や俳優、アナウンサーなど。

 一方、表現芸術とは、「ゼロから1を生み出すことで、自分を表現する芸術」を指します。例えば、作詞家や作曲家、作家など。

 これらは、求められているもの、アウトプットするものがまったく違うため、両立が難しい。なので、どちらかの道を選んだほうが集中できて成功しやすいと言います。著者の石井貴士サンも、代替芸術のアナウンサーから、表現芸術の作家へと転身したとのこと。

 会計の研修に対して当てはめると、会計基準の記載を超えないスタイルの研修は、代替芸術。企業会計審議会やASBJが作った会計基準の内容を、講師を媒介して伝えているからです。

 もちろん、そこで参加者から評価されれば、教えることについて価値があると感じてもらえることもあるでしょう。しかし、そのスタイルで最も価値があるのは、会計基準そのもの。研修の価値は相対的に低くならざるを得ない。それが極端に現れると、研修は無料に行き着きます。

 一方、ボクの今の研修スタイルは、他では聞けない内容です。そのため、ゼロから1を生み出しているという意味では、表現芸術。会計基準の他にも独自の説明やツールを創り上げているため、それらを提供する価値は、会計基準の価値とバッティングすることなく、付加されるもの。だから一度認められれば、有料でも受け入れられるのです。

 こうした研修のスタイルの違いの他にも、自分が経てきたキャリア、これから目指したいキャリアを考えるにあたっても、代替芸術と表現芸術のどちらなのかを考えることは有意義。

 ボク自身でいえば、1を10や100に広げていくよりも、ゼロから1を生み出すことのほうが楽しい。人から見られたいのは、自分よりも、研修の内容や執筆した本や解説記事のほう。他人軸よりも、自分軸で生きたい。やはり「表現芸術」のほうですね。

 自分のキャリアやビジネスの在り方が、代替芸術ではなく表現芸術だと明確に言語化できたため、今後は、これを意識した動きをしていくだけ。ドンドンと表現芸術にシフトしていこうっと。

 

P.S.
 最初は、この本で紹介されている「時空ジャンプアイデア法」に興味があって手にしました。しかし、それ以上に収穫だったのは、キャリアを考えるのに活かせる内容のほう。思いもかけない出会いがあるのが、読書の醍醐味ですね。

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