後発事象の会計・開示実務

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なぜ、後発事象の論点が解決しないのか?

開示体制まで踏み込んだ実務対応サポート

 

決算の都度、検討しなければならない論点といえば?


それは、後発事象です。四半期決算を含めると、1つの事業年度で4回の検討が必要だからです。

重要な後発事象がひとたび発生すると、その対応が求められます。財務諸表に注記する場合もあれば、会計仕訳を追加して財務諸表に計上する場合もあります。特にその発生のタイミングが遅いときには、

  • 「これから注記する内容を調べて検討する余裕がない」
  • 「この時点で財務諸表の数字を変えたくない」
  • 「そもそも対応する必要があるのか」

などと後発事象への実務対応を消極的に受け止めることもあるでしょう。

後発事象をテーマにした書籍『すぐに使える 後発事象の会計・開示実務』を手にされる方は、財務報告においてリーダーシップを発揮する役職に就かれていることが多いものと推測できます。他にも多くの業務を同時並行的に抱えながら、後発事象への対応まで求められているでしょう。管理部門の人員が限られている状況だとすると、他のメンバーに対応を依頼することも難しいかもしれません。

こうした中、後発事象への対応が適時・適切に行えるならば、予定していた決算スケジュールを延期することなく進行できます。後発事象に関する会計処理の要否が迅速に判断できたなら、また、注記する内容の素案を即座に作成することができたなら、後発事象が発生したとしても心配することはありません。

 

◎ 後発事象の実務対応にあたって必要なこと


ところで、後発事象に関する会計処理の要否が迅速に判断できない原因や、注記する内容の素案を即座に作成できない原因を考えてみたことはあるでしょうか。これらの原因を解決した実務対応を図ろうにも、次の2つの問題点に直面します。

 

〔問題点1〕監査の領域まで学習範囲をカバーしなければならない

日本には、後発事象に関する包括的な会計基準がありません。その一部について規定したものはあっても、包括的に定めたものはありません。このように、会計としてのルールが整備されていないため、その運用も期待したとおりには行われない可能性があるのです。

多くの企業では、限られたリソースの中で、次から次へと新設・改正される会計基準にキャッチアップすべく、研鑽を積んでいます。会計専門誌の解説を熟読したり、関連するセミナーを受講したりと、必要な知識を習得・更新するための投資を行っています。会計基準や適用指針が整備されているものについて、その努力を継続しています。

ところが、監査の領域となると、話は別です。監査対応を踏まえて、監査の基準や指針までキャッチアップしている人はそう多くはないでしょう。財務諸表監査を実施するわけではないため、不要と捉えるかもしれません。

ただ、日本では、後発事象の取扱いは監査の観点から定められています。監査の領域まで足を踏み込まないと、そもそも理解ができないのです。それでは、対応も不十分となるのは目に見えています。

したがって、日本の会計基準を適用している場合には、財務諸表監査で定められた後発事象の取扱いを理解する必要があります。

 

〔問題点2〕監査上の指針をアップデートしなければならない

後発事象についての学習が進んでいる方にとっては、実務上のガイドラインとして、JICPA(日本公認会計士協会)による監査・保証実務委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」(以下、「76号報告」という)が機能していることをご存じでしょう。そのため、後発事象の実務対応にあたっては、この内容に従えば間に合うと誤解するかもしれません。

しかし、76号報告をそのまま利用するには問題があります。なぜなら、その最終改正が、2009年7月で止まっているからです。2022年7月時点で、12年以上も更新されていません。

その間、数多くの会計基準が新設・改正され、また、監査上の指針も国際監査基準のクラリティ・プロジェクトを受けて全面的に改正されています。加えて、有価証券報告書の記述情報の充実に関する改正も行われています。

さらに、コーポレートガバナンス・コードの新設・改訂によって、後発事象として開示される内容にも変化が生じています。76号報告に規定されている内容は、こうした時代の変化に追い付いていないのです。

 

このように、76号報告が実務上のガイドラインとして機能しているものの、陳腐化している箇所があるため、利用にあたっては細心の注意が必要です。つまり、2009年7月以降に行われた会計や監査、開示などの改正を自身で更新しなければなりません。

 

◎ 後発事象の実務対応サポート

後発事象の実務対応を図るためには、学習範囲を監査の領域までカバーし、かつ、監査上の指針をアップデートしなければなりません。これには時間を要します。

後発事象について実務上の課題が生じている局面で、これらをゼロから始めていては、とても財務諸表の公表に至ることができません。有価証券報告書や四半期報告書の提出遅延は、なんとしても回避したいところです。

 
そこで、書籍『すぐに使える 後発事象の会計・開示実務』では、監査上の後発事象について、論点を5つに絞り込みました。これによって、必要な基礎知識を容易かつ確実に習得できると期待できます。また、執筆時点における会計や監査、開示の取扱いを踏まえて解説しています。12年以上の更新作業をゼロにすることができます。

 

しかし、これだけでは実務対応がスムーズに進まないことも想定されます。そこで、次の3つについてサポートしています。

 

〔サポート1〕修正後発事象への対応

後発事象の実務では、監査人から修正後発事象に該当する事象であると指摘を受けたことから、会計仕訳を追加したために決算数値が変更となった経験をしたことがあるかもしれません。こうした手戻りを防ぐためには、自社で、修正後発事象か、それとも、開示後発事象のいずれかに該当するかを区分できることが不可欠です。

これを可能とするために、修正後発事象の判断要素を4つに整理しました。これに沿って判断していくことで、監査人に指摘を受ける前に会計処理や注記を進めていくことができます。また、そのような指摘を受けた際に、修正後発事象であることに納得する局面もあるかもしれません。

さらに、6つの事例を挙げて、修正後発事象として取り扱う理由や対応の仕方などを説明しています。ここまで具体的に説明したものは、単行本はもちろんのこと、会計専門誌でもないでしょう。

 

〔サポート2〕開示後発事象への対応

財務諸表に注記が必要となる開示後発事象では、時間的な余裕のない中で適切な内容を開示しなければなりません。このとき、76号報告を参考にすることもあるでしょう。この更新が止まっている点はすでに説明したとおりです。

また、実際の事例では、必ずしも76号報告に示されたとおりには開示されていません。76号報告で示された事項を記載しない事例もあれば、76号報告では示されていない事項を記載する事例もあります。こうした事例も踏まえて、後発事象ごとに記載する内容を提案しています。

さらに、頻出する開示後発事象についての記載例を提供しています。記載にあたってのポイントも加えることによって、自社の状況に応じたアレンジが行いやすくなるよう工夫しています。

 

〔サポート3〕開示体制の提案

後発事象の実務対応は、識別フェーズと対応フェーズに区分できます。このうち、識別フェーズは後発事象が発生していない場合でも実施が必要となるため、どのような体制を整備・運用するかは重要な論点です。

そこで、2つのフェーズに応じて、後発事象全般として、あるいは、修正後発事象や開示後発事象それぞれについて、実務対応の留意事項を解説しています。個々の後発事象に対応することで終わることなく、その後の業務プロセスへの改善につなげることができます。

企業グループとしてのより大きな対応体制として、経営者が関与する企業横断的な組織体として「ディスクロージャー委員会」の設置も提案しています。後発事象は企業活動の全般に及ぶため、経理部門だけで対応を図るには限界があります。そこで、全社一丸営業ならぬ、全社一丸財務報告を提案しています。

 

◎ 本書の構成

後発事象の実務対応として3つのサポートを含む書籍『すぐに使える 後発事象の会計・開示実務』は、次の内容で構成されています。

 

第1章「監査上の取扱いに従う実務対応」

日本における後発事象の取扱いがどのように展開されてきたかについて説明します。米国モデルと同じように、後発事象が監査人の観点から“監査上の取扱い”として展開されてきた背景が理解できます。これがわかると、日本の開示制度の大きな論点を含んでいることが痛感できるでしょう。

第2章「後発事象の5つの論点」

監査上の後発事象に関する論点を5つに整理したうえで、解説を行います。また、IFRS会計基準との違いから、ASBJ(企業会計基準委員会)における後発事象の包括的な会計基準の開発が頓挫した理由も理解できます。

これによって、適正な財務報告を行うこと、すなわち、説明責任を果たすことの意味をより深く考える機会とすることができます。

第3章「修正後発事象への実務対応」

修正後発事象について、事例ごとに解説を行います。これによって、4つの要素に基づき修正後発事象に該当するかどうかを判断できます。自身で修正後発事象によって追加の会計仕訳を計上できるようになるため、監査人から指摘を受けて決算数値を変更するような手戻りを減らせます。

第4章「開示後発事象への実務対応」

開示後発事象について、21の記載例と6つの関連した記載例を解説します。こうした記載例のみならず、開示後発事象に関する「注記の基本的な型」や後発事象が発生した旨の素案作成に活用できる「日本語の基本語順」を活用することで、自社の状況に応じた注記を迅速かつ的確に作成できるようになります。自社に固有の情報を適時・適切に開示することの達成に効果的です。

第5章「注記に影響を及ぼす開示後発事象」

会計仕訳ではなく、注記事項についての開示後発事象について7つの事例を挙げて説明します。開示後発事象の識別漏れを防止することに役立つため、監査人から指摘を受けてから注記の内容を検討し始める事態を回避できます。

第6章「後発事象に関する監査対応」

監査意見への影響や監査手続を解説するとともに、後発事象に関するKAM(監査上の主要な検討事項)についても紹介します。監査対応のみならず、後発事象に関する業務プロセスの勘所が理解できるようになるため、後発事象の実務対応をさらに磨き上げることができます。

加えて、事後判明事実についても説明しているため、後発事象に対して適時・適切に対応できる体制を構築しておくことの重要性を改めて認識することができるでしょう。

第7章「ディスクロージャー委員会の活用」

全社一丸財務報告を実践するための方策として、ディスクロージャー委員会の活用を説きます。これによって、企業グループとして後発事象の識別漏れや対応誤りを今まで以上に防止することが期待できます。つまり、適切な財務報告を完遂できるようになることを意味します。

 

◎ 説明責任を果たすために


上場企業であっても、有価証券報告書が取締役会の決議事項とされている割合が半数程度にとどまっています。これをどう捉えるかは意見の分かれるところです。

ここで、後発事象を踏まえると、開示後発事象として財務諸表に注記される場合や、修正後発事象でありながらも開示後発事象に準じて財務諸表に注記される場合に、そのような重要な事項についての対外説明に経営者が関与していないことは大きな問題だと考えます。

後発事象の内容によっては、社外役員も含めたうえで、企業グループの対応を検討し、かつ、発表すべきものもあるはずです。その場合には、有価証券報告書の記述情報にも影響が及ぶと想定されるため、経営者の視点を反映した開示を行うには、しかるべき機関における承認が必要です。

 

しかし、現実は必ずしもそうではないことが明らかになっています。財務報告において直近の状況を適切に反映することが、企業の説明責任を果たすことであると考える場合、後発事象はその評価終了日まで検討が行われる体制が必要不可欠です。そのためには、後発事象を会計上の取扱いとすべきです。

ところが、残念ながら、ASBJにおける後発事象の包括的な会計基準の開発は、以前に頓挫しています。会社法に基づく計算書類と金融商品取引法に基づく財務諸表が異なる時点で公表されている限りは、後発事象の会計基準が設定されることはないでしょう。

 

日本の会計基準を採用している企業では、制度的な解決を待っていては、いつまで経っても前に進めません。ここは、企業の主体的な取組みに期待したいところです。自ら後発事象の評価終了日を定め、かつ、その日まで後発事象の有無を含めた検討を行うのです。

実際、会計上の取扱いの定めのあるIFRS会計基準を採用している企業では、そうしています。日本の会計基準を採用している企業が実務対応として不可能な理由はありません。そのための手助けとなるよう、書籍『すぐに使える 後発事象の会計・開示実務』を執筆した次第です。本書を手にして、それに向けた第一歩を踏み出すことを願っています。

 

とはいえ、目の前の後発事象の課題を解決すべく、書籍『すぐに使える 後発事象の会計・開示実務』に辿り着いた方も少なくないでしょう。修正後発事象なのか、開示後発事象なのか、いずれにせよ、今すぐ実務を前に進めたいはずです。

そうしたニーズに応えるべく、該当箇所を読むことで完結できるように工夫していますので、目次から課題解決に役立つトピックを探し出し、必要なページを開いてください。

 

 

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