ボクの大好きな読書。つい、自分の好きな分野の本を手にしてしまいます。マーケティングやライティングといった内容を好んで選んでしまう。
たまには河岸を変えてみようと、いつもとは違うジャンルを選んでみました。それは、世界最大の独立バイオテクノロジー企業であるアムジェンの本。元CEOのゴードン・バインダー氏による『世界最高のバイオテク企業』(日経BP社)です。
この本の「訳者、監修者あとがき」によれば、日本での知名度が低いため、出版が困難な局面もあったと紹介されています。しかし、それは日本での話。世界で見たときには、バイオ創薬のパイオニアとして有名な会社。その規模も世界ランキング10位に入るほど。
製薬業界のニュース解説メディア「AnswersNews」による「2019年版 製薬会社 世界売上高ランキング」では、第10位(売上高は2兆6,122億円)に位置づけています。これは、日本企業トップの武田薬品工業(16位:売上高は2兆972億円)を上回る規模なんです。
そこで、アムジェンのビジネスモデルを探ろうと、この本を読み進めていきます。おそらく、普通にビジネスモデルを理解しようとすると、こんな感じになるのではないでしょうか。
顧客は患者、それに提供する価値は医薬品。キーリソースは研究開発に携わる人材であり、また、キーアクティビティは臨床試験。キーパートナーとして、学術的な信用を与えてくれる科学者や、資金を提供してくれるベンチャーキャピタル。財務的な観点からは、医薬品が販売に至るまでは研究開発費が計上されていく構造。
しかし、この本の特徴は、組織にもページを割いている点。第9章に「アムジェンはどうやって勝てるチームを作ったか」、また、第10章に「アムジェンはどうやって社員をやる気にさせていたのか」と、全12章のうち2章を組織論に充てているのです。ここに着目すると、アムジェンに特徴的なビジネスモデルが描くことができます。
まず、顧客が患者であることには違いありません。次に、アムジェンが顧客に提供する価値は、医薬品ではなく、価値観と設定してみます。というのも、この本を通じて、企業の価値観を重視していることが何度も繰り返して記載されているからです。この本の「はじめに」にも、アムジェンの8つの価値観を紹介しています。
したがって、この価値観を顧客に提供することこそが、アムジェンのビジネスモデルだと考えたのです。すると、取り扱っている医薬品は、提供価値よりもチャネルのほうが適しています。
この価値観を提供するためのキーリソースは、協働的な環境です。チームで働くことを重視しています。8つの価値観のひとつにも挙げられているほど大切にしています。そのために360度評価ならぬ、360度面接を行っていると言います。
具体的には、管理者の採用面接に部下となる人も同席させるのです。管理者にとっては部下のことを知る機会となります。普通なら自身より上席者しか入社前に知ることができない中で、部下のことも知ることで働く環境をより理解できます。
一方で、部下としてもこの上司を選ぶプロセスに関わっていることから、上司が入社した後に一緒に働く責任が生まれます。与えられた上司ではなく、自ら選んだ上司のため、協力しない訳にはいきませんからね。
話を戻して、企業の価値観を提供するためのキーアクティビティは、独立性の尊重。自分を最も管理するのは、上司でもなく同僚でもなく、自分自身だといいます。採用面接時にもこうした価値観を伝え、また、入社後も自ら考えて行動することを求める。製薬企業なら備えてあるはずの臨床試験マニュアルも、製品ごとにカスタマイズすることを求める。
このように、一貫して価値観を伝え、浸透させ、実践させていることが、よく読み取れます。だからこそ、この企業固有のビジネスモデルだと言えるのです。冒頭に紹介したようなビジネスモデルでは、製薬企業ごとの個性が出ませんからね。
それにしても、この本は読みやすい。翻訳も上手なのでしょうが、原文もきっとわかりやすい文章なのでしょう。オススメの一冊です。