今から8ヶ月ほど前の2019年7月16日。このブログで「まだ騒がれていない、東京オリンピックの決算インパクト」という記事をアップしたことを思い出しました。というのも、別の意味で、そこでお話ししたリスクが現実のものとなりつつあるから。
まだ、新型コロナウイルスのアウトブレイクなんて起きていなかったため、2020年7月から8月にかけて東京オリンピックが開催される前提での話でした。3月決算会社だと第1四半期の決算や監査人の四半期レビューがテレワーク中心になるかも、とお伝えしました。
しかし、現実は第1四半期を待つ前に、2020年3月期の本決算からの問題になるような勢いです。新型コロナウイルスによる騒動が収束していない現状では、本決算そのものが締められない懸念も出ています。
中国は収束宣言を行ったものの、直接的なり間接的なりに影響を受けた拠点が中国にあると、スケジュールどおりに決算や監査が行えない可能性があります。また、世界各国で非常事態宣言が出されているため、重要な海外子会社がある場合にも、現地の決算や監査に影響が及びかねません。
このように、決算が然るべきスケジュールで行えないリスクや、それに応じて会計監査を行えないリスクが日増しに高まっています。日本国内でも、全域あるいは一部の地域でロックダウンの措置が採られると、決算に影響が及びます。
実際、証券取引所からは、新型コロナウイルスを原因として監査人からの監査報告書が意見不表明となっても、それをもって上場廃止にはしないとのアナウンスがありました。そうなる蓋然性が決して低くないと考えているからこそ、このようなアナウンスに至っているハズ。
仮に、決算スケジュールがずれ込んだり、意見不表明となったりするときに、個人的に気になる論点があります。それは、監査人の交代。監査人の交代を予定通りにおこなえるのか、という懸念です。
8ヶ月前のブログでも、東京オリンピックが監査人の交代に影響を及ぼす可能性に言及しましたが、それは交通事情の話にすぎない。それに対して、今回は新型コロナウイルスによって決算そのものが順調に行えない状態もあり得るから。
例えば、決算スケジュールがずれ込んだとすると、第1四半期の決算がどう進行していくのかが実務上、論点となります。監査人の交代にあたっての時間が通常と比べて思うようには確保できない事態も考えられます。そうした中で、四半期レビューをどう実施していくのかが課題になりうる。
また、前任の監査人が意見不表明とした場合に、新任の監査人がその契約を受けることができるのかも論点となりかねない。監査契約を引き受けるにあたっては、適正意見の表明が見込める必要があります。最初から適正意見は無理なら、会計監査を行う意味がないからです。
したがって、一般的には、前任の監査人が適正意見を表明していなければ、新任の監査人は契約を引き受けることがないでしょう。では、新型コロナウイルスによって前任の監査人が意見不表明とした場合に、新任予定の監査人は監査契約を引き受けるのでしょうか。
もちろん、明らかに新型コロナウイルスによるものであると判断できる場合には、監査契約は可能でしょう。ただ、その見極めが難しいことも十分にあり得ます。新型コロナウイルスの影響が翌年度にも続くと、同じように意見不表明とせざるを得ない状況も考えられます。
すると、監査人の交代に対して、新任予定の監査人では品質管理の観点からも契約締結に慎重になるのではないかと考えるワケです。
これは、監査人の交代を予定していた企業にとってもリスクです。前任の監査人に交代を告げたとしても、新任予定の監査人が引き受けてくれない可能性があるため。よって、状況次第では監査難民となりかねないリスクにも留意する必要があります。
こうして新型コロナウイルスの影響を考えていくと、会計実務や監査実務において広範囲に検討が必要となる局面が想定されます。これまでも、このブログで気づいた点をお話ししてきましたが、引き続き、留意すべき事項は共有していきますね。