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Accounting

会社法監査のある非上場企業と「その他の記載内容」

2022年3月期から強制適用される監査手続といえば、「その他の記載内容」の通読と検討。これは、例えば、金融商品取引法に基づく開示では有価証券報告書のうち財務諸表以外の情報が、また、会社法に基づく開示では事業報告を指します。

もし、財務諸表や計算書類の記載やその作成過程で得た情報と、「その他の記載内容」で記載されている情報とが整合していなければ、どちらかに誤りがある、ということ。なので、監査人はその修正を会社に促し、また、会社がその修正を受け入れなければ監査報告書にそのことを記載することが制度化されました。

ということは、監査人は、監査報告書日までに「その他の記載内容」の通読と検討を終えていなければならない。これは、会社としては、監査人の監査報告書日までに「その他の記載内容」の草案を提示しなければならないことを意味しています。

有価証券報告書における「その他の記載内容」の場合、まだ時間の余裕があるケースが多いでしょう。しかし、会社法の事業報告の場合には、決算スケジュールの都合上、監査人の監査報告書日よりも前に提出していないケースもあったハズ。そのため、会社法の事業報告について、例年よりも早い提出が求められる状況となっています。

この手続は、上場企業に対する財務諸表監査に限りません。非上場の企業であっても、会社法監査を受けているなら実施されます。ここで懸念されるのが、そもそも事業報告に、開示が要求されている事項が漏れなく記載されているか、ということ。

本来的には、「その他の記載内容」が財務諸表関連の情報と整合していないことを検討するものです。ただし、そもそも開示が要求されている「その他の記載内容」が漏れなく記載されていなければ、その手続が有効に行われません。

上場企業であれば、情報開示の専門会社を利用しているため、事業報告の記載事項の漏れがないことのチェックを受けていると想定されます。つまり、開示が要求されている「その他の記載内容」の記載漏れを疑うところがスタートする必要性は高くないでしょう。

それに対して、非上場企業の場合、必ずしもそうした専門会社を利用しているとは限らないため、事業報告の記載事項が漏れているリスクも考えられます。そこでボクは、会社法監査のある非上場企業の事業報告について、期末決算に突入する前に、漏れのチェックを行っていました。

ところが、これが何気に大変。というのも、事業報告のチェックリストがないから。JICPAからは中小事務所等施策調査会研究報告として各種の開示チェックリストが提供されているものの、会社法のそれは計算書類とその附属明細書に限定されています。

一方で、事業報告についても解説した本や記事もあります。ただし、会社法でいう「公開会社」を想定したものが多いため、非公開会社の取扱いまでは詳述されていないことがあります。そこで、条文を片手に、何が開示項目として必要なのか、また、開示するときにはどのように書くかを調べなければならない。

こうして事前の検討を終えたものの、今ひとつ心配が残ります。そんなときに、優れモノに出会いましたよ。もう少し早く出会っていれば、こんな手間をかけずに済んだのに、というモノを。

それは、株式会社プロネクサスさんによる「株主総会招集通知作成の手引き 事業報告・計算書類編」。すべての会社で必要な開示事項なのか、それとも、公開会社のみ必要な開示事項なのかが明確に解説されています。そう、非上場企業にも活用できるように配慮されているのです。

また、参考資料の「事業報告記載事項(要約)」では、法定の開示事項がリストアップされているため、何を書くべきかを明確にできます。さらに、「事業報告記載事項チェックリスト」を活用すると、開示事項をどう書くかまで理解できます。

もう、この一冊があれば、会社法監査のある非上場企業の事業報告について、漏れのチェックが容易に行えます。あの苦労をした者としては、感動すら覚えましたよ。監査人は、これをぜひ、活用することをオススメします。

この手引きって、監査人に限らず、会社法監査のある非上場企業でも、もっと活用されると良いのに。上場をしておらず、また、IPO準備もしていないと、こうした専門会社を利用する機会はおそらく少ないでしょう。

しかし、監査人による「その他の記載内容」に関する手続が必須となった今、そもそも開示が必要な事項が漏れているようでは、その通読と検討に耐えられないため、突き返されるリスクがあります。会社法の決算スケジュールはタイトなことはご承知でしょう。そんな中で、こうした手戻りがあっては、予定している期日に間に合わなくなります。

開示資料の手戻りを回避するためには、開示規則の新設や改正のキャッチアップの穴を塞がなければならない。そのためのリソースを社内で賄うか、それとも、専門サービスを利用するか。効果的な方法を選択する局面にあるのかもしれません。

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