後発事象の実務

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

(注)2022年7月に、後発事象を徹底解説した【決定版】かつ【完全版】として、『すぐに使える 後発事象の会計・開示実務』(中央経済社)が発売されています。

 

 


 

以下は、2012年10月に発売された『後発事象の実務』のご紹介である点にご留意ください。

 

内部統制報告制度が導入されて以来、「開示すべき重要な不備」(従来の「重要な欠陥」)を表明した3月末決算会社は、適用初年度の平成21年3月期が56社、平成22年3月期が22社、平成23年3月期が8社、平成24年3月期が10社と低減傾向にあります。近年では、開示すべき重要な不備を記載した企業が全体の1%にも満たない状況で推移しています。

このことから、日本の上場企業は適切に財務報告を行っていると評価できるかもしれません。とはいえ、その結果をもって財務報告が本当に「完遂」されたと評価できるのだろうか、と心配になることもあります。

想定される財務報告の流れ

多くの企業では、次のような財務報告の流れになっているのではないでしょうか。

  • (1)合計残高試算表や精算表を作成することによって、いわゆる財務諸表に計上する数字を「確定」させる
  • (2)確定した数字に基づき、財務諸表の表示も「確定」させる
  • (3)財務諸表を外部に公表する

もちろん、これについて異議を唱えるわけではありません。公認会計士として(執筆当時)19年間、財務諸表監査を通じて決算・財務報告プロセスに接してきた知見から、財務報告の実務はこのような流れで進んでいることは重々承知しています。

ところが、この流れで財務報告が「完遂」できるかと問われると、首を縦に触れないのも事実です。これが先ほどの心配です。なぜ心配するかといえば、そこに置かれている前提に問題があるからです。

その前提とは、財務諸表を公表する時点の一定期間(たとえば1週間や2週間程度)の前にはその数字が「確定」している、表示が「確定」している、という認識です。

「前提」の誤り

しかし、このような認識は誤りです。このような流れでは財務報告は「完遂」できません。そこには、財務報告を完遂させる最後のピースが忘れ去られています。

財務報告を完遂させる最後のピースとは、後発事象への対応に他なりません。

後発事象には、財務諸表に注記をする「開示後発事象」と財務諸表を修正する「修正後発事象」とがあります。前者は財務諸表の表示の確定に影響を及ぼし、また、後者は数字の確定に影響を及ぼします。

この2種類の後発事象についての評価は、財務諸表の作成期間の最終日をもって終了します。その途中の時点で後発事象の有無を検討しても、それ以降に発生した後発事象については財務諸表の開示や修正の漏れが生じるため、財務報告が完遂したとはいえません。

たとえ後発事象が発生していなかったとしても、その評価が漏れていることには変わらないため、やはり財務報告を完遂できていないといえます。

後発事象の評価終了日は、先の流れで示した(1)と(2)の後の時点であり、かつ、(3)の前の時点になります。この時点をもって、財務諸表の数字が「確定」するとともに、財務諸表の表示も「確定」することになるのです。この時点までは財務諸表の数字や表示は決して固まることはありません。

したがって、(1)から(2)へ、(2)から(3)へという財務報告の流れは誤った認識といえます。

 

本書の構成

 

そこで書籍『後発事象の実務』では、後発事象について適切に理解できるよう、次のとおり解説していきます。

第1章 これからの後発事象の対応体制に求められるもの

企業会計基準委員会で開発が進行している後発事象に関する会計基準を視野に入れたうえで、その対応体制や影響について説明していきます。

第1章 これからの後発事象の対応体制に求められるもの
1.新会計基準がもたらす影響
 (1) 注記事例から想定されること
 (2) 後発事象の対応体制に必要な3要素
 (3) 現状の何が問題となるのか


2.評価終了日の注記まで新会計基準に取り込まれるのか?
 (1) 新会計基準の開発状況
 (2) 後発事象の実務の意外なガイドライン
 (3) 評価終了日は明確化されるか
 (4) 評価終了日の注記まで求められるか


3.後発事象の評価終了日に相当する3つの日付
 (1) 監査報告書日
 (2) 財務諸表の公表承認日
 (3) 経営者確認書の日付
 (4) 財務諸表の公表承認日を巡る議論


4.後発事象の対応体制を構築する方法
 (1) 後発事象の対応体制の構築に当たっての内部統制上の課題
 (2) 専門家の手続から解決の鍵を発見する
 (3) 壁を取り払うための2つの選択肢
 (4) 対応体制の構築に時間的な余裕はない


5.後発事象に対応しない場合の監査法人の監査意見
 (1) 開示後発事象の監査報告書における取扱い
 (2) 強調事項を記載する方法
 (3) 開示後発事象を注記しない場合の監査意見
 (4) 修正後発事象を反映しない場合の監査意見

 

第2章 期末日後に発生する後発事象

後発事象の対象となる事象や発生したと考える時点、重要性の考え方など、その実務に当たって直面する各種のポイントを説明していきます。

特に修正後発事象については、具体例を掲載するとともに開示後発事象との違いも説明しているため、「数字も表示も固まっているのに、監査法人の指摘によって、なぜこのタイミングで数字を変えなければいけないのか」という考え方が合理的ではないことが理解できます。

第2章 期末日後に発生する後発事象
1.後発事象への対応が求められる理由
 (1) 会計が果たす機能
 (2) 財務諸表の性質
 (3) 開示後発事象の内容と例示
 (4) 修正後発事象の内容と例示
 (5) 開示後発事象と修正後発事象とを分けるポイント


2.検討すべき事象とは何か
 (1) 財務報告ピラミッドで検討事象を理解する
 (2) 会計事象に該当する2つの事象
 (3) 会計事象には該当しない事象に注意する


3.会計事象はいつ「発生した」と考えるのか
 (1) 自社推進系の後発事象
 (2) 合意系の後発事象
 (3) 突発系の後発事象


4.何をもって「重要」な後発事象と判断するのか
 (1) 開示後発事象における質的な重要性の判断
 (2) 修正後発事象における質的な重要性の判断
 (3) 決裁権限に基づく質的な重要性の判断
 (4) 量的な重要性の2つの構成要素
 (5) 量的な重要性の設定に関する留意事項


5.4つの期間と開示制度別の対応
 (1) 会社法のみが適用される場合
 (2) 金融商品取引法も適用される場合のキーとなる6つの時点
 (3) 「期末日」後から「会社法の計算書類に対する経営者確認書の日付」までの期間
 (4) 「会社法の計算書類に対する経営者確認書の日付」後から「監査役の監査報告書の日付」までの期間
 (5) 「監査役の監査報告書の日付」後から「株主総会の開催日」までの期間
 (6) 「株主総会の開催日」後から「金融商品取引法の財務諸表に対する経営者確認書の日付」までの期間
 (7) 「金融商品取引法の財務諸表に対する経営者確認書の日付」後から「有価証券報告書の提出日」まで

6.連結財務諸表における後発事象の取扱い
 (1) 連結決算日が異なる場合のキーとなる4つの時点
 (2) 「連結子会社等における期末日」後から「連結子会社等における計算書類の公表承認日」までの期間
 (3) 「連結子会社等における計算書類の公表承認日」後から「親会社における計算書類の公表承認日」までの期間
 (4) 「親会社における計算書類の公表承認日」後から「親会社における連結計算書類の公表承認日」までの期間


7.後発事象に関する監査対応
 (1) 経理部門の対応
 (2) 総務部門の対応
 (3) 法務部門の対応
 (4) 関係会社管理部門の対応

第3章 頻出する開示後発事象の記載例

(執筆当時から)最近3年間における開示後発事象の事例を分析した結果を踏まえて、頻出している23のケースについて記載例を掲載しています。

開示後発事象の注記事例の紹介にとどまらず、そのポイントまで解説しているため、後発事象が発生した状況に応じて適宜、注記の文章が作成できるようになるでしょう。

第3章 頻出する開示後発事象の記載例
1.共通事項
 (1) 注記は連単のどちらに必要か
 (2) 前期の開示後発事象は記載すべきか
 (3) 追加情報として注記するケース
 (4) 注記の基本型と4つの要素
 (5) 連単における用語の使い分け
 (6) 記載例の利用の仕方


2.重要な契約の締結
3.確定拠出年金制度への一部移行
4.希望退職者の募集
5.債権の取立不能のおそれ
6.地震による損害の発生
7.重要な訴訟事件等の発生
8.重要な訴訟事件等の解決
9.重要な設備投資計画の決定
10.固定資産の譲渡
11.重要な子会社の設立
12.重要な子会社の株式の売却
13.重要な子会社の解散
14.社債の発行
15.多額な資金の借入
16.資本準備金の額の減少及び剰余金の処分
17.株式の分割
18.自己株式の取得
19.自己株式の消却
20.ストックオプションとしての新株予約権の発行
21.株式の取得による子会社化
22.株式交換による完全子会社化
23.共通支配下の取引等(子会社との吸収合併)
24.共通支配下の取引等(子会社からの吸収分割)

第4章 財務諸表の公表承認日後に発覚する事後判明事実

財務諸表監査では後発事象ともに取り扱われる事後判明事実についての説明になります。いわゆる「不適切な会計処理」が発覚したときに、どのように対応すべきかを具体的に示します。

第4章 財務諸表の公表承認日後に発覚する事後判明事実
1.事後判明事実
 (1) 事後判明事実とは何か
 (2) 明記されていない事後判明事実の典型例
 (3) 後発事象との違い
 (4) 事後判明事実の重要性の考え方
 (5) 2種類の事後判明事実
 (6) 事後判明事実Ⅱと金融商品取引法における訂正報告書
 (7) 事後判明事実Ⅱと会社法における過去の計算書類の訂正
 (8) 会計上の見積りの変更は事後判明事実に該当するか


2.財務諸表の公表日までに発覚する事後判明事実
 (1) 開示制度ごとの事後判明事実
 (2) 監査法人への通知責任
 (3) 事後判明事実Ⅰの監査対応
 (4) 二重日付方式が採用されないことの影響
 (5) 決算スケジュールの変更
 (6) 財務諸表へ反映しない場合の監査法人の対応


3.財務諸表の公表日後に発覚する事後判明事実Ⅱ
 (1) 開示制度ごとの事後判明事実Ⅱ
 (2) 監査法人への通知
 (3) 事後判明事実Ⅱの監査対応
 (4) 監査法人が交代している場合の監査依頼先
 (5) 財務諸表を訂正しない場合の監査法人の対応
 (6) 事後判明事実Ⅱの監査報告書における取扱い


4.内部統制報告制度への影響
 (1) 事後判明事実に伴う訂正報告書の要否
 (2) 内部統制報告書の訂正報告書に係る監査意見

 

想定読者の2つのタイプ

 

本書は、財務報告に携わるビジネス・パーソンのうち、次の2つのタイプを対象としています。

1つは、後発事象に直面したために、今すぐに後発事象に関する理解と対応が必要とされるタイプ

短時間で必要な知識を得られるように、重要な箇所には下線を引いています。開示後発事象についての記載に迫られている場合には、第1章や第2章の下線の部分を理解したうえで第3章の該当箇所をご利用ください。

もう1つは、今後の後発事象の発生に備えて、事前の準備を検討しているタイプ

後発事象という財務報告の最後のピースを埋める意欲に応えられるように、実務において直面する論点や対応策などを各章で解説しています。本書から得た気付きを現状の後発事象の対応体制に組み込み、実践してください。

それでは、後発事象に対応して財務報告を完遂させるために、さっそくページをめくりはじめましょう。

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