札幌か、福岡のどちらか。昔、クライアントの経理の方が、転勤になるとしたら、この2つが良いと話していたのを覚えています。「居たいところ」は、このどちらかだと。
札幌は、食べ物が美味しいのに加えて、ゴルフも安いようで。他のクライアントの方でも、札幌の転勤から戻ってくると、ゴルフの腕前が上がっている傾向がありました。比較的、安価でゴルフを楽しめるそうです。
ただ、冬の時期は、雪で大変。ボクも雪が降るところで育ったため、雪かきのつらさは十分に体験しています。もっとも、スキーといった冬のスポーツが好きな方にとっては、むしろ雪が降ったほうが嬉しいのかもしれません。
一方、福岡も、食べ物が美味しい。特にお魚が美味しいのに加えて、安いとのこと。地元の人が行くようなお店で食べた地場の魚料理は、確かに美味しかった。
冒頭に話したクライアントでは、東京から福岡に転勤になると、奥さんを見つけて戻ってくることが続いたことがあります。そんな事例も、良いイメージを膨らませているのかもしれません。
ボクも一時期は出張が多かった。月に数箇所、全国を飛び回ることも珍しくはありませんでした。また、当時は、担当していたクライアントが札幌に所在していたため、3ヶ月に2回くらいは北海道に行っていましたよ。
札幌出張の最初の頃は、チームの後輩に夕食のお店選びを任せていました。ところが、徐々にお店の開拓心がうずき出します。で、いろいろと調べまくったうえで、お店をチョイスする。いつの間にか、それがボクの係になっていました。ま、好きでやっているんですけどね。
最初は観光客が訪れる有名店から始まり、やがて地元の人が通うお店へとシフトしていきます。海鮮もあれば、ジンギスカンもある。ラーメン屋さんも2次会用として、当然に押さえている。
しかし、5年も札幌出張が続くと、さすがに毎度毎度、海鮮やジンギスカンという選択肢も避けるようになってきます。あまりにも同じ場所に行くと、非日常が日常になるから。特に珍しくはなくなるのですね。
なので、5年目の最後のほうは、札幌に出張しているのに、わざわざ「餃子の王将」に行き出す始末。海鮮よりもジンギスカンよりも、チャーハンと餃子が食べたくなっていました。
そこまでの感覚になっておきながら、最近では出張そのものが減ったため、札幌や福岡が恋しい。これらの土地が、日常から非日常へと振り戻ったのです。
こうした日常は、「コンフォートゾーン」と呼ばれます。心地よい現状といった意味を表す専門用語。ビジネスやキャリアの文脈に照らすと、そこから抜け出さなければ、イノベーションは起きないし、成長もできない。現状に安住していると、現状とは違う未来は出現しないのです。
しかし、頭では現状を抜け出すことが良いと理解していても、なかなか行動には移せない。現状を変化させることができないでいる人も多いでしょう。これは、現状を維持しようとする脳の働きによるため。
そこで、認知科学者の苫米地英人サンは、数々の著作を通じて、目指す世界をコンフォートゾーンとすべきと説きます。その結果、行動がそちらの世界へとシフトしていくからです。
例えば、札幌や福岡に出張で行きたいなら、それをありありと感じられるようにする。目に見えるもの、耳に聞こえるもの、身体で触れられるもの。そうした環境を札幌や福岡のもので取り囲む。その状態がコンフォートゾーンになると、そうではない現状にいることが不快になってくる。すると、自ずと行動に移っていくというワケ。
ボクの願望は、まだ、そこまでに強くはないため、心底からの想いではないことがわかります。「行けたらいいな」という程度に過ぎない。だから、出張しない現状を生み出しているのです。
こうして分析してみると、強烈に切望しているものじゃないことがよく理解できます。それというのも、東京のお店でも、札幌や福岡の味をそれなりに満たせるからかもしれません。
えっ、出張といいながら、現地で食事がしたいだけの話になってるって。おっと、「痛いところ」を突かれた。そりゃあ、出張では呼ばれないハズだ。「居たいところ」じゃないのですからね。