Accounting

有報で感応度分析を記載している企業を調べたら

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

2020年3月期から、有報の前半で、記述情報の開示を充実することが決まっています。それについては、ブログ記事「開示事例の分析はボクにお任せあれ」や「投資家との対話を促すダイアログ・ディスクロージャー」「「重要な会計上の見積り」開示はこう対応する」で紹介したとおり。

 その対応でキーとなると考えているのが、感応度分析。感度分析とも呼ばれます。企業の人材や組織能力開発について研修やコンサルティングを行っている福澤英弘サンの『定量分析実践講座―ケースで学ぶ意思決定の手法』(ファーストプレス)では、次のように、定義されています。

経営上の変数が、ある一定の振れ幅を取ったときに、求めたい結果がどの程度変化するか、その影響度を測定し、意思決定に活用すること。最悪のケースを把握しておく目的でなされることも多い。

 この感応度分析は、有報の前半の記述情報で用いる場合には、会計上の見積りに関する項目が対象となります。それらの結果に最も影響を与えると考えられる要素について、会計で適用した指標はこうだけど、もし違う指標ならこうなる、と記載するのです。

 例えば、減損会計なら、将来計画が○パーセント減少しても減損の計上には至らないとか、退職給付会計なら、割引率が○パーセント上下すると、退職給付債務や退職給付費用がこうなるとか。このように、会計上の見積りを違うシナリオにした場合のインパクトを示すのです。

 これ、KAM(監査上の主要な検討事項)に伴う追加的な企業の開示にも対応できるスグレモノだと考えています。なので、最近のボクは、感応度分析という指標を推しています。推しメンならぬ、推し指標。

 というのも、金融庁サンが「記述情報の開示の好事例集」を公表し、また、その中で感応度分析が紹介されていたため。きっと、まだまだ普及していないから、こうして紹介しているのだろうと考えていました。

 ただ、それは推測に過ぎないため、実態を調査してみました。ここ1年くらいの有報を対象として、「感応度分析」という用語を記載している上場企業の数を調べました。一体、いくつだと思いますか。

 その数は、ズバリ、183社。

 上場企業が約3,600社とすると、「感応度分析」という用語を記載しているのは、5%程度。S字カーブの理論でいえば、市場普及率が10%を超えると成長期になるため、まだまだ導入期。

 これらを会計基準別に分類すると、IFRS基準が148社(80.9%)で大多数を占めています。SEC基準が3社(1.6%)と意外に少ない。で、日本基準が32社(17.5%)。ただし、日本基準のうち銀行業が22社(12.0%)という内訳。非上場の有報提出企業のうち、感応度分析の文字を有報に記載していたのも銀行業が多かったことから、金融の世界では普及率が高そう。

 こうした結果から、感応度分析を記載している企業は、極めて少ないことが定量的に理解できました。もっとも、感応度分析と記載していなくても、実質的に実施している可能性があるでしょう。また、「感度分析」で検索すると、もう少し増える可能性もあります。とはいえ、「感応度分析」という用語を記載していても、それによる影響までは記載していない可能性もあります。いずれにせよ、普及というレベルには至っていないといえます。

 まずは知ってもらうことから始め、次に実際に使い始めてもらい、最終的には記述情報の開示にまで至ってもらう。こうした段階を経ていく必要がありますね。そんな普及活動をボクなりにしていくつもり。このブログ記事も、その一環。

 差し当たって、S字カーブ的には、現状の2倍にまで引き上げないと。記述情報の開示の充実に関する規則の適用初年度から360社を超えると嬉しいな。続きは、このブログ記事にいいねやツイートをした後で。

 

P.S.

日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。

 

P.P.S.

 感応度分析については、拙著『ダイアローグ・ディスクロージャー』でしっかりと解説いたしました。有価証券報告書の記述情報でどのように開示されているのかが理解できます。

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