働き方改革。これについては、肯定派と否定派に分かれます。その是非は置いておいて、キャリアの観点から気になるのは、成長の機会をなくす懸念。
働き方改革によって、成長の機会を失うビジネスパーソンが出てくるだろうなと感じることがあります。
定時内にトレーニングを受け、また、成果を出していくことは、誰にとっても等しく組織から提供されます。一方で、定時外にも鍛錬を積む人もいます。スポーツで言えば、マウンドやフィールドに立っていないときのトレーニングのように。
ボクは10年ちょっと前に、所属している組織で、「プレゼン研修」を企画・運用していたことがあります。これは、入社して数ヶ月の新人に、研修講師をさせるもの。
目的は、講師を務める新人を育てるための研修。で、その研修を聞いているベテラン勢が、プレゼンの仕方についてフィードバックするもの。講師が学び、参加者が指導するというように、研修の主従が逆転しているのです。
当時、ボクが仕切っている現場にAくんが配属されました。大学を卒業したての4月に、期末監査の現場に投入されたのです。
Aくんはとにかく動き出すタイプ。また、やる気に溢れていました。
5月に入って、ボクはAくんと雑談していたときのこと。当時、セグメント開示が導入されようとしていた頃のため、その影響について、ボクの見立てを話していました。
すると、Aくんは、その見立てに関心を持ったようで、「竹村さん、この話、皆んなが知っておいた方が良いですよ」と話します。
なのでボクは、「じゃ、Aくんが、事務所で研修講師をしてみようよ。やり方は教えるから」と振ったところ、彼は「やります!」と即答。そこでボクは、日時、方法などを事務所内で調整をし、発表の場を2カ月後に用意します。
プレゼンは20分で、質疑応答が10分。研修資料の枚数は10枚以内。そんな条件と、プレゼンの本を紹介して、Aくんは準備に入ります。
当日の3日前には、通し稽古。ただし、日中は業務があるため、お互いに定時外の対応。彼が発表するのをボクがチェックして、フィードバックする。何点も挙がったコメントは、当日までに直してくる。
で、本番。
数十名のベテラン会計士を前にして、堂々とプレゼンを始めます。とても、3カ月前まで学生だったとは思えないほどの振舞い。
研修の内容としても、プレゼンとしても、すこぶる評判が良い。見事、大成功で終えることができました。これも、Aくんが定時だろうが何だろうが、意欲的に取り組んだおかけ。時間外であっても、自ら成長を目指したから。
しかし、今はこうした機会を提供するのが難しい。働き方改革で残業規制が強まっているから。もちろん、ストレスフルな環境なら長い時間にさらされては精神的に良くない。それはやめるべきもの。
一方で、ストレスレスな環境なら、Aくんのような目覚ましい成長も可能になる。夢中になって取り組むことが、結果的にキャリア形成につながります。
ただ、法規制としては、その区別は難しいため、一律の規制にせざるを得ない。そのことも重々承知していながらも、あのような形式の場を提供しにくいのが残念。
だから、キャリアを積んでいきたいと考えているなら、誰かが何かを自分のために用意してくれることを待っていては、ダメ。それが、いつになるかがわからないから。待つのではなく、自らチャンスを掴む姿勢が以前よりも求められるのです。
とはいえ、時間外の管理が厳しいことから、それは組織の外に向かわざるを得ない。だから、働き方改革で、ますますチャンスはつかみにいかないといけないと感じたのです。
組織の外に向かうとしても、まずは外に何が起きているかのアンテナを張っておかないと、興味を持つことができない。そのためには、本屋に寄ってみてはいかがでしょうか。ピンとくる本に出会えるかもしれませんよ。