Accounting

対話を知らない経営者たち

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ただ話し合うだけで「対話」になると思うなら、あなたは対話のことを何も知らない。

 ビジネスの世界では、今、対話の必要性が叫ばれています。それは、財務報告の世界でも同じ。

 例えば、日本の金融行政は、企業と投資者とが対話することを求めています。実際、コーポレートガバナンスコードやスチュワードシップコードに対話をすることが明記されています。

 また、企業と監査人との間にも、対話が促進されることが求められています。それは、KAM、すなわち、監査上の主要な検討事項の導入によって期待されていることが監査基準に明記されています。

 このように「対話」と一口に言うけれど、その意味するところが、果たして、どれだけ理解されているのだろうか。ボクはかなり疑問に思っています。そもそも、「対話」の現場を体験した人がどれだけいるのでしょうか。

 話し合うだけでは、対話にはなりません。対話とは、ダイアローグ(dialog)のこと。これとよく間違えられやすいのが、ディスカッション(discussion)。

 ディスカッションは、語源からは分析を重んじています。そのため、自分の意見が勝つことを目的としていることが多い。取引や交渉とも呼ばれます。

 ちなみに、ディベートも勝つことを目的としています。しかし、自分の意見ではなく、自分が担当することとなった意見を勝たせることがゴール。だから、自分の意見とは対立する意見の担当になっても、与えられた立場を全うします。例えば、死刑制度に反対するのが自分の意見でも、肯定する立場が割り当てられたなら、全力で否定派を潰しにいかなければなりません。

 こうしたディベートやディスカッションとは違って、対話は勝つことを目的とはしていません。このことを端的に示しているのは、物理学者であり思想家でもあるデヴィッド・ボーム氏による『ダイアローグ――対立から共生へ、議論から対話へ』(英治出版)です。

 

 ボクなりにまとめるなら、対話とは、新しい気づきが得ることを目的としたもの。そこには勝ち負けもなければ、説得も交渉もありません。

 対話では、まず話し手が話をします。次に、聞き手がそれに返答します。このときに、話し手は、聞き手が十分に理解していないことを知ると、互いに共通していながらも別の内容で話し出します。ここに、新しい内容が付加されます。新しい観点や方向性が与えられることもあります。

 この往復が繰り返えされることによって、「話している双方に共通の新しい内容が絶えず生まれていく」のです。それは、互いが既知の情報を交換する場ではありません。そうではなく、新しいものが生み出される場なのです。これが対話の真の効果。気づきが生み出されるプロセスが特徴的。

 だから、対話とは、書面だけでは無理。なぜなら、書面は、言いっ放しの一方通行だから。有価証券報告書を提出しているから対話は不要なんて理由はどこにもない。いや、ありえない。

 投資家やアナリストと対話することに否定的な経営者がいるとしたら、それは対話というものを知らないだけ。ただ話し合うだけでは「対話」ではないのですから。

 公表されている資料によると、自分のビジネスに有益なアドバイスをくれるアナリストと話をしたいと考えている経営者がいるそうで。泥坊根性も甚だしいったらありゃしない。そんな有益なアドバイスをお金も払わずに得られると考えていること自体がそもそもおかしい。

 もっとも、アナリスト側が何も調べてこないという批判の声も聞こえます。しかし、それは、その会社の開示の姿勢や方法が悪いことだってあり得ます。そういう批判の根底には、有益なアドバイスがもらえるなら会ってやろうという、上場企業の経営者としての自覚のなさが垣間見えます。ア・リ・エ・ナ・イ。

 そんな姿勢を改善されるなら、財務報告はもっと有益なものになると確信しています。そんな主張を早くまとめないといけませんね。まずは、執筆のための時間をルーティンとして確保しなければ。

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