明治初期、終戦後という価値観が大きく変わるタイミングで、多くの日本人が読んだ本は何か、ご存じでしょうか。
明治初期とは、江戸時代が終わったばかりの頃。それまで幕府が治めていたところに、民主主義なるものが入ってきた時代。また、1945年に終戦を迎えたことによって、アメリカの自由主義が花開いた時代です。
どちらも、大きく価値観が変わった点で共通していますよね。鎖国で閉じこもっていたところに近代文明が押し寄せてきたり、「欲しがりません、勝つまでは」と唱えていたところに大量消費を謳歌するようになったりと、何もかもが180度転換した時代の変わり目。
これらの変わり目に日本で読まれた本とは、『学問のすゝめ』。福沢諭吉の代表作のため、すでに読んだことがある人もいれば、読んでいなくてもタイトルは知っているという人もいるでしょう。あいにく、ボクは後者のほう。
そろそろ内容を理解したいと思いながらも、いきなり原文はハードルが高い。福沢諭吉が伝えたいメッセージを解説した本はないかと探して見つけたのが、作家の橋本治サンによる『精読 学問のすゝめ』(幻冬舎)。
もともと橋本治サンの著作のファンであったため、これを購入。ただ、まだ読むタイミングではないと感じたため、そのまま積ん読の状態でした。「いい加減、読まないと」と思いながらも、心は「まだだ」とストップをかける。
で、新型コロナウイルスによって外出が自粛される中、この本に手が自然と伸びる。ようやく読み始めるに至ったのです。しかも、1日1章分と、ボクにしては珍しく、ゆっくりとしたペースで読み進めていきました。
橋本治サンによれば、『学問のすゝめ』とは、ひたすら「勉強しろ!」と啓蒙する本だということ。実学を身につけることを説きながらも、それに続くのは、稼ぐことではない。それを、当時の時代背景や福沢諭吉の思想などを踏まえながら、その内容を解きほぐしていきます。
実学を身につけた先には、「独立しろ」と説きます。福沢諭吉は、「身も独立し家も独立し天下国家も独立すべきなり。」と述べているとおり。ただし、ここでいう「独立」という言葉の意味に注意が必要です。
橋本治サンいわく、「埋没した存在から立ち上がれ」と解釈すべきとのこと。何かの依存状態から脱する意味ではありません。明治になったばかりの日本が、世界の列強と呼ばれる国々からみれば、埋没している状態にあったと福沢諭吉は認識していたと解釈します。そこで、このように読むことを伝えています。
この『学問のすゝめ』は、「実学を身につければ得になる」ということを説く本ではありません。「明治になって、日本は新しい段階に入ったが、まだ確固となんかしていない。みんなで日本を支えなければならない。そのためにみんなが学問をしなければならない。」と言う本なのです。
ここで、今の状況に近いものを感じました。今だからこそ、『学問のすゝめ』のメッセージを実践すべき時期だと。
新型コロナウイルスによって世界中の国や地域でロックダウンが行われる結果、人々の自由が制限され、また、経済にも制約が課される結果、まるで戦時中のような感覚にとらわれることもあるでしょう。実際、「第3次世界大戦」と表現されることもあります。
こうした中で、現在また将来に、世界中で価値観が切り替わっていくとの指摘があり、また、そういう捉え方をすることも以前より増えてきました。つまりは、新しい段階に入っていくと。
しかしながら、今後、訪れる世界はまだ確立していません。まだまだ予測にすぎず、その形すら見えていない状態。裏を返せば、誰もが悩み考えているのであって、安心安全の未来へと誘導してくれる人は登場していません。
すると、個々人が情報を集め、知識に昇華させ、具体的な行動として実践していくことが必要です。そのためには、「学び」が不可欠。このように、コロナの状況下において自らの足で立つことの重要性が理解できるのです。
もちろん、現状に降りかかる事象や状況への対応に精一杯なこともあるでしょう。とても学ぶ余裕はないと考えるかもしれません。
ただ、わずかに余裕があるのなら、例えば1日に10分でも自由になる時間があるのなら、ほんの少し先の将来にどう生きていくかを考えておくことは、来るべき時代に備えられます。
こちらのブログに訪れる人なら、時代の変わり目に溺れてしまわないよう、ともに「学び」を続けていきましょう。