あなたは、何かを買ったり選んだりするときの基準は、感情? それとも、ロジック?
これは、ビジネスモデルの要素でいう「チャネル」の問題。顧客にどうリーチするか。この問題について、マーケティングの世界では、ひとつの見解があります。それは、商品を買うと決めるときの人の心の中で起こっていることを表したもの。それは、「感情で決めて、論理で納得する」という順番だそうで。
人は何かを買うと決めるのは、ピンと来るかどうか。心が動かされるのが先。でも、それでは衝動買いのようで後ろめたい。だから、その買い物が正しかったよと納得する根拠を求めるのです。
このピンと来るかどうかは、それを買って得られる状態とも言える。商品そのものよりも、商品を買ったことで得られる感覚というか。それを持っていることでカッコいいとか、モテそうとか、安心できそうとか。
反対に、根拠とは商品の特徴やスペック。あることが他社よりも何パーセント高いとか増えたとか、従来よりも機能が追加されているとか、初めてできるようになった機能があるとか。カタログや取扱説明書に具体的な数値で記載されているものになります。
例えば、あなたがボクの本を買ったとします。『後発事象の実務』かもしれませんし、『繰延税金資産の回収可能性の実務』(以上、中央経済社)かもしれません。もしかすると、これから発売される予定の『ダイアローグ・ディスクロージャー(仮): KAMによる財務報告イノベーション』(同文舘出版)を買おうとしているのかもしれません。
このとき、さきほどのマーケティングの見解によれば、何かはわからないけど「欲しい」と思ったから買ったことになります。これを読むことで、会社の上司から褒められそう、担当会計士と肩を並べて協議できそう、といった状態を意識的あるいは無意識に感じたから。
ただ、それでは購入したことを正当化しにくいことがあります。会社の経費として買う場合には、稟議書で上司を納得させる場面もありますからね。
そこで、基準のコピペではない深堀りした記述がある、研究学会で発表している、多くの単著を発刊している、会計士としての経験が長い、などの客観的なデータを集めて納得感を得ているといいます。
先日、ボクもこの理論を実際に経験しました。来月に発売予定の単行本『ダイアローグ・ディスクロージャー』の表紙デザインについて、編集担当者から送っていただきました。提案されたのは、3パターン。
実は、3つの表紙を見て、「これだ!」とピンと来たものがありました。ただ、それではセンスだけに頼っているようで不安がつきまとう。そこで、文字の大きさはどうだ、使われている色はトレンドに合っているかと分析しだします。家族にも意見を聞くような状態。
でも、娘にビシッと言われましたよ。「自分の好きなもので良いじゃん」と一蹴。そう、自分の選択を裏付けるような根拠を集めていたことに気付かされたのです。2020年のトレンドカラーを調べたのも、ロジックを求めたから。センスだけじゃ怖かったのです。
このときに思い出したのが、「感情で決めて、論理で納得する」という順番。まさに、そのとおりでした。もっとも、感情を動かす前に何を仕掛けるか、なんて上級のマーケティングもありますが、やはり、ピンと来るかどうかが鍵であることには変わりない。
そういや、ボクが何かを呼びかけるときに、「ピンと来たら」というフレーズを好んで使っていることに気づきました。ピンと来たらご参加ください、とかね。で、ボクが3つの表紙デザインから選んだものは・・・、来月の発売までお待ちください。