こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
先日、とある上場企業の役員さんから、監査人から提示されているKAMドラフトについての相談を受けました。そう、2021年3月期以降から強制適用となる、アノ「監査上の主要な検討事項」の草案です。
KAMドラフトの第一印象
ドラフトを拝見した印象は、「これ、監査人さんのほうが突っ込まれるかも」でした。というのも、監査上の対応の記載が、基準や指針などの言い回しで埋め尽くされていたから。
ボクも監査人の立場でKAMのドラフトを作成していた経験があるため、その気持ちがよくわかります。正確に記載しようとするほど、基準などの言い回しをせざるを得ないのも事実。また、そのほうが突っ込まれるリスクも少なくなるため、安心感も得られます。
ただ、それだと、どのKAMも同じ内容になってしまいます。KAMの内容の記載はクライアントによって色があるものの、監査上の対応の記載に至っては、基準などの言い回しによると、どの監査でも同じになります。基準などの要求事項に基づくのは、どの監査人も当然のことだから。
KAMで記載すべき内容とは
KAM制度は、そんな報告を期待してはいません。財務諸表監査に固有の情報が記載されることが期待されています。すると、KAMで記載すべきは、その要求事項をどう実施したのか、ということ。
えっ、その記載の仕方に困っている、って。
大丈夫。心配ありません。ちょっとだけ視点を変えれば、制度趣旨に合ったKAMを報告することができるから。自信をもって監査を行っているなら、なおさらのこと。それをそのまま文章にするだけ。
優良なKAMを書くための「視点」の転換
その視点とは、「What」から「How」への転換。要求事項が「What」だとすると、財務諸表監査に固有の情報とは「How」といえます。つまり、要求事項にどう対応したのかを記載するのです。
要求事項に応えたことをアピールしようとすると、「あれもした」「これもした」と詰め込みすぎてしまいます。手続の種類で勝負しようとしている。それも大事な局面もありますが、ここはKAMの記載。すでに、その決定理由で何を重要と判斷したかを絞り込んでいるハズ。
ならば、その絞り込まれた事項に対して、どういった種類の手続だけではなく、その手続をどう実施したのかを適格さのほうが、記載の流れとして適しています。KAMの読者としても、KAMの内容や決定理由で記載されたことに、どう向き合ったかに関心があります。
実際、日本におけるKAM早期適用事例の中でも優良なものは、この「How」が充実しています。同じ領域を取り上げたKAMを並べてみると、違いは「How」。
その視点を表現するためにすべきこと
この「How」を表現するのに最適なのは、具体性。固有名詞や数字を使って記載していけば良い。これこそが財務諸表監査に固有の情報なのです。先日、拝見したKAMドラフトも、真っ当に監査を行っているならば、「How」を記載していくことで優良な事例に変わるはず。
これは何も、監査人だけの話ではありません。企業にとっても無視できない話。KAMの記載が浅いと、株主や投資家から「経営者や監査役等は、監査人に何を伝えているんだ」と財務報告の姿勢が悪いと受け取られかねないから。
そのためにも、KAMの早期適用事例から優良なものを分析することは、監査人のみならず、企業にとっても意味のあることなのです。
P.S.
もしあなたが、「KAM早期適用の優良事例について詳しく知りたい」と思ったなら、こちらの書籍がおすすめです。2021年2月に発売されたばかりの本なので、ぜひ、チェックしてみてください。