こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
KAM(監査上の主要な検討事項)と同時期に強制適用となるのが、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」。略して「見積り開示会計基準」と呼ばれることがありますね。
で、改正された財務諸表等規則には、注記すべき事項が定められています。財務諸表等規則の第8条の2の2第1項によれば、次のとおり。
- 重要な会計上の見積りを示す項目
- 上記項目のそれぞれに係る当事業年度の財務諸表に計上した金額
- 上記金額の算出方法、重要な会計上の見積りに用いた主要な仮定、重要な会計上の見積りが当事業年度の翌事業年度の財務諸表に与える影響その他の重要な会計上の見積りの内容に関する情報
ここで、質問。あなたは、この項目に沿って箇条書きしていこうとしているでしょうか。もちろん、それは間違いではありません。ただ、それだと書きにくいケースがあるのも事実。
箇条書きした場合
ここで、のれんの評価を例にして考えてみます。KAMでよく取り上げられる論点のため、見積り開示会計基準に基づく注記でも頻出すると予想されますからね。
もし、箇条書きで開示すると、次のような記載が考えられます。
重要な会計上の見積り項目 | のれんの評価 |
当事業年度の財務諸表に計上した金額 | XXX百万円 |
重要な会計上の見積りの内容に関する情報 | (略) |
このような書き方ができるのは、のれんが1社の取得から生じているから。
残高の一部が取り上げられるケース
これに対して、のれんが複数の会社の取得から生じている場合があります。その場合、そのすべてを注記対象とするケースもあれば、その重要な一部だけを注記するケースもあり得ます。
実際、IFRSを適用している海外企業の開示でも、残高の一部だけを注記しているケースが見受けられます。構成要素のうち重要なものに絞り込んだうえで、重要な会計上の見積りに関する開示を行っているのです。
そのとき、箇条書きにすると、こんな感じでしょうか
重要な会計上の見積り項目 | のれんの評価(A社に係る部分) |
当事業年度の財務諸表に計上した金額 | XXX百万円(A社に係る部分) |
重要な会計上の見積りの内容に関する情報 | (略) |
まあ、書けなくもないですが、カッコ書きの説明がうるさいですよね。
文章形式で書く方法もある
見積り開示会計基準は、IFRSを念頭に置いて開発されています。そのIFRSを適用している海外企業は、基本、文章形式によって重要な会計上の見積りに関する開示を行っています。
一部、表形式を使うとしても、感応度分析の中で、見積りの主要な仮定の変動を表現するため。シミュレーション結果をわかりやすく表示することが目的のため、箇条書きするための表形式とは意味が違います。
仮に、さきほどの記載を文章形式に変えたときには、次のようになります。
「A社の取得によって生じたのれんの残高は、当事業年度末現在、XXX百万円です。この評価にあたっては、・・・(略)・・・。」
(出所)筆者作成
随分とスッキリとしますよね。また、書きやすくもあります。
各種注記のフォーマットの根拠
財規の個々の条文は「これを書きなさい」という指示であって、開示のフォーマットまで拘束したものではありません。フォーマットの規定は、「様式第○号」として掲げられたもの。具体的には、本表やセグメント情報、関連当事者、附属明細表など。
つまり、「様式第○号」として掲げられたものでなければ、どのような記載の仕方であっても問題ないのです。もっとも、会計基準で開示のフォーマットが示されたものがあるなら、それに準拠することが適当なのは言うまでもありません。
一方で、これらがない注記事項であっても、どの企業もフォーマットめいたものが採用されているものがあります。その出所は、財務会計基準機構(FASF)によるセミナーで配布された資料に掲載されたもの。ひとつの例示なのです。
予想される展開
見積り開示会計基準による注記は、「様式第○号」が定められておらず、また、会計基準にもフォーマットがありません。そのため、FASFの例示を待つか、あるいは、各社が自ら考えるかのどちらか。
このブログをアップした2021年3月22日現在では、FASFセミナーが開催されていないため、見積り開示会計基準の注記フォーマットは提示されていません。もしかすると、使い勝手の良いフォーマットが登場する可能性も否定できません。
ただ、海外企業におけるIFRSの開示例を踏まえるなら、文章形式となるものと考えられます。また、記載例を出さない方針のため、フォーマットが提示される保証もありません。
1点、付け加えるなら
1点だけ付け加えるなら、先ほどの文章形式に、「のれんの評価」といった見出しを付したほうが良い。というのも、連結財務諸表の他の注記に同じ内容を記載しているときに、その旨を記載すれば、「重要な会計上の見積りを示す項目」以外を省略できるため。
反対にいうと、「重要な会計上の見積りを示す項目」だけは必ず開示が求められます。そこで、見出しとして付しておくことで省略規定を用いても要求事項を満たすのです。
いかがでしょうか。見積り開示会計基準の対応について、今、2つの選択肢があります。
ひとつは、FASFセミナーを待つ選択肢。もうひとつは、文章形式の採用を仮決めし、また、開示する内容の検討を決算前に済ませておく選択肢。
さて、あなたは、どちらを選びますか。
P.S.
この続編は、ブログ記事「減損会計で、見積り開示会計基準「その他の情報」はこう書く」として投稿しています。合わせて、ご覧ください。
P.P.S.
Twitterで、見積り開示会計基準への対応についてつぶやいたときに、思いの外、反響があったため、急遽、関連資料をリリースすることとしました。ご興味のあるかたは、こちらから入手してください。
P.P.P.S.
文章形式で検討を進めていくと決めた次には、見積り開示会計基準の注記で何を書けばよいかを検討することになります。この記事の反応が良ければ、続きを書くかも。
それまでは、こちらの書籍がお役に立ちますよ。KAMの本ですが、目的は財務報告の充実のため、見積り開示会計基準への対応も念頭に置いた解説をしています。
P.P.P.P.S.
見積開示会計基準に関する徹底解説について、書籍『伝わる開示を実現する「のれんの減損」の実務プロセス』でおこないました。こちらもご覧ください。