Accounting

2度目のKAMの第2号

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。

今日の2021年6月9日は、2度目のKAMの第2号が登場しました。2020年3月期にKAMが早期適用されていた企業で、2021年3月期のKAMが報告されました。

すると、前期からKAMの記載がどう変わったかについて関心が高まります。また、内部統制的にも関心が集まる事例でした。

簡単なところをお伝えしますね。

2度目のKAM事例

(1)事例

  • 証券コード 8697
  • 会社名 ㈱日本取引所グループ
  • 業種 その他金融業
  • 開示書類 有価証券報告書
  • 決算日 2021年3月31日
  • 監査法人 有限責任監査法人トーマツ
  • 会計方式 IFRS

(2)強制適用によるKAM

連結財務諸表の監査報告書に記載されたKAM

  • 収益認識に関するIT統制の評価
  • ソフトウエア及びソフトウエア仮勘定の評価

個別財務諸表の監査報告書に記載されたKAM

  • 関係会社株式及び関係会社出資金の評価

(参考)早期適用によるKAM(監査人は同一)

連結財務諸表の監査報告書に記載されたKAM

  • 収益認識に関するIT統制の評価
  • ソフトウェア及びソフトウェア仮勘定の評価
  • 株式会社東京商品取引所の連結子会社化

個別財務諸表の監査報告書に記載されたKAM

  • 関係会社株式及び関係会社出資金の評価

早期適用から変化した点

早期適用の連結のKAMのうち「株式会社東京商品取引所の連結子会社化」が報告されていません。これは前期に発生した事項であるからです。これを除けば、連結も単体も早期適用されたKAMと同一の内容が報告されました。

細かいところでいえば、連結のKAMの「ソフトウエア及びソフトウエア仮勘定の評価」の表記の仕方。前期はソフトウ【ェ】アと小文字だったところ、当期はソフトウ【エ】アと大文字に変更されていました。

また、個別のKAMでは、2021年3月期から強制適用となった企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」への言及がありました。「財務諸表注記『重要な会計上の見積り』に記載のとおり、関係会社株式等の評価には一定の不確実性があり」と、当期からの注記を参照させるような報告となっています。

注目したい、連結のKAM「収益認識に関するIT統制の評価」

早期適用から変化した点として注目したいのが、連結のKAM「収益認識に関するIT統制の評価」です。

まず、KAMの内容及び決定理由の箇所において、前期に「arrowheadのバージョンアップや現物清算システムのリプレース」があったと、その年度に固有の事象が記載されていました。このままの文章では当期に記載できません。そこで、「マスタ管理システムや取引データ蓄積システムなど財務報告上の重要な一部のシステムのインフラ更改」と書き換えが行われています。

次に、KAMへの対応の箇所では、当期に固有の記載が追加されていました。それは、昨年話題になった東証のシステム障害です。これについて、全般統制や業務処理統制の有効性への影響を評価した旨が記載されています。

この点、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』でも解説したところです。システム障害そのものが内部統制にあたって重要な不備と扱われることはないだろうとの見解を示しました。実際、内部統制報告書でもこれを重要な不備とは扱っていません。

それにしても、KAMで特定のシステム障害に関して全般統制や業務処理統制に着目されているにもかかわらず、それに触れないどころか、前期の内部統制報告書と一字一句変わっていない記載となっています。これ、内部統制報告制度が形骸化している点として指摘できます。

KAMで内部統制に着目しているときには、内部統制報告書でも何かしらの言及が必要ではないか、ということは、2020年の日本内部統制研究学会ですでにボクが報告したとおり。当学会の機関誌にボクの報告内容が収録される予定のため、発刊されたときにはお知らせしますね。

その前に、一度、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』で同社のKAMについての解説をご覧ください。こんな内容を説明しています。

  • 来期も同じKAMが報告される場合の実務上の工夫
  • ITシステムの障害とKAMとの関係
  • システム投資で忘れがちな会計上の論点
  • KAM決定理由で珍しかった「通例ではない取引」

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