Accounting

その他の記載内容の早期適用と、サステナビリティ保証

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こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。

KAM(監査上の主要な検討事項)が2021年3月期に強制適用された事例を調べていたところ、監査報告書の中に、見慣れない記述に目が止まりました。それは、「その他の記載内容」についての記述。

これは、「監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容」のこと。有価証券報告書でいえば、経理の状況より前の部分をイメージすると良いでしょう。最近の言葉でいえば、「記述情報」ですね。好事例集が出ている、アレ。

最近の監査基準の改正を受けて、この「その他の記載内容」に対して手続を実施した結果について、監査報告書に記載するよう制度に変更されます。その適用時期は、2022年3月31日以後終了する事業年度から。ただし、2021年3月31日以後終了する事業年度から早期適用することもできます。

つまり、ボクが見かけたのは、「その他の記載内容」の早期適用の事例でした。ちょうど、昨日の2021年7月3日、日本監査研究学会の第44回西日本部会で、この話題が出たばかり。それも、監査ではなく、非財務情報の保証問題をテーマとする中でのこと。

いよいよ、企業の方は、財務報告について非財務情報や環境情報も視野に入れて取り組まなければならなくなってきましたよ。そんな話をシェアしますね。

EUで、サステナビリティ開示と保証が始まる

西日本部会の報告でボクが一番印象に残ったのは、関西大学の上妻京子教授の報告です。なんでも、2021年4月にEU企業サステナビリティ報告指令案(CSRD案)が公表されたことを受けて、2023年1月1日からサステナビリティ報告に対する保証が義務化されるとのこと。

アニュアルレポートには、財務諸表だけではなく、その他の情報、いわゆる「その他の記載内容」も記載されています。このうち経営者報告書と呼ばれる範囲におけるサステナビリティ報告の部分については、法定監査人が保証を行うのです。

日本で置き換えるなら、例えば、有価証券報告書の前半部分にサステナビリティ情報の開示が求められるのに加えて、監査人の監査を受けるようなもの。そんな事態が、EUでは、あと2年もすると、義務化されるのです。「その他の記載内容」に対する手続との関係も気になるところですが、それについて討論が始まる前に時間終了となりました。

「その他の記載内容」の早期適用事例

日本では、まだサステナビリティ保証どころか、開示も制度化されていない状況です。そのため、国内展開だけを行っている企業にとっては、対応はまだ先になるかもしれません。

しかし、「その他の記載内容」については、ボクが見かけたとおり、すでに早期適用が始まっています。そこで、その状況を調べてみました。調査の結果、上場企業に対する財務諸表監査で「その他の記載内容」が早期適用された事例は、次の3社でした。

上場企業 監査人
㈱三菱UFJフィナンシャル・グループ 有限責任監査法人トーマツ
クラスターテクノロジー㈱ 清友監査法人
ワイエスフード㈱ HLB Meisei 有限責任監査法人

もっとも、㈱三菱UFJフィナンシャル・グループの子会社で有価証券報告書を提出している次の3社でも、「その他の記載内容」が記載されていました。ちなみに、この3社は、前期の2020年3月期において親会社とともに、KAMが早期適用されていました。

  • 三菱UFJ信託銀行株式会社
  • 株式会社三菱UFJ銀行
  • 三菱UFJ証券ホールディングス株式会社

同社では、海外市場向けに国際監査基準に基づき、すでに「その他の記載内容」に対する手続も実施されていたのでしょう。そのため、2021年3月期から特別に追加されたものではなかったのかもしれません。とはいえ、同じ状況にありながらも、こうして日本の監査報告書で報告していない企業もあるため、その姿勢は評価されるべきものです。

なお、非上場の有価証券報告書提出会社では、2社について「その他の記載内容」が監査報告書に記載されていました。

開示姿勢が問われる企業と監査人

KAMもそう、「その他の記載内容」もそう。新会計基準でも、開示規則でも、先行して適用していく企業と、常に横並び意識の姿勢の企業とで真っ二つに分かれています。また、後者では、強制適用まで待っていながらも、その趣旨を理解していないような事例もあります。これは、監査人も同じ。

こうした状況になる原因として、ボクが考えるに、財務報告に関する状況の変化を捉えきれていないかと。特に管理部門への投資を抑えている企業では、大きく変わろうとしている変化の波に乗り切れないのは必至。その辺の板切れで、伝説の波「ジェーン」に立ち向かっていくようなもの。

ただ、サステナビリティの波は、情報の性質上、経理部門ではキャッチしにくいかもしれません。しかし、今回の波は、投資家に向けた情報開示を前提とし、かつ、財務諸表との関連も踏まえたサステナビリティの開示のため、経理部門としても「あれは、別の場所の波だ」と無視し続けることはできません。

そのためには、財務諸表における会計処理という足元の視点から、サステナビリティ情報も含めた財務報告という俯瞰した視点へと切り替える必要があります。すると、こうした情報も普段から収集できるようになります。

えっ、そんなこと言われても、もう監査学会は終わってしまった、って。ご安心ください。タイミングよく、会計専門誌『Accounting(企業会計)2021年8月号』に、上妻教授の最新論文「気候関連リスクに対する監査・保証の国際的動向」が掲載されています。まずは、この解説を読むことで、見える世界を広げてはいかがでしょうか。

 

P.S.

監査学会では、2週間後の2021年7月17日に東日本部会も開催されます。そのテーマは、「統合報告と『保証』の考え方」。なんと、ボクも発表します。開示の先の保証において、KAMに相当する事項を報告してはどうか、との提案をお話しします。

締切りは2021年7月9日(金)のため、間もなく募集が終了します。視点を高める機会として、ご利用ください。

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