Accounting

「収益の分解情報」、これならわかる3段構成

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3月末決算の上場企業にとって、2021年6月の第1四半期決算の大きな目玉は、収益認識会計基準への対応。

この第1四半期で気をつけたい論点は、収益の分解情報に関する注記。企業によっては、この注記が第1四半期から必要になるから。

これについては、2020年8月23日付けで、緊急レポート「新・収益認識の対応プロジェクトが進まない理由」の中で指摘していました。当時、収益の分解情報が四半期にも影響することが必ずしも知られていなかったため、これをチェックしていた企業は、すでに監査人との協議も終えて第1四半期決算を迎えていることでしょう。

とはいえ、まだ監査人との協議どころか、収益の分解情報の方針も社内で決定していない企業もあるかもしれませんので、今からミニ・レクチャーをしますね。3月末以降の決算月の企業にとっても参考になれば嬉しいです。

ボクが企業の方々にお話ししているのは、収益の分解情報は3段構成で考えると良い、ということ。大きな流れを理解しておけば、収益認識会計基準の関連する複数の規定に振り回されずに済むからです。

その3段構成とは、「大前提は注記しろ」「セグメント情報でカバーできるならOK」「より詳細な開示をしているときは要注意」。

大前提は注記しろ

最初は、「大前提は注記しろ」です。これまで、収益についてPLのトップラインに記載された総額以外には何も説明がありませんでした。多くの企業にとって重要な情報であるにもかかわらず、これといった情報開示が求められていない状況だったのです。

MD&Aで多少は説明されていることもあるのでしょうが、財務諸表の範囲では売上高を説明する注記がない。当期に何が好調で、何が落ち込んでいるのか、それは翌期以降も続くのかどうかなどを検討しようにも、PLに記載された総額しか手掛かりはないのです。

一方で、金融商品や企業再編関連、税効果や退職給付など、いわゆる会計ビッグバン以降に新規に追加された項目は、それなりの紙面を割いて内容を説明しています。IFRSほどではないものの、注記事項のページは増えています。それにも関わらず、売上高については一言も説明がありません。

このような状況は極めてバランスが悪いことは明白です。財務報告の利用者から売上高に関する詳細な説明を求めるのも当然のこと。そこで、2020年も過ぎてようやく関連する注記が求められるようになりました。認識した収益を分解した情報を開示する、これが大原則。

収益認識会計基準を新規に適用する場合に、たとえ会計処理に影響がない企業であっても、注記については必ず対応に迫られます。避けることはできない論点です。そのひとつが、収益の分解情報なんです。

セグメント情報でカバーできるならOK

大前提は、売上高について当期の状況や翌期以降の予測に役立つような注記を行うこと。これが、収益認識会計基準の真髄だと考えています。だから、このブログでも何度も伝えてきたとおり。

ただ、これまでも売上高について分解した情報を注記していた箇所があります。それが、セグメント情報。企業グループが複数の事業セグメントを手掛けている場合に、それぞれの売上高や関連情報を開示するものです。

もしも、このセグメント情報における売上高の情報が、収益認識会計基準が求める収益の分解情報の趣旨に合致しているならば、セグメント情報でよしとすることが容認されています(適用指針191項)。収益の分解情報を追加して開示する必要がないのです。

この容認規定があるからといって、「じゃあ、ウチは大丈夫だ」と安心するには、まだ早い。3段構成は、あとひとつが残っているから。

より詳細な開示をしているときは要注意

3段構成の最後が、実務上、悩ましいことになりかねない。というのも、財務諸表ではセグメント情報が収益の分解情報であるものの、財務諸表以外に公表している情報では、より詳細に分解した売上高を開示している場合があるから。

それは、決算短信や決算説明資料。財務諸表で注記したセグメント情報よりも分解した情報を掲載していることがあります。業界として開示しているものもあれば、投資家の声に応えて開示しているものもあるでしょう。こうした開示も考慮することが規定されているのです(適用指針106-4)。

ここで実務的な論点が生じます。それは、監査法人の財務諸表監査や四半期レビューを受けるタイミングで作成できるか、という時間軸。特に決算説明資料で開示している場合には、その開示に間に合うように作成していることがあるから。収益の分解情報として注記しようにも、とても間に合わない事態が生じかねないのです。

この点も、緊急レポート「新・収益認識の対応プロジェクトが進まない理由」の中で指摘していたとおり。ただ、この第1四半期で議論を始めた場合に、かなりバタバタすると推測されますので、ご注意を。

こういう少し先を見据えた話は、ブログでお話しすることもありますが、セミナーでも言及することがあります。今月の2021年7月21日に開催予定の「KAMの事例分析と実務対応のポイント」では、日本の開示制度に関する大局観をお話しするつもり。

なぜ、KAMを利用して「経営者の有価証券報告書」へとシフトすることを説いているのかを、本邦初公開します。お席が残っているかどうかはわかりませんが、ご興味のある方は、こちらからお申し込みください。

(注:募集はすでに終了しています。)

 

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