それは、2022年4月26日のこと。会計士仲間から、こう聞かれました。「2022年3月期からは、消費税の会計方針を記載しなくても良いんだよね」と。
というのも、収益認識会計基準が強制適用されたから。その結論の背景(第212項)には、税込方式を認めるような代替的な取扱いを定めない旨が示されています。よって、消費税の経理処理は税抜方式以外に選択しようがないため、消費税の会計方針を記載する必要がない、とする考え方です。
「確かにそうかも」と納得する一方で、「本当かな」と疑問も湧きました。消費税の会計方針の記載が不要になるなら、決算留意をはじめとした解説で説明されていてもおかしくはない。しかし、それに言及したものがない。そこで、会計上の取扱いを確認しました。
JICPAの中間報告
消費税の会計処理に関する実務指針には、1989年にJICPAからリリースされた「消費税の会計処理について(中間報告)」があります。これが改正されていないかを調べてみました。
この中間報告は改正されていないものの、注意喚起が出されていました。それは、2021年7月26日付けで「収益認識基準適用に伴う『消費税の会計処理について(中間報告)』の取扱いについて」。
ただし、その内容は、収益認識会計基準第89項の取扱いを再確認したものに過ぎません。すなわち、収益認識会計基準の適用によって、消費税の会計処理を税込方式から税抜方式へと変更する場合には、会計処理の変更として取り扱うこと。よって、会計方針の要否は明確には説明されていません。
ひっそり改訂されていた経団連のひな型
記載例から参考にできるものはないかと、経団連サンからリリースされている「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」を確認しました。直近の改訂は、2021年3月9日。収益認識や金融商品の時価開示なども反映されたものであるため、消費税の会計方針の要否も検討済みと期待できます。
【2021年3月9日改訂】のひな型のPDFファイルはすでにダウンロードしていたため、これを開いて確認すると、消費税の会計方針はそのまま残されていました。きっと、何かしらの検討の結果、継続して記載しているに違いない。そういう考えに至ったことを会計士仲間に伝えると、納得した模様で、記載したままで進めると返事がありました。
しかし、しかし、しかし。
その後、驚くべきニュースが飛び込んできました。経団連サンのひな型が、ひっそりと改訂されていたのです。
このニュースを伝えたのは、会計に精通している公認会計士の阿部光成サン。「ウェブ開示によるみなし提供制度への対応等、『経団連ひな型』が一部改訂される~改訂日付に留意~」という解説記事で紹介されています。
この記事によると、2022年4月27日付けで、経団連サンが【2021年3月9日改訂】のひな型を一部改訂していると伝えています。ボクが検討した次の日のことじゃないですか。
しかも、そのことをアナウンスしていない、とも。これでは、ひな型に修正が加えられていることについて、知る手段がありません。
あいにく、阿部光成サンの解説記事は、会員登録しないと全文が読めません。「もしかして、消費税の会計方針に影響が及んでいるかも」と心配になったことから、さっそく、経団連サンのウェブサイトで、【2021年3月9日改訂】のひな型を見てみます。すると、なんと、消費税の会計方針がごっそり削除されていました。理由は何も説明されていません。
こうなったら、あるべき状態を自分で考えてみるしかない。その検討過程と得られた結論について、「中間報告」としてシェアしますね。
バンブー式「消費税の会計処理(中間報告)」
基本的なこととして、消費税の経理処理は、税込方式と税抜方式の2択なのか、という点。税務では、混在するケースも想定されているようですね。ただし、上場、非上場を問わず、会計士監査を受けている状況を想定すると、JICPAの中間報告に基づき、2択で捉えていることが多いと推測されます。これを前提に話を進めます。
ここで、JICPAの中間報告に立ち戻ると、その解説には、会計方針として記載すべき事項として、次の2点が挙げられています。
- 税抜方式か、あるいは、税込方式かの記載
- 資産に係る控除対象外消費税の処理についての記載(ただし、その金額が重要ではない場合、省略可能)
1点目について、収益認識会計基準の適用によって、消費税の経理処理が一律に税抜方式とすべきか、という点が論点になります。確かに、多くの企業では、税抜方式とせざるを得ないでしょう。
しかし、世の中のすべての課税売上が収益認識会計基準によってもたらされるものではありません。収益認識会計基準の第3項のとおり、これが適用されない取引もあります。わかりやすい例では、リースの貸手や不動産賃貸による収益など。
一方で、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4-6項によれば、会計基準等の定めが明らかであり、かつ、代替的な会計処理の原則や手続が認められていない場合には、会計方針の記載を省略できます。
しかし、収益認識会計基準が適用されない取引では、何かの会計基準等で税抜方式とすべきことが明確に定められていません。そのため、消費税の会計方針を省略することはできない。したがって、収益認識会計基準が適用されたことをもって、一律に消費税の会計方針の記載を削除する理由にはならないのです。
2点目について、資産に係る控除対象外消費税の金額が重要であるときには、会計方針として記載することが求められています。つまり、次のいずれかを採用しているかを開示する必要があります。
- 資産の取得原価に算入
- 長期前払消費税に計上して均等償却
- 発生事業年度の期間費用
こうして、何を選択したかについて、会計方針として記載することが適当と考えられています。よって、一律に消費税の会計方針を削除するものでもない。
この他、もっと実務的な話をすれば、割賦基準による消費税の取扱い。従来、繰延処理できたものが、割賦基準の廃止によって繰り延べられなくなります。ただし、経過措置によって10年均等取崩しも認められている。つまり、選択の余地があるのです。これに重要性があるならば、会計方針として付記することもあり得ます。
収益認識会計基準の適用によって、消費税の会計方針を一律に記載しないことにはならない。よって、企業が置かれた状況に照らして、判断すべき。これが、ボクの「中間報告」。
実務的な落とし所
ここまでの話は、次の3点にまとめられます。
- 1.収益認識会計基準が適用されない取引があるため、一律に税抜方式になるとはいえないこと
- 2.税抜方式のみとなった場合でも、控除対象外消費税に関する会計方針の開示が必要となるケースが想定されること
- 3.消費税の経過措置によって経理処理の方法が選択し得る場合には、会計方針の開示が適切なケースが考えられること
そのため、消費税の会計方針を記載すべきかどうかは、一律の取扱いではなく、個々の企業が判断すべきものだと考えられます。
もっとも、実務的には、安全策をとって、消費税の会計方針の記載を残しておく方法もあるでしょう。事実を開示していることから、特段の問題は生じません。また、記載したとしても長くて数行で収まるだろうから、明瞭性も阻害しません。
これが、今現在の実務的な対応かのかもしれません。
P.S.
会計方針といえば、以前、会計方針に関する書籍の紹介を寄稿したことがあります。会計方針にも、まだまだ掘り上げる論点がありそうですね。
「解題深書 会計方針開示の歴史から見つめ直す財務報告」『企業会計 2020年3月号』