Accounting

サステナCOSOは、まだか

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

2022年秋に予定されているものといえば、サステナビリティ報告に適用されるCOSOの発表。2022年の2月にその開発がCOSOから承認されていました。で、その発表がまだか、まだかと待っているのです。

2022/02/24 – COSO Board Approves Study on Sustainability/ESG

これは、ゼロからの研究ではありません。その基礎となるのが、この2019年の論文です。

Leveraging the COSO Internal Control—Integrated Framework to Improve Confidence in Sustainability Performance Data (仮訳:サステナビリティ・パフォーマンス・データの信頼性を向上させるためのCOSO内部統制統合フレームワークの活用)

これだけサステナビリティ情報の開示が盛り上がっているため、その信頼性についても関心が寄せられるのは当然のこと。そこで、COSOのフレームワークを使うことを勧めています。

あれ、そんな話、昔にしていたような。

そう思って記憶を辿ると、ありました。やはり、サステナビリティ情報への内部統制について、2008年の時点で言及していました。

それは、2008年7月3日に開催された、甲南大学ビジネス・イノベーション研究所主催第5回シンポジウム「気候変動と企業経営-カーボン・マネジメントと地球環境問題への貢献-」でのこと。JICPAの経営研究調査会からの発表の場でもありました。

ちょうど、ボクがCSR情報専門部会長を務めていたことから、「CSR情報とKPI」というテーマでパネル報告した次第。そのときの講演録の概要が、甲南大学ビジネス・イノベーション研究所のニュースレター(2008、Vol.12)に掲載されています。

今、読み返すと、まだまだ拙い話し方で恥ずかしいですね。JICPAから発表した報告書のテーマであった「ステークホルダーエンゲージメント」について説明しています。その最後に、内部統制報告制度、いわゆるJ-SOXの手法がCSRレポートという非財務情報の報告書にも利用できることを言及しました。

おそらく、当時としては突飛なアイデアに映ったのでしょう。その後、非財務情報にもCOSOの内部統制のフレームワークが本当に活用できるのか、と質問を受けたシーンが記憶に残っています。

環境パフォーマンス指標の開示に至るまでの業務プロセスの中で、ある媒体の情報が別の媒体の情報に転記や入力される局面があります。その局面ごとに、実在性や網羅性、正確性の観点で統制をかけることが可能だという旨を回答しました。

そんな質疑応答が、11年の時を経て、海外で論文になっていたのですね。時代を先取りしすぎたようです。

そうそう、少し前に、日本でも企業会計審議会の内部統制部会が、この秋から動き出す話が出ていました。タイミング的に、このサステナビリティCOSOの発表を待ってのことかもしれません。

ただ、サステナビリティ情報の内部統制の構築や外部監査による保証は、日本においてはサステナビリティCOSOの発表を待たずとも、現状の制度の枠内で対応しなければならない可能性が否定できません。

というのも、内部統制報告制度は、財務諸表に限らないからです。金融庁から公表されている「内部統制報告制度に関するQ&A」の(問85)の答えとして、有価証券報告書の「経理の状況」に記載される開示事項に限定されないことが明記されています。

もちろん、関係会社の判定などを除けば、財務諸表の表示等を用いた記載が対象となります。今では、見積開示会計基準に基づく注記も含まれることは自明でしょう。

一方、有価証券報告書の記述情報として、サステナビリティ情報の記載欄が新設されようとしています。そこには、重要な場合にはTCFD提言に基づく4つの柱の開示も含まれています。

すると、シナリオ分析によって財務諸表に及ぼす影響を開示した場合に、財務諸表の見積開示を用いた記載となる状況も十分に考えられます。すると、見積開示の注記は財務諸表監査の対象となるとともに、記述情報における該当する開示はそのプロセスが内部統制監査の対象となるのです。

現在、欧州では、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)によって、年次報告にサステナビリティ情報を開示すること、また、その保証を受けることで進んでいます。その保証は開示された情報に対するものです。しかも、しばらくは監査ではなく、レビューの扱いで。

つまり、日本では、CSRDの適用を待つことなく、先行してサステナビリティ情報の「内部統制」について「監査」を受ける状況になりかねないのです。この理屈、もし、間違っていたら、ご連絡ください。このブログでフォロー記事を書きますので。

ということで、ボクの中ではサステナビリティ情報の内部統制は10年以上も前の関心事であって、今はその内部統制が既存の制度の枠内で内部統制監査の対象となりかねないことにあります。

そこで、この秋から動き出す予定の、企業会計審議会の内部統制部会に期待したいこと。それは、サステナビリティ情報の内部統制が今の制度の下でも内部統制監査の対象となるのかどうか。いきなりTCFDの対応にせまられる企業と、その内部統制監査におわれる監査人の構造だけは避けたいものです。

あなたは、どう思う?

セミナー資料にデータを掲載するなら、この1冊前のページ

役員向けセミナー「日本企業に迫る『気候変動の会計と監査』」次のページ

関連記事

  1. Accounting

    『リースの数だけ駆け抜けて』第10話「深まる検討」

    2025年3月中旬。会議室の窓からは、冬の名残と春の予感が混じり合う…

  2. Accounting

    2022年12月の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告

    昨日の2022年12月27日、金融庁から、金融審議会「ディスクロージ…

  3. Accounting

    経営力の評価に資する情報なら、『「のれんの減損」の実務プロセス』を

    嬉しいことがありました。2022年7月に発売になった拙著『伝わる開示…

  4. Accounting

    良き仲間からの良きコメント

    あなたが本や記事、セミナー資料などを作ったことがあるなら、それに感想…

  5. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.005 野村不動産ホールディングス、EY新日本

     文豪ゲーテなら、財務報告の流儀を求めるに違いありません。なぜなら、…

  6. Accounting

    見た目にも、CAMはKAMと違う

    アメリカの一部の会社では、CAM(Critical Audit Ma…

  1. Accounting

    研修の反応は懇親会で判明する
  2. Accounting

    IFRSセミナーの備忘録
  3. FSFD

    サステナビリティ情報開示の極意 -戦略的アプローチで利用者の期待に応える
  4. Accounting

    あなたに内部統制に関するプレゼントを
  5. Accounting

    2021年10月のセミナー「KAMの開示事例の検討と今後の課題」
PAGE TOP