Accounting

KAMに関する「画像」で思い浮かべるものとは

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

KAM(監査上の主要な検討事項)について、こんなニュースが飛び込んできました。

それは、2022年12月9日に、JICPAのウェブサイトに掲載された「EDINETのシステム更改~監査報告書のKAMへの画像の挿入~」というニュースです。なんでも、2023年1月4日から、監査報告書のKAM区分に画像が挿入できるとのこと。

最初にこのニュースを見たとき、「一体、どんな画像を想定しているんだろう」と不思議に思いました。例のアレ以外に、KAMに関する画像が思い浮かばないからです。ただし、すぐに「もしかして、あれかも」と納得できた画像もありました。最新のKAM事情も含めて、そんな話を共有しますね。

KAM画像の話の発端

そもそも、監査報告書にKAMに関する画像の挿入について議論になっている話を聞いたことがありませんでした。金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループでも、企業会計審議会でも、JICPAの監査・保証基準委員会有識者懇談会でも、そんな話題は登場していませんからね。一体、どこから沸き起こった議論なのかが気になりました。

JICPAのニュースによれば、EDINETの更改が話の発端のようです。EDINETが2023年1月から新しいシステムに置き換わることから、その説明会が開催されていました。そこで寄せられた質問とその回答が、提出者サイトに掲載されています。このうち、KAMに関する質問と回答は、2022年10月21日開催分に収録されています。

そのNo.26の質問は、次のとおりです。

監査報告書の画像使用対応について、「監査上の主要な検討事項(KAM)」は、大きく「冒頭部分」、「監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由」及び「監査上の対応」というセクションに分かれていますが、いずれのセクションにおいても画像を挿入することが可能という理解でよいですか。

これへの回答は、次のとおりです。

必要に応じ、「冒頭部分」、「監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由」又は「監査上の対応」のいずれのセクションにおいても画像を挿入することが技術的には可能です。(以下、略)

このようなKAMを巡る質疑応答があったため、JICPAは、画像の使用を検討している会計士に向けて情報共有された模様です。

KAMに関する例の画像

今まで英国のKAMを分析してきた経験では、KAMの本文で画像が使用されているのは、かなりのレアケース。画像でなければ説明が的確に行えないケースがそう頻繁にあるものではない。

そうした中で、真っ先に思い浮かぶのは、ロールス・ロイス・ホールディングス社(ROLLS-ROYCE HOLDINGS PLC)のKAMで有名な、影響度と発生可能性を2軸としたリスクのマッピング図でしょう。「Dynamic Audit planning tool」と名付けられています。個々のKAMを説明する前の冒頭部分で、主なリスクのうち、どれをKAMとしたかを説明する図です。

FTSE100銘柄でいえば、2021年の監査報告書に、このマッピング図を掲載していたのは、国際的なスポーツベッティングを手掛けるエンタイン社(ENTAIN PLC)のただ1社。監査人は、KPMGです。

一方、ロールス・ロイス・ホールディングス社の監査報告書には、2021年からこれが掲載されなくなりました。監査人はPwCのままでサイナーも交代していないものの、特段の説明が付されることなく、記載されていません。

話を戻すと、「Dynamic Audit planning tool」の作成は、実務的に簡単なものではありません。なぜなら、座標をひとつに特定しなければならないからです。そのためには、それぞれのリスクについて、影響度と発生可能性とを数値化する必要があります。

実際、ある年度のロールス・ロイス・ホールディングス社のマッピング図では、特定のリスクが僅かに移動した様子が示されていました。リスクの程度を高・中・低の3区分で捉えているようでは、そこまで精緻に作成できません。

そのような微妙な加減もあるため、監査人が作成した図をそのままEDINETに掲載する必要性があると考えられます。

マッピング図以外のKAM画像

とはいえ、そうしたマッピング図を監査報告書に掲載している事例は、FTSE100でも1社に過ぎないため、決して多いケースとはいえないでしょう。これを実現するために画像の挿入話が登場したとは思えない。もっと想定している事例があるはず。

しばらく考えたときに、「あれか」と納得した画像がありました。それは、KAMに関するリスクの経年変化を示す記号。KAMの見出しの前や後に、主に矢印で変化の有無を表現しているものです。

監査法人によっては、KAM区分ではない記載区分で、この記号を用いながらリスクの経年変化を説明している場合があります。というのも、英国では、監査報告書のフォーマットが監査法人によって異なるため。もちろん、監査報告書に記載すべき事項は盛り込まれています。ただし、記載区分の名称や順番などが、日本の監査報告書のように、完全に統一されてはいないのです。

もしかすると、EDINETで監査報告書のKAM区分で画像が挿入できるようになっているのは、こうしたリスクの経年変化に関する画像を想定しているのかもしれません。もっとも、リスクの経年変化の説明にあたって、画像を用いなければならない訳ではありません。「Risk vs 2020: increase」や「Risk vs 2020: unchanged」と言葉で説明している事例もあるからです。このための画像挿入話だとすると、「そんな必要があるのだろうか」というのが率直な感想です。

さて、2023年からの監査報告書には、一体、どのような画像が挿入されるのでしょうか。意識の高い監査人の、工夫の凝らした事例が登場するのが楽しみです。

P.S.

もしあなたが、他にもKAMの事例分析に興味があるなら、こちらの拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説: 有価証券報告書の記載を充実させる取り組み』がオススメです。

2022年12月にリリースか、内部統制報告制度の改正案前のページ

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