Accounting

2022年12月の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

昨日の2022年12月27日、金融庁から、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告が公表されました。今回は、副題が付いていませんね。

ブログ記事「日本のサステナビリティ開示政策」では、確定版が公表される前に、直前の審議で配布された資料に基づき、報告内容の一部を解説していました。そこで、今日は、配布資料と確定版との間で変更となった箇所のうち、主なものを説明しますね。気分は、吉田兼好です。

なお、【 】は記載が修正された箇所を、また、[ ]は脚注の番号を示しています。

■欧州における四半期開示の性質

Ⅰ.四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
1.四半期開示の見直し
(1)四半期決算短信の義務付けの有無

  • 〔配布資料〕欧州では2014年から2015年に法令上の四半期開示義務が廃止され、各企業の判断により任意で四半期開示を行う実務が定着している[2]。
  • 〔確定版〕欧州では【、2004年のEUの透明性指令(Transparency Directive)を受けて、各国の法令に基づき、財務諸表を求めない形による四半期開示の義務が導入されたが[2]、2013年の透明性指令の改正を受けて】2014年から2015年に法令上の四半期開示義務が廃止され、各企業の判断により任意で四半期開示を行う実務が定着している[【3][4】]。

当初は、欧州で四半期開示の義務化が廃止された旨が記載されていました。しかし、審議の過程で、ある委員から、欧州の四半期開示とは、どちらかといえば記述情報のような定性的な開示を指すものとの旨の説明がなされます。そこで、誤解を招かないよう、我が国の四半期開示を同列に扱うことは適当ではないことが、脚注3として追加されています。

また、これに関連して、脚注4も追加されました。審議の過程で、欧州では、サステナビリティ情報の開示負担が重いとする意見があったからです。そこで、四半期開示の任意化のみをもって欧州の開示負担は軽いと議論することはミスリーディングである旨も示されました。

■適時開示と定期開示の区分

Ⅰ.四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
1.四半期開示の見直し
(1)四半期決算短信の義務付けの有無

  • 〔配布資料〕他方で、このような考え方はあるものの、現時点において、「一本化」後の四半期決算短信の任意化を決定することや、将来的な任意化のタイミングを検討することに反対するものとして、以下のような意見があった[【4][5】]。
  • 〔確定版〕他方で、このような考え方はあるものの、【そもそも、適時開示と、四半期開示のような定期開示とは性質が異なるため、必ずしも適時開示の充実により四半期開示を代替できるわけではないとの意見[7]があった。また、】現時点において、「一本化」後の四半期決算短信の任意化を決定することや、将来的な任意化のタイミングを検討することに反対するものとして、以下のような意見があった[【8】]。

ここは2段構成で考える箇所です。まず、審議の過程で、適時開示の充実によって定期開示を代替できないことは重要な論点である旨の意見がありました。次に、重要な論点であるなら、本文に記載するのが適当との意見がありました。こうして、記載内容が脚注から本文へと移動されました。

ここで、個人的にハッとしたのが、本文と脚注では重みが異なる、ということ。決して同列に捉えてはいけないのです。言われれば、そのとおり。こうして、重みの違いを読み取らなければいけないことを痛感しました。

■有報の開示タイミングの位置づけ

Ⅰ.四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
1.四半期開示の見直し
(1)四半期決算短信の義務付けの有無

  • 〔配布資料〕このため、今後、適時開示の充実の達成状況や【開示を巡る】企業の【意識】の変化【、有価証券報告書の開示タイミングの状況】等を踏まえた上で、四半期決算短信の任意化について幅広い観点から継続的に検討していくことが考えられる。
  • 〔確定版〕このため、今後、適時開示の充実の達成状況や企業の【開示姿勢】の変化【[9][10]のほか、適時開示と定期開示の性質上の相違に関する意見】等を踏まえた上で、四半期決算短信の任意化について幅広い観点から継続的に検討していくことが考えられる。

これは、審議の過程で、なぜ、四半期開示の議論に有報の開示タイミングが登場するのかを問われたことを受けた修正です。一見すると違和感を覚えるかもしれません。ここでは、投資家サイドの問題意識を理解する必要があります。

この変更箇所は、四半期決算短信の任意化に関する文脈です。企業サイドは、開示の負担を軽減できるため、歓迎していました。これに対して、投資家サイドは、現状における全体としての企業の開示姿勢を踏まえたときに、開示が後退する懸念があります。その象徴が、有報の開示タイミング。依然として株主総会前に有報が開示されないようでは、その議論は時期早々と考えています。こうした背景を説明するため、確定版の本文が修正されるとともに、脚注9も追加されました。

興味深いのは、新たに追加された脚注10。次の内容です。

[10] なお、サステナビリティ情報を導入した有価証券報告書を株主総会前に開示するならば、3月決算会社であれば株主総会の開催時期を7月にしなければ充実した開示が困難であるところ、7月に開催する場合は第1四半期決算短信の開示負担を考慮する必要があるため、株主総会を7月に開催する上で、今後、第1四半期決算短信を柔軟な制度とすることが重要であるとの意見があった。

現在、有報にサステナビリティ情報を開示する改正が進もうとしています。一方で、サステナビリティ情報の開示負担が重いとする欧州の話もありました。すると、有報の開示タイミングを早めるよりは、株主総会の開催時期を遅らせるほうが合理的ともいえます。

しかし、それでは、時期的に、第1四半期の決算短信の作成期間と被るため、企業にとっては負担となる話。そのため、株主総会の開催時期の見直しのみならず、第1四半期決算短信のあり方にも言及されています。

注目すべきは、株主総会の開催時期のほうでしょう。これまで制度化に至らなかった、株主総会の4ヶ月後開催の改正が、サステナビリティ開示を理由に議論されるかもしれないからです。重みとしては本文にすべき内容です。法務省の管轄のため、脚注扱いにしたのでしょうか。いずれにせよ、制度改正の議論が活発化することを祈るばかりです。

■企業会計原則の趣旨はどこに

Ⅰ.四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
1.四半期開示の見直し
(3)四半期決算短信の開示内容

今回の制度改正とは話が逸れるものの、気になる記載の変更がありました。それが、こちら。

  • 〔配布資料〕[11] この点については、さらに投資家を中心に、中長期的な進捗確認の観点から、【損益計算書や】貸借対照表の注記等、財務諸表の理解において重要なものや、定性的な経営成績等の分析について追加する必要があるとの意見があった。
  • 〔確定版〕[18] この点については、さらに投資家を中心に、中長期的な進捗確認の観点から、貸借対照表【や損益計算書】の注記等、財務諸表の理解において重要なものや、定性的な経営成績等の分析について追加する必要があるとの意見があった。【他方、開示内容の追加の検討においては、企業の開示負担や速報性に十分留意すべきであるとの意見もあった。】

このとおり、最初に貸借対照表を、その次に損益計算書を記載する順番にあえて変更されています。この順番に衝撃を受けました。

ちょうど今、発売になっている会計専門誌『Accounting(企業会計) 2023年1月号』(中央経済社)では、企業会計原則の再考が特集記事として組まれています。そこでは、企業会計原則の構成が「一般原則」「損益計算書原則」「貸借対照表原則」の順であることから、損益計算書を重視していると説明されています。

ということは、今回の記載の改正によって、企業会計原則の思考が明確に放棄されたのでしょうか。ディスクロージャーワーキング・グループは金融審議会、企業会計原則は企業会計審議会と所轄は違うものの、いずれも金融庁の管轄です。ここまで企業会計原則の思考がなくなったのかと驚いた次第です。記載順を変更した理由が知りたいところ。

■監査人によるレビューの任意化

Ⅰ.四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
1.四半期開示の見直し
(4)四半期決算短信に対する監査人によるレビューの有無

  • 〔配布資料〕他方、投資家から監査人によるレビューを求める意見が一定程度あることや、企業側にもレビューを受けるかどうかは企業側の判断に委ねるべきであるとの意見があること[【15】]を踏まえ、企業において【任意で】レビューを受ける【ことを妨げないこと】とするとともに、投資家への情報提供の観点からレビューの有無を四半期決算短信において開示することが考えられる[【16】]。
  • 〔確定版〕他方、投資家から監査人によるレビューを求める意見が一定程度あることや、企業側にもレビューを受けるかどうかは企業側の判断に委ねるべきであるとの意見があること[【23】]を踏まえ、企業においてレビューを受ける【かどうかは任意】とするとともに、投資家への情報提供の観点からレビューの有無を四半期決算短信において開示することが考えられる[【24][25】]。

ここも、審議の過程で、委員が熱くなった箇所でした。この前段で、四半期決算短信に監査人によるレビューを一律には義務付けない旨が示されています。義務ではないため、レビューを受けるなら、それは任意でしかない。それにもかかわらず、任意のレビューを「妨げない」との記載はいかがなものか、と事務局サイドを詰め寄ったのです。もちろん、他意はないため、レビューを受けるのは任意である旨に記載が変更されました。

また、配布資料の脚注16では、レビューの有無の開示が推奨や同調圧力になる意見を紹介していました。それが、確定版の脚注24では、その開示が透明性確保の観点から必要である意見も追加されています。双方の意見をバランスよく掲載したものと推測されます。

さらに、確定版には、脚注25が新設されています。監査人によるレビューが義務ではなくなると、四半期ごとに行われていた監査人と監査役とのコミュニケーションがなくなる状況が想定されます。そこで、継続的なコミュニケーションを求める意見が紹介されています。

これについての手当は、JICPAで対応することになるでしょう。ただし、監査人によるレビューが行われる場合には、それに関する実務指針に盛り込むことができるものの、レビューが行われない場合には、通常の財務諸表監査に関する実務指針に盛り込まなければ、実行が担保されません。果たして、四半期ごとのコミュニケーションを要求事項とできるのかどうか、一会計士として注目している論点です。

■企業内のリソース配分

Ⅱ.サステナビリティに関する企業の取組みの開示
1.サステナビリティ開示を巡る国際的な動向と我が国における対応
(1)国際的な動向と我が国における今後の議論

  • 〔配布資料〕(記載なし)
  • 〔確定版〕【このような人材育成と共に、企業において、サステナビリティ開示の充実に向けて積極的に対応できるよう、リソースを適切に配分していくことも重要である。】

これは、確定版で新規に追加された記載です。サステナビリティ情報は開示すなわち有報の記述情報の箇所のみならず、財務諸表の箇所にも及びます。注記事項として対応する局面もあれば、会計処理に反映する局面もあるでしょう。その意味では、サステナビリティ開示が財務諸表に影響を及ぼすことの理解が進むことが重要です。そのために、ボクは記事を書いたり、セミナーで説明したりとしています。その意義が2023年にはますます高まると考えています。

■日本のサステナビリティ開示基準

Ⅱ.サステナビリティに関する企業の取組みの開示
1.サステナビリティ開示を巡る国際的な動向と我が国における対応
(2)我が国におけるサステナビリティ開示基準

  • 〔配布資料〕その際、国内及びグローバルでの比較可能性を確保する観点から、我が国における開示基準については、国内において統一的に適用しうる開示基準を策定するべきとの意見があった。
  • 〔確定版〕その際、国内及びグローバルでの比較可能性を確保する観点から、我が国における開示基準については、国内において統一的に適用しうる開示基準を策定するべきとの意見【や、「グローバル・ベースライン」となるISSBの基準をゴールとせず、これをベースに我が国の開示基準を検討していくべきであるとの意見】があった。

これについては、ブログ記事「日本のサステナビリティ開示政策」をご覧ください。

■サステナビリティ情報の保証

Ⅱ.サステナビリティに関する企業の取組みの開示
3.サステナビリティ情報に対する保証のあり方

  • 〔配布資料〕(記載なし)
  • 〔確定版〕【[48] この点、サステナビリティ情報に対する保証のあり方についても、我が国における開示基準の検討と並行して早々に具体的な検討を進めるべきとの意見もあった。】

これは、確定版で新規に追加された脚注です。これについて思い出すのは、審議の過程で、委員から事務局に向けられた、サステナビリティ保証はどこで議論すべきか、という質問です。金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループか、それとも、企業会計審議会の監査部会か、どちらの仕切りになるかを確認したものです。

事務局サイドの回答は、企業会計審議会は「会計」のみを取り扱う一方、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループは、金融担当大臣からの諮問によること、また、それが会計に限定されないことを踏まえると、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループのほうが適しているものと考えられる旨が説明されました。

個人的には、適宜、連携を図りながら、あるいは、ともに検討するような形が望ましいのではないかと考えています。とはいえ、国際的な動向を無視することはできないでしょう。この点、配布資料の脚注の一部であった次の記載が、確定版の本文に格上げされています。

保証に関する国際的な基準開発の議論が進むに当たり、我が国関係者が連携して意見を発信できるよう、オールジャパンで検討・対応できるような体制が必要

■サステナビリティ開示基準の適用時期

Ⅱ.サステナビリティに関する企業の取組みの開示
4.ロードマップ

  • 〔配布資料〕(記載なし)
  • 〔確定版〕【[58] 添付のロードマップについて、サステナビリティ開示を早期かつ円滑に進めていくための当面の課題も明確化すべきであるとの意見のほか、我が国における開示基準を2024年3月期から適用することは現実的ではないとの意見や、保証については、国際的な基準作りの議論が始まったばかりであることを踏まえると、2024年や2025年は適用時期ではなく我が国での議論の期間とすべきとの意見があった。】

これは、確定版で新規に追加された脚注です。ISSBのサステナビリティ開示基準の適用時期がまだ明らかになっていないことはもちろんこと、その公開草案の確定が当初の予定よりも遅れていることも踏まえて、慎重な対応を求めた意見でしょう。ただし、世界的な金融の動きに基づけば、足並みを揃えない選択肢は現実的ではありません。そのため、適用時期を遅らせたとしても、1年が限界でしょう。

といった感じでしょうか。以上、徒然なるままに書き付けた次第です。

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