2024年9月19日、第39回目のSSBJの会合が開催されました。そこで、公開草案から変更が提案された事項は、一見、それほど重要な内容ではないと映るかもしれません。しかし、審議の過程からを踏まえると、日本の基準設定主体としての苦悩や限界を感じざるを得ません。
そこで今回の特別記事では、第39回のSSBJで何が議論されたのかについて、その背景を詳細に解説します。この内容は、次のとおりです。
- ISSB基準が「may consider」に加わる理由
- 「文書化の誤解」を解消するためのSSBJの提案
- 文書化要件を削除する2つの観点
- 2つの立場の狭間で揺れるSSBJ
- SSBJ基準は翻訳版に? 統一基準派の圧力がもたらす変化
- SSBJが直面するジレンマ—ISSB基準との調整に揺れる基準策定の裏側
- 解決策は選択適用にあり?
- まとめ
この記事を読むことで、適用可能性を考慮する際の文書化に関する要件がなぜ削除されるべきかの理由を学ぶことができます。また、SSBJ基準の公開草案に対する2つの異なる立場を知ることで、今後の基準の方向性を見通せるようになります。さらに、SSBJがISSB基準との整合性を保つための苦渋の判断に至った裏側まで理解できます。
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■ISSB基準が「may consider」に加わる理由
第39回のSSBJの会合では、ガイダンスの情報源として「SASBスタンダード」及び「産業別ガイダンス」の取扱いについて審議が行われました。この中で、公開草案からの変更点が2つあります。
1つ目は、ISSB基準を「参照し、その適用可能性を考慮することができる」ガイダンスの情報源に追加することです。ISSB基準とSSBJ基準案は、いずれもサステナビリティ関連のリスクおよび機会を識別するプロセスと、それに基づいた重要性のある情報を識別するプロセスを要求しています。これらのプロセスにおいて、ガイダンスの情報源に関する定めは、次の3つに区分されています。
- 「shall apply」:適用しなければならない情報源
- 「shall consider」:参照し、その適用可能性を考慮しなければならない情報源
- 「may consider」:参照し、その適用可能性を考慮することができる情報源
今回の提案では、「may consider」にISSB基準およびその付属ガイダンスを追加することが目指されています。この背景には、ISSBが今後、気候以外の新基準を策定する可能性があるため、それに柔軟に対応できるようにしておく必要性があります。
SSBJ基準案では「may consider」として「他の基準設定主体による直近の公表文書」(適用基準案第47項(2)及び第56項(2))が含まれていることから、そこにはISSB基準も含まれます。そのため、現行の公開草案でもISSB基準を考慮することは可能です。しかし、ISSB基準のS3号以降の新基準やガイダンスに企業が迅速に対応できるよう、「may consider」として明文化することが意図されています。
この提案に対して、SSBJ委員会では異論は出されなかったため、今後は具体的な文案の策定が進む見通しです。