Accounting

企業の対話にファシリテーターの視点

 対話が重要だ、と聞いたことがありませんか。

 確かに、話し合うことで相手を理解できるという意味では、対話は重要だといえるでしょう。

 しかし、ただ話せば良いかというと、そうではありません。話しやすい場がなければ、話しにくい状況もあれば、誰かが一方的に話すだけとなる状況もあります。誰かを中傷することになる状況だってあります。

 そんなときに、ファシリテーターがいると対話がスムーズに進みます。なぜなら、話しやすい場を作ることができるから。

 ファシリテーターが身につけるスキルのひとつに、3つの視点をもつ、というものがあります。これは、自分の視点、相手の視点、場の視点です。

 自分の視点しか持てないと、一方的に話して満足することになりかねません。相手の視点を気にしすぎると、自分の意見が言えなくなることもあるでしょう。場の視点が持てないと、自分や相手も含めた、この場の雰囲気や流れをぶち壊すことにも。

 そのため、ファシリテーターは、この3つの視点をもつのです。中でも「場」という抽象度の高い視点は訓練されたファシリテーターが持ち得るもの。

 こうした視点は、財務報告にあたっても必要なもの。会計監査を通じて感じるのは、上場している会社は、上場していない会社よりも開示書類に対する意識が高い傾向がみられます。

 それは、社内、もっと言えば社長にどう説明するかという観点から財務報告の書類を作成しているか、それとも、外部から自社がどう見られるかという観点から財務報告の書類を作成しているかの差として表れます。

 このことは、上場企業グループの中であっても、開示書類を公表している有価証券報告書を提出する会社と、そうした書類の公表に関係しないグループ会社とでは、意識の差がみられることがあります。

 このように財務報告でも、自社の視点がとどまっているか、あるいは、外部からの視点を考慮しているかが違うと、開示する内容や表現への検討の仕方が変わってきます。ただ、ファシリテーターの視点でいうと、まだ「自分の視点」と「相手の視点」の2つ。

 で、残りの「場の視点」というと、みさき投資株式会社の中神康議サンによる『投資される経営 売買(うりかい)される経営』(日経BPマーケティング)に参考となる記述があります。

 

 企業は次の3つと向き合いながら経営しているといいます。それは、顧客ニーズに応える「製品・サービス市場」、従業員との関係の「労働市場」、銀行や株主がいる「資本市場」の3つ。

 製品・サービス市場では、企業はコストパフォーマンスの高い製品を創り上げてきました。また、労働市場では、終身雇用や忠誠心の高さといった慣行を創り出してきました。

 しかし、「資本市場」については、経営者と投資家との間に建設的な関係性を築いてきていないといいます。そのため、ここに取り組むことで革新的な経営進化のチャンスが眠っていると主張します。

 ファシリテーターの3つの視点でいえば、労働市場は自社の中での関係のため「自分の視点」、顧客は自社の外のため「相手の視点」、資本市場は自社の経営のインフラのため「場の視点」に相当するといえます。

 今、コーポレートガバナンス・コードでもスチュワートシップ・コードでも、強調されているのは経営者と投資家との対話。資本市場との対話が企業に求められています。つまりは、場の視点。

 あなたのビジネスで革新的な経営進化のチャンスをつかむために、ファシリテーターの視点のうち「場の視点」を持つことも考えてみてもよいかもしれません。

 

P.S.
 会計監査のKAM(監査上の主要な検討事項)は、企業と投資家の対話を促進させる効果が期待されています。そんなことも、こちらのセミナー「上場企業へのKAMインパクト」でお伝えしますね。
https://www.gyosei-grp.or.jp/images/pdf/seminar_tokyo_20181214.pdf(終了しました)

 

P.P.S.
 会計士は、この本は必見。同じ販管費なら科目は別に、と思っている人も見かけますが、この本でいう再調達価格の算定を知ると、そんな考えは吹っ飛びます。
・中神康議『投資される経営 売買(うりかい)される経営』(日本経済新聞出版)

 

P.P.P.S.

日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。

 

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