普段の生活で、頻繁にしている行為。そんな行為があるなら、少しは上手くなれるようにトレーニングしていてもおかしくはない。しかし、多くの人が努力を払うことが少ない行為があります。
それは、ライティング。文章を書くこと。
スマホが普及した今や、誰もが、LINEやメッセンジャーをはじめとしたアプリを使ってコミュニケーションを取っています。ブログやFacebook、Twitterなどを使って、そこそこの文字量の文章を書いている人も少なくはない。
パソコン時代や携帯時代にはメールがありました。その活用の多くは、ビジネスのシーン。これに対してプライベートでは、誰もが頻繁にやりとりしているツールではなかった印象があります。メールは、件名を書くことからはじまるとおり、やや格式張っています。プライベートのシーンだと、メッセージアプリのような手軽さが好まれるのでしょう。
こうして一日に何度も、何十回も、人によっては百回以上も、メッセージアプリやSNSで文章を書いています。そこまで頻繁でありながらも、ライティングついてのトレーニングを積むことは少ない。学生の頃の授業で終わり。よほど意識的にならないと、大人になって文章の作法に基づきライティング・スキルを高める機会がない人も多いでしょう。
例えば、ビジネスの現場で、こうしたシーンを見かけることがあります。チームで報告書や社内文書を検討するときに、誰かのパソコンをプロジェクターに映しながら、「そこは書こうしよう」「ここはそう繋ごう」などと言い合いながら、文章を作り上げていく。
これ、めっちゃ非効率。それでも効果が得られているなら、まだマシなほう。おそらく多くは、効果も得られていない。その理由について、作家のはあちゅうサンは、次のとおり、Twitterでつぶやいています。
文章を書く時はまず素材集めをして、その後、どのエピソードを使うか、使わないかを頭の中で編集する。でも文章が苦手な人はこの【素材集め→編集→執筆】という手順をすっとばして、「執筆」からいきなり入る。頭の中に思い浮かんだことをそのまま書くから、支離滅裂、人に伝わらない文章になる。
— はあちゅう (@ha_chu) 2019年2月7日
このとおり、「素材」を集めていないことが、効率も効果も得られない原因。いわゆる、ネタってやつ。
さきほど例に挙げたビジネスシーンでは、この素材を出しきらずに、いきなり文章を書き始めてしまいます。誰かのドラフトに基づいて検討する場合でも、同じ。素材を集めきれないままにドラフトを書いた場合にも、必要な要素が足りていない中で文章を検討することになります。
すると、最初の段落で、素材の不足やそれに伴う修正に気づく。加筆修正して次の段落を検討すると、今、加筆修正した前の表現が残っているため、また直す。少し先の段落で別の箇所で加筆修正すると、それに合わせて最初に戻っての書き直し。その繰り返しで行ったり来たりするのです。
このように、素材を集めきらずにライティングを始めてしまうと、はあちゅうサンの言う通り、「支離滅裂、人に伝わらない文章」になりがち。だから、何度も書き直しが生じるのです。この状態を140字足らずで端的に表現しているのは、さすがです。このテーマだけで一冊の本になるほど。
実際に、それをテーマに一冊の本にしたのが、ブックライターの上阪徹サンによる『ビジネスにうまい文章はいらない 「書き方のマインド」を変える新・文章術55』(大和書房)。はあちゅうサンのつぶやきと同様に、素材集めの重要さを説いています。
この素材集めから構成、ライティングまでのプロセスを一枚のチャートでツール化したのが、マーケッターの中野巧サンが『6分間文章術――想いを伝える教科書』(ダイヤモンド社)で紹介している「エンパシーライティング」。ボクが単行本や論文を書いていけるのも、このエンパシーライティングがあるからこそ。
小説やエッセイを仕事にしている人も、毎月一冊のペースでビジネス書を出し続けている人も、共感をベースにした文章で集客している人も、みな共通している点は、スタートは素材集め。いきなり文章は書き始めないのです。
もし、あなたやあなたの周りで文章が上手くまとまらない人がいたら、こう声をかけてみてください。「素材から集めたら」と。