知れば知るほど、知らなかったことがある。今日、読んでいた本で、そのことに気付かされました。
その本とは、『新しい主人公の作り方 ─アーキタイプとシンボルで生み出す脚本術』(フィルムアート社)。脚本や小説執筆のコンサルティングやセミナーを行っているキム・ハドソン氏によって書かれたもの。
先日、地方の書店にぶらりと立ち寄ったときに、この本を見つけました。存在は知っていたものの、実際で目にしたのはこれが初めて。パラパラと眺めてみたら、ここ最近のストーリーづくりの悩みを解消するような記述があるではありませんか。なので、すぐに購入。
ストーリーといえば、いわゆるヒーローズ・ジャーニーが有名。現状から旅立ち、新しい世界で試練に会って成長し、戻ってくるという三幕構成。神話の法則に基づき映画「スターウォーズ」などでも活用され、また、実践の場で発展してきたストーリー創作の手法。
何年も前に知ってからは、ヒーローズ・ジャーニーにハマりまくります。関連する書籍も相当読みました。知識を得るだけではなく、実際に活用もしてきました。例えば、セミナーの構成だったり、本の構成だったり、あるいは、寄稿する論文の構成だったりと。
このように広範囲に使えるものの、時々、「そこまで強くないんだけど」とか「ちょっと想像しにくいなー」とか、そのまま使うにはぴったりと収まらないことがありました。「きっと、まだ慣れていないからなんだろう」と解釈していたのですが、この本に出会って、明確な違いを知りました。
この本では、ヒーローという男性性を描くストーリーに対して、ヴァージンという女性性を描くストーリーについて説明しています。これらはいずれも、自分のことを知る、自立することに向かって主人公は成長していきます。
しかし、違いはそのゴール。ヒーローは自己犠牲を象徴するのに対して、ヴァージンは自己実現を象徴します。ヒーローが「何かをする」という身体的に自立していくのに対して、ヴァージンが「何かになる」という精神的に自立していく。このように、向かう先が、外部なのか、内部なのかの違いがあるのです。
えーーー、でしょ。ちょうど今、ある企画の構成を考えているときに、いつものとおり、ヒーローズ・ジャーニーに沿って構成を考えていたから。それなら早く言ってよ~、という感じ。
もちろん、ヒーローであってもヴァージンであっても、ストーリー構成の多くは共通します。そういう意味では、普遍的な要素で成り立っています。とはいえ、細かなところの違和感を解消してくれたのが、このヴァージンによるストーリー。外に向かって戦っていくというよりは、内部に向かって自己実現していく。それがゴールだったからです。
一般に、ヒーローズ・ジャーニーは、12ビートで構成されます。ビートとは、映画のシーンに相当するもの。これに対してヴァージンによるストーリーでは、13ビート。内容としての違いもあれば、タイミングとしての違いもある。そうした違いが、ボクの違和感を解消してくれたのです。
それもこれも、今、考えている企画の主人公は、ヒーローではなくヴァージンだから。これで、この企画の構成を突き進めて行くことができます。よかった、よかった。
さらにいえば、ストーリーとは、ヒーローか、ヴァージンかの二者択一ではないということ。ストーリーを描く際に、ヒーローとヴァージンとが途中で変更することもできれば、それらが混在することもできます。
もっと言えば、ヒーローかヴァージンかというのも、12あるアーキタイプのうち2つを取り上げただけ。他にも10のアーキタイプがあるのです。これらも組み合わせるなら、無限にストーリーが描けるのです。
そうは言いながらも、一度にそんな説明をされても、聞いた方としては何も手が動かない。自由には操れないのです。だから、まずはベースとなるスキルを身につけて、次に自分のスタイルに修正していく。いわゆる、守破離。
守から破に進むためには、守の世界から飛び出さなければならない。知らなかったことを知る必要があるのです。そんなことを思い知らされたこの本のことは、セミナー講師や著者には隠しておきたい。ここだけの話だから、他の誰かに伝えてはダメですよ。