Business model

夏のイベントと台風をビジネスモデルで考える

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

夏のイベントの大敵といえば、台風。飛行機が飛ばなくなることもあれば、電車が遅れることもある。お客さんどころか、出演者が到着しないこともある。

 実際、今年の2019年も、台風10号の接近に伴って、西日本でのライブが中止になっています。また、公演を開催するものの、参加できない場合にはチケット代を払い戻しするケースもあります。

 これは、ビジネスモデル・キャンバスでいえば、「チャネル」の問題。チャネルとは、自社が提供する価値を顧客に届ける方法や手段のこと。顧客にどう認知されるかというマーケティングも、このチャネルに含まれます。

 アーティストでいえば、CDやネット配信でのリリースという間接的なチャネルの他に、ライブという直接的なチャネルもあります。そうそう、握手会というのも、立派なチャネル。認知という観点では、バラエティ番組に出演するのも同じ。

 このうちのライブは、売上をもたらす効果があります。ただし、ライブそのものではありません。今から30年ほど前に、デーモン閣下がラジオ番組で、次のような話をしていたのを覚えています。

 当時もライブを行うには、セットにもお金もかかれば、バンドメンバーやスタッフにもお金がかかる。ライブのチケット代ではとてもペイできない。しかし、特に地方でライブを行うと、その直後のCDの売上が伸びる。ここも含めてライブを行っているのだと。

 ボクが分析するに、ライブという直接的な体験を通じて、アーティストとの親近感が増す。そのうえで、来場するお客さんがすべて、そのアーティストの大ファンという訳じゃないため、ライブで歌を知ることによって、もっと歌を聞きたくなることがあります。また、すでにファンであっても、ライブで聴いて好きになる歌もあります。それらがCDの購買につながるのです。

 これ、ビジネスモデル・キャンバスでいえば、ライブはチャネル。これを顧客に届けると、ビジネスモデル・キャンバスの他の要素「顧客との関係性」、いわゆる、カスタマー・リレーションシップが高まる。それがCDの購入を促す結果として、ビジネスモデル・キャンバスの別の要素「収入」が得られるのです。

 ビジネスモデル・キャンバスの右側の循環がぐるぐると回るイメージ。収入が得られると、アーティスト活動を続けていけます。だから、ライブの位置づけは大きいのです。そんなライブが台風をはじめとして中止となると、大きな痛手。経済的な意味だけではなく、純粋にファンと触れ合えないという意味でも。

 ライブの台風対応として注目すべきは、2018年9月30日のX JAPAN。台風24号の影響を受けて、予定されていた幕張メッセでの公演が中止となります。

 しかし、公演中止をアナウンスしてまもなく、前代未聞の対応が発表されます。それは、無観客ライブの緊急生中継。お客さんがいない中で、予定していたライブを中継することにしたのです。

 本来なら、ライブとは、顧客に直接的に届けるチャネル。それを、配信という間接的なチャネルに置き換えて顧客に届けることにしたのです。確かに、会場にはメンバーもスタッフも来ているため、ライブを開催できる準備はできています。そこに揃っていないのは、観客席に到着できないお客さん。だったら、ネット配信で届けようと、X JAPANサイドが決断し、また、決行した。

 ビジネスモデル・キャンバスの観点でいえば、X JAPANサイドは、ライブという「方法」ではなく、お客さんにどう届けるかという「チャネル」にこだわったのです。その結果、ファンからは神対応として喜ばれます。

 もちろん、最善の提供方法ではなかったのでしょう。ただ、それでも何も届けない選択をするほうが、アーティストにとっても、ファンにとっても寂しいこと。ビジネスモデルの観点からいえば、成功例として語り継ぐに値する対応。

 お客さんの安全を考えることを踏まえたうえで、それでも提供する価値をどう届けるかにまで考えを至らせることができる。ファンにとことん寄り添ったベストプラクティスですね。

 あなたのビジネスでのイベントは、台風を理由に中止しますか。それとも、台風であってもチャネルを確保しますか。この差は、とんでもなく大きくなっていきますよ。

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