会計の世界で、今となっては誰も反応しなくなったものがあります。覚えていらっしゃるでしょうか。それが適用された当時の2011年3月期には、会計の大事な概念が変わってしまうと大騒ぎしていたものを。
それなのに、あれから9年度分の開示を経ると、誰も騒いでいない。何も実務に影響が及んでいない。何も利用の仕方が変わっていない。ないないづくし。
先日、このブログに「セミナー実績」のページを新設したときに、そのことを実感しました。最初に記載したセミナーが、これをテーマにしたものだったから。その開催は、2010年11月17日。
それは、包括利益。利益の概念が変わりかねないと、研究者も実務者も騒いでいた記憶があります。また、実際にどれほどの影響があるかの実証研修も行われていましたし。そんな中でボクが、包括利益セミナーの冒頭で紹介した言葉が、これ。
包括でもなければ、利益でもない
これは、IASB(国際会計基準審議会)の会議で発言されたもの。ボクはこの言葉を知って、随分とすっきりしたことから、セミナーで共有しました。「そういうことか」「そうだよね」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このように、そのネーミングが実態を示さないことがあるのです。その業界の専門用語であっても、ですよ。
最近では、「暗号資産」がそう。このネーミングも実態を示していないとの指摘があります。
これまでは、「仮想通貨」や「暗号資産」と呼ばれていました。2019年に資金決済法が改正されたことによって呼称が変更されました。ところが、この「暗号資産」という呼び方が、いわゆる仮想通貨の実態を示していないというのです。
そう指摘するのは、認知科学者の苫米地英人サン。2019年7月に発売された著書『プロが知るべき 仮想通貨の真実』(サイゾー)の中で、ブロックチェーン技術に根本的な理解がない人が「暗号」という言葉を使うと言います。
いわゆる仮想通貨の中心技術について、こう説明しています。
送り手が秘密鍵署名して、送る通貨数量と受け取り手の指定をする。その内容は、改竄されないようにハッシングする。これだけです。
ここでいうハッシングとは暗号化することではない、とのこと。内容を暗号化していない関数であり、また、それが世界に大量に分散して保持されている。だからこそ、ブロックチェーンによる取引の安全性が、世界の誰からでも見えるようになっているのです。
確かに、仮想通貨の内容が暗号化されてしまうと、改竄されたときに誰も気づくことができない。それでは、取引の安全性が確保することは難しい。そういう意味で、暗号資産は「暗号」ではないのです。
また、「資産」の部分も同じく実態を必ずしも示していない。同じく苫米地英人サンが、2017年4月に発売した『仮想通貨とフィンテック ~世界を変える技術としくみ』(サイゾー)で、通貨や資産というよりは、デジタルの「帳簿」だと説明しています。
すると、暗号資産は、「暗号でもなければ、資産でもない」という帰結に至ります。なんと、包括利益と同じだったのです。でも、包括利益と同様に、数年も経つと誰も気にしなくなるのでしょうね。
名は体を表す。そんな言葉もあるくらいですから、せめて専門用語くらいは実態を示したネーミングが良いですね。