アメリカの一部の会社では、CAM(Critical Audit Matters:監査上の重要な事項)が適用された監査報告書がどんどん公表されています。このCAMを実際に見れば見るほど、KAM KAM(Key Audit Matters:監査上の主要な検討事項)との違いが浮かぶため、実に面白い。
これらが違うことは、先月のブログ「KAMとCAMとでは、何にフォーカスするかが違う」でお話ししたとおり。KAMが監査の実施過程で最も重要な事項にフォーカスするのに対して、CAMは、重要な勘定や開示に関連する、特に困難な、主観的な又は複雑な監査人の判断を含む事項にフォーカスします。
こうした内容面の違いに加えて、外形的な記載の違いもあるのです。見た目からして、KAMと異なる点が多いのです。たかだか10件ちょっとのレビューでしかないものの、そのサンプルサイズでも明らかに違う。
一言でいえば、CAMはコンパクト。これは、次の3つに分解できます。
1つ目の特徴は、CAMのパラグラフが2つ程度に収まっていること。CAMもKAMも、多くは、その内容の記述と、それにどう対応したかの記述の2部構成になっています。しかし、それらの記述におけるパラグラフに特徴があるのです。
KAMは、内容の記述について、短めのパラグラフが3つ、4つで構成されているイメージ。そのパラグラフの記述量もそう多くはない事例が多い。
一方、CAMは、内容の記述について、2つのパラグラフで構成されているものが多い。しかも、パラグラフの記述量が多い。これは、次の特徴とも関連してきます。
2つ目の特徴は、CAMでは箇条書きが少ないこと。KAMは、対応の記述について、実施した手続を箇条書きにするスタイルが多い。統制テストでどうしたか、実証テストで何をしたか、開示はどうだったか。それらをひとつひとつ、箇条書きで記載していく。
一方、CAMは、対応の記述について、内容の記述と同じように、2つのパラグラフとなっているものが多い。やはり、そのパラグラフの記述量が多い。なぜなら、KAMだと箇条書きにするものを、ひとつのパラグラフでまとめているから。
3つ目の特徴は、CAMはレイアウトが凝っていないこと。KAMは、アカウンティング・ファームごとに大まかなフォーマットは決まっているものの、必ずしも統一されてはいません。同じファームでも、アニュアルレポートによってレイアウトが違うことも珍しくない。
一方、CAMは、レイアウトという意味では、ほぼ、考慮なし。ひたすら、文章を書き上げている感じ。KAMのような、内容を左に、対応を右に書くような2カラム方式でもない。
ボクが思うに、SECに提出する文書であることが大きい。何をどこに書くのかが決まっており、また、カラフルでもない。規制当局への提出文書である性質上、投資家に向けたプレゼンテーション的な要素を持ち込みにくいのではないでしょうか。
イギリスでKAMが適用され始めた時期に、FRCがKAMの表彰を行っていました。その表彰の観点には、レイアウトも含めたプレゼンテーションの観点が入っていました。これも、規制当局への提出文書ではなく、投資家に向けて公表するアニュアルレポートだから。
もっとも、ボクの観測では、会社のアニュアルレポートのレイアウト能力に依存していそう。そのアニュアルレポートとあまりにも違和感なく溶け込んでいるから。監査人が独自にレイアウトを考えたなら、監査報告書のページだけ浮いちゃいます。
ここで日本のKAMを考えたときに、状況は違うと考えていました。KAMが記載された監査報告書が掲載される文書は、金融庁に提出する有価証券報告書。アメリカのSECへの提出文書のように、レイアウトに凝る余地が少ない。
すると、イギリスのKAMのようにプレゼンテーション的な要素を発揮しにくい。だから、ボクはずっと、レイアウトには拘るなと事務所内に説いてきました。日本のKAMは、レイアウトに凝らずに、内容に拘るべし、と。
それを証明するかのように、CAMでは、ボクの言うとおりの状況になっている。ね、言ったとおりでしょ。って、ボクと同じ事務所にいない人はわからないか。
そうそう、その記述の中で、ちょっとした表現にも違いがありましたよ。きっと、それは会計基準の思想の違いだと思うのですよ。詳しく話したいのですが・・・、それはまた、別の話。
P.S.
日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。
P.P.S.
2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。