Accounting

2021年、監査難民の大量発生

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「2021年には、監査難民が大量に発生する」

ボクがそう話したときに、友人の会計士は「そんなこと、ある訳がないでしょ」とあざ笑いました。どんな話がこれから繰り広げられるのかと、呆れた顔で見え返してきます。

しかし、その理由を話しだすと、顔つきがどんどん険しくなっていく。ボクが話し終わると、「確かに、ありえるかも・・・」と一言。おそらく、自分の周りの状況に照らしたのでしょう。決して誇張された話ではないと感じたようです。

●収益認識の適用は間に合うか

監査難民を引き起こすきっかけは、収益認識に関する会計基準です。2021年4月1日以後に開始する年度から強制適用されます。上場企業のみならず、非上場企業であっても会社法監査を受けている場合には適用しなければなりません。

ところが、その適用が間に合わないような発言がありました。会計基準を設定する主体であるASBJを運営しているのは、財務会計基準機構です。この中には、会計基準の作成の要否を検討している「基準諮問会議」という組織体があります。

そこで発言されたのは、「来年4月1日より強制適用となる収益基準会計基準について準備が整っていない会社がないかについて調査をした方が良いのではないか」という意見。

●問題は適用会社が多いこと

JICPAが、2019年11月11日に公表した「監査実施状況調査(2018年度)」によれば、次のとおり、会計監査を受けた会社の数が示されています。

•金融商品取引法監査 3,947社(=個別のみ660社+連結あり3,287社)
•会社法監査 5,782社

これらを合計すると9,729社です。新型コロナウイルスへの対応もあって、上場企業でも十分に準備が進んでいない声を耳にすることがあります。ましてや、会社法監査を受けている企業にあっては、リソース的にも対応が厳しいのではないでしょうか。

収益認識の新基準への対応が間に合わない場合に想定されるのが、監査法人と監査契約を締結できない状況です。

●監査契約を締結するときの前提条件

というのも、監査契約は、企業が適正な財務諸表を作成するからこそ独立した第三者である監査法人がそれに保証を付与するものだからです。企業としては適正意見を期待して監査契約を依頼します。

一方、監査人は、監査契約の時点で、保証対象とする年度の財務諸表に対して適正意見を表明できない見込みの場合には、企業が望まない監査意見が報告される状況が目に見えています。これは互いにアンハッピーな状態のため、監査法人が監査契約を締結しない可能性があるのです。

仮に、収益認識の新基準が適用されることで財政状態や経営成績などに大きな影響が及ぶと見込まれる企業があった場合に、その対応が予定どおり進んでいないときやその目処が立っていないときには、監査契約が締結でない状況が十分に想定できます。後任の監査法人を探すのも大変でしょう。

●インパクトの大きさ

こうした状況は、上場企業の一部でも起こり得るかもしれません。また、会社法監査を受けている企業においても、上場企業よりも数が多い事実があり、かつ、リソースも相対的に限られると想定されるため、なおのこと監査難民となるリスクが高まっていると考えられるのです。IPO準備会社では、上場スケジュールにも影響が及ぶ話です。

ここまでお話しすると、冒頭の「2021年には、監査難民が大量に発生する」があり得ないシナリオではないことが理解できるでしょう。これがボクの杞憂に終われば良いのですが、現実化したときの社会に与えるインパクトは大きすぎる。

各社の収益認識の対応がどこまで進んでいるのかの実態が定かではないため、監査難民の大量発生の話は推測の域を超えません。ただ、もしも基準諮問会議の発言が実態を示しているならば、その帰結として監査難民が大量に発生することは必至。新型コロナウイルスの対応が優先される中で、果たして、予定どおりに収益認識の新基準を適用しても良いのでしょうか。

●解決策の提案

その実態の把握のためには、JICPAが最も適任です。金融商品取引法に基づく開示を行う上場企業だけではなく、会社法に基づく開示を行う非上場企業も含まれるため、所轄が金融庁と法務省とにまたがります。その線引きに縛られることなく実態把握できるのは、監査法人の側しかありません。だから、監査法人を管轄しているJICPAこそが最適なのです。

そこで収益認識の対応が厳しい状況が実態ならば、その適用時期を見直しても良いのではないでしょうか。実際、IFRSではIAS第1号の修正「負債の流動または非流動への分類」の適用を延期しています。アメリカFASBでも、非上場企業に対する収益認識の適用を延期しています。海外では、基準適用の延期がすでに打ち出されています。

もし、収益認識の対応が遅れている現状がある場合には、日本でも適用時期を延期したほうが良い、いや、むしろ延期すべきではないでしょうか。もちろん、順調に対応が進んでいる企業は、2021年4月1日以後に開始する年度から「早期適用」できることにすれば問題はありません。

●現実的な対応

残念ながら、この記事を執筆している時点では、そのような動きは報道されていません。もしかすると水面下で検討が進んでいるのかもしれませんが、その動きが正式に発表されていない以上、それに期待するのはリスクを大きくさせるだけ。粛々と収益認識の対応プロジェクトを進めなければなりません。

そうは言っても、対応プロジェクトが進まない現状があるのも事実。

そこで、緊急レポートとして「新・収益認識の対応プロジェクトが進まない理由」をとりまとめました。ゴールから逆算した効果的かつ効率的なプロジェクトの進め方を提示しています。

これがヒントになって、少しでもプロジェクトが動き出すことを応援しています。

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