こんにちは、KAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
そんな風に名乗っているため、KAM(監査上の主要な検討事項)の記事があると聞けば、チェックしない訳にはいきません。それは、会計専門誌の『Accounting(企業会計) 2020年 11 月号』(中央経済社グループパブリッシング)です。
今月号には、「21年3月期開始! 早期適用事例でみえてきた KAM対応ポイント」という特集が組まれています。法律家、会計士、企業担当者、投資家のそれぞれからKAMの早期適用に関する記事を寄せています。
ここで紹介したいのは、JICPAからのKAM説明でおなじみの住田清芽サンによる寄稿「早期適用企業のKAM開示分析」です。というのも、ボクのKAM関連コンテンツとの違いを探るため。知らない内容や気づいていない事項があれば、キャッチアップする必要があるからです。
気づきになった点
これは、銀行でKAMが早期適用された理由です。金融庁がKAMの早期適用を期待していたことから、てっきり銀行業の上場一部の企業に無言の圧力がかかったのかと邪推していました。ドラマ「半沢直樹」の見過ぎだったようです。
記事によれば、日本の銀行は国内向けには日本基準に基づき連結財務諸表を作成しているものの、米国向けには米国基準あるいはIFRS基準に基づいているとのこと。そのため、米国基準だとCAM(Critical Audit Matters)が、IFRS基準だとKAMが報告されているそうです。だから、日本の連結財務諸表の監査報告書にもKAMが記載されていたのです。
納得した点
記事を読んで「やっぱりね」と納得した点は、KAMの1項目当たりの記載量です。1つのKAMに何文字が使われているか、という観点です。KAMを実際に記載する立場なら、自分が記載するKAMの文字数が気になるからです。
これは、ボクも調べ済みの情報です。先日の研修動画の配信でも、この点はしっかりと説明しました。当時はこうした調査をみかけることがなかったため、あの研修をご覧になられた方々だけの特典にできたと考えていましたが、この雑誌の発売によって、そうではなくなりました。やはり、実務家は同じところに関心が向くのですね。
ボクやこの記事の調査によれば、KAMの内容と決定理由に要した文字数のほうが、監査上の対応に要した文字数よりも多くなっています。これに対して、イギリスのKAMは、全体的に、KAMの内容と決定理由の文字量は少ない印象です。そもそも、2カラムの横幅が、監査上の対応のほうが倍近くに設定しているKAMも少なくありません。
この理由のひとつに、IFRS基準のほうが財務諸表の注記や記述情報が充実しているために、KAMであえて説明する必要が乏しいことが考えられます。例えば、収益認識の新基準が適用されていなければ、売上高の計上基準すらわからない開示の状態にありますからね。そういう意味では、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」がKAMと同じタイミングで強制適用となるため、2021年3月期の記載では文字数に変化が生じている可能性があります。
さらに掘り下げた情報
ボクは、この記事で披露されている情報よりも、さらに掘り下げたものを持っています。それは、複数のKAMが報告されているときに、記載順序によって文字数がどう変化するかのデータです。
その結果は、イギリスのFTSE100のKAMを調べたときの観測と同じで、記載順序が後になるほど文字数は減っていました。おそらくは住田清芽サンもお持ちでしょうが、執筆上の文字制限で披露されていないだけでしょう。
だから、今後、開催するKAM関連の研修では、記載順の文字数まで提供しようかと考えています。「負けないぞ」って悔しがっている様子が全開ですね。
以上が、この記事に関する感想です。他の記事も含めて、じっくりと読み込んでいかないと。だって、ボクは「KAM対応のスペシャリスト」ですから。
P.S.
日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。
P.P.S.
2020年3月期のKAM早期適用事例の解説は、書籍『事例からみるKAMのポイントと実務解説―有価証券報告書の記載を充実させる取り組み―』(同文舘出版)として発売されました!