こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
KAM(監査上の主要な検討事項)の新しい活用方法が現れたこと、ご存知ですか。ASBJで、海外のKAMの記載から、その企業の会計処理の様子を捉えようとしていたのです。
収益認識の例外的な取扱いの議論
2020年11月5日に、第445回目のASBJが開催されました。議題のひとつが、「収益認識会計基準の適用上の課題に関する要望への対応」です。これは、電気事業連合会と日本ガス協会とからの提起を受けたもの。
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」に明確な定めがあるときには、それに従わなければなりません。しかし、そうは言っても実務的にそれが著しく困難な場合も想定されます。
その場合には、困難だとASBJに提起すると、別の対応を図るかどうかを検討することになっています。当該会計基準の第96項に規定されています。
で、電気業界とガス業界で論点になっているのが、検針日基準による売上計上です。ホラ、各家庭にメーターがついているじゃないですか。電気やガスの会社の方がメーターの針を目視で利用した量を確認すると、料金が請求されます。この検針を期末日に一斉に行うことは困難なため、検針を行った日をもって売上計上しているのが現状です。
収益認識の新基準が適用されると、検針を行った日の後から期末日までの利用量を見積り計上することが求められます。とはいえ、その期間に電気やガスをどれくらい利用したかを見積もることが、なかなか難しい。そこで、ASBJに提起されたのです。
KAMの新しい活用方法
提起を受けたASBJでは、利用者の声を聞いたり、海外の事例を分析したりしています。その中で、海外の同業他社におけるKAMで、検針日の後から期末日までの収益認識の見積りを取り上げている事例もチェックしていました。
KAMには、監査上の対応として、監査人が実施した手続が報告されます。その記載から、企業がどのような会計処理を行っているかを探ろうとしているのです。また、そうした見積りに対して監査が可能かどうかも確かめようとしています。もちろん、収益認識に関する注記の分析を踏まえたうえでのこと。
この議論にまだ決着はついていないようですが、興味深いのは、KAMが会計処理の端緒をつかむために利用していること、しかも、ASBJという会計基準の設定主体が行っていることです。これは、KAMの新しい活用方法といえます。
KAMそのものの分析
今回のASBJの審議資料から、KAMの新しい活用の仕方を目の当たりにしました。いや~、ホント、KAMには無限の可能性がありますね。いかようにも使えます。
ちなみに、KAMが早期適用された事例には、電気業の上場企業が1社ありました。そこでは、まさに電気料の売上計上が取り上げられていました。また、そのKAMの説明が詳しいとも評判になっています。
確かに、ボクの調べでは、2020年3月期の上場企業を対象としたKAMの早期適用事例の中では、文字数が多いものでした。具体的には、「監査上の対応」だけでは上位1位、「KAMの内容及び決定理由」と「監査上の対応」を合わせた文字数では上位5位という状況。
ただ、ボクの見立てによると、ここまで文字数の多くした理由があると考えています。それは、まさしく検針日基準に起因したもの。詳しくは、「財務報告の流儀 Vol.028」という投稿で説明しています。有料コンテンツですが、ご興味のあるかたはどうぞ。
P.S.
日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。
P.P.S.
2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。