こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
今日の2020年11月21日は、KAM(監査上の主要な検討事項)が内部統制報告制度に与える影響について報告してきました。監査人によるKAMが、経営者による内部統制の評価に影響を与えると考えています。
そんな話を簡単にシェアしますね。
日本内部統制研究学会
日本内部統制研究学会という組織をご存じでしょうか。内部統制について、研究者や実務家、監査人などが研究し、かつ、報告する場です。毎年、研究成果を報告する大会が開催されます。今年、開催されたのは、第13回年次大会。
年次大会には、大きく規定演技と自由演技に分けられます。規定演技とは、統一論題に関する報告と討議のこと。今年の統一論題のテーマは、「内部統制報告制度導入後10年が経過した実務上の課題と展望」と設定されています。
一方、自由演技とは、統一論題に関わらずに、報告者が自由に論題を設定するもの。ボクがお話ししたのは、この自由論題報告です。そのタイトルは、「KAMと内部統制報告制度との関係」。一部、制度提案も含んでいるため、統一論題テーマに関係した内容となりました。
KAMと内部統制報告制度
JICPAによる指針では、内部統制報告制度で検出された不備がKAMに与える影響については言及があります。しかし、その反対方向として、KAMが内部統制報告制度にどのような影響を与えるかについては、あまり議論された様子がありません。
日本でKAM導入が議論されている頃から、KAMから内部統制報告制度への影響があるものと考えていたため、今回、それを整理して発表した次第。発表時間が25分とする報告にあたって用意した資料スライドは、次のように構成しました。
- 本報告の目的
- 参考となる調査
- 業務プロセスの評価範囲とKAMとの関連
- 会計上の見積りの重要な仮定の内部統制に焦点を当てたKAM事例
- ITシステムを取り上げたKAM事例
- 内部統制報告書の記載状況の調査
- 〔調査1〕KAM早期適用企業における内部統制報告書の記載上の変化
- 〔調査2〕会計上の見積り等のKAMに関する内部統制の経営者評価
- 〔追加調査〕個別に評価対象に追加した業務プロセスの明記
- 調査結果からの考察
- 考察を踏まえた制度提案
- 提案に基づく内部統制報告書の記載イメージ
- 実務上の課題
- まとめ
- 参考文献
要約すると、こんな感じ。経営者も監査役等も、監査人とKAMについて協議しています。つまり、財務諸表監査で重要な事項を共有しています。これを知った以上、「あとは会計士サン、頑張ってね」では済まない。KAMとされた事項が財務報告の中で適切に記載されるよう務めるのがスジ。ならば、それを内部統制報告書に記載するのが適切。
重要な事項に対する包囲網
現在、財務報告の充実を求める開示制度が、重層的に包囲網的に進行しています。記述情報の充実も、会計上の見積りの開示に関する会計基準の適用も、その他の記載内容に対する監査基準の改正も、そしてKAMも、どれもが重要な事項が適切に報告されるために導入されています。
このように、有価証券報告書では企業の固有の情報が、また、監査報告書ではKAMとして監査に固有の情報が報告されている中で、内部統制報告書だけが従来のまま。しかも、金融庁からのQ&Aに示された記載例に従うだけの報告のため、ボイラープレート化しています。内部統制報告書の記載では、企業がどのように内部統制を行っているかが読み取れないのです。
今日の報告では、日本のKAM早期適用事例で、監査上の対応の記載で内部統制に深く言及したものも紹介しました。そのような深い記載が行えるのも、企業が深いレベルで統制を行っているからに他ならない。その実態がKAMだけに報告される一方で、内部統制報告書に何ら記載されないのはバランスが悪い。
そこで、内部統制報告制度における経営者評価とKAMとを整合させること、また、そのための方法案を提案しました。発表の途中でスライドが固まってしまったり、音声が途切れた方もあったりとしたため、お気苦しい点もあったかと思いますが、伝えたいメッセージが少しでも届いたのなら幸いです。
KAMによって財務諸表に注記が必要になる状況が想定されるなら、内部統制報告書にも記載が必要になる状況が想定されても何らおかしくない。
あなたは、どう思う?
P.S.
日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。
P.P.S.
2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。