Accounting

財務報告の充実の背景にある、企業側のマインド

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こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。

KAM(監査上の主要な検討事項)に関する新しいレポートが公表されました。それは、公益社団法人日本監査役協会サンからの「監査上の主要な検討事項(KAM)の早期適用に関する実態と分析-強制適用初年度に向けて-」です。

こちら、ぜひ、ご一読願いたい資料です。というのも、企業の財務報告に対する姿勢、素晴らしい姿勢が理解できるからです。ボクは、感動を覚えました。

KAM強制適用年度の監査役等の関わり方

この資料の目的は、KAMが強制適用される年度において、監査役等(監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会のこと)によるKAM の検討プロセスへの関与の参考となること。

KAMの早期適用の実例に基づいた分析を行うために、KAMが早期適用された企業のうち監査役協会の会員にアンケートが行われています。当事者に事情を聞くのが最も実態を明らかにできます。

そのため、アンケートの回答がところどころ紹介されています。企業サイドの生の声です。特に「2.早期適用に踏み切った経緯」から財務報告の姿勢がにじみ出ています。いくつか解説していきますね。

KAMの早期適用の主導者

監査役等の側から、会計監査人及び執行側に提案したケースがあったとのこと。しかも、制度化が決定した時点で提案しているそうです。監査役等がここまで積極的に早期適用に向けて動いていることに驚きました。財務報告に対する姿勢が凄すぎます。

執行側と監査人との間で早期適用に向けて協議したケースもあったようです。こちらは比較的イメージしやすいですね。KAMを報告する側と、それを受けて追加的な開示の要否を検討する側とががっぷりと組み合っている様子が目に浮かびます。

監査人からの提案を受けて、監査役等と執行側とがそれぞれ検討したうえでKAMの早期適用に踏み切ったケースもあります。踏み切った理由としては、開示を強化でき、ひいては株主に資するというのです。これまた、財務報告の姿勢が素晴らしすぎる。

企業がKAM早期適用に踏み切った理由

開示の強化の他にも、KAMの早期適用に企業サイドが踏み切った理由が紹介されています。

当初から早期適用ありきで対応を検討しているケースがあったそうです。強制適用を待つ選択肢がそもそもありません。おそらくは、世界各国の開示状況を理解されているのでしょう。イギリスの多くは2012年12月期からKAMが適用されたため、日本のKAM早期適用の2020年3月期には、すでに8回も報告されています。

また、社会的要請であり、企業の責務であるとの共通認識と答えたケースもありました。世界各国の中で周回遅れであり、また、金融庁からは「特に東証一部上場企業」にKAMの早期適用が求められていたことから、その期待に応えることが当然だと考えられたのでしょう。

さらに、IFRSを任意適用しているため、開示への姿勢としてKAMの早期適用が望ましいと考えた企業もあったそうです。これもグローバルの視点からの発想といえます。狭い日本市場でどうこう考えるのではなく、世界の金融市場の中での振舞いや、海外投資家に対する情報開示という面を踏まえたときに、IFRS適用企業としてKAM早期適用に協力することが適当と判断されたのでしょう。

企業が感じたKAM導入の効果

本資料では、KAM早期適用の効果についてもアンケートが実施されています。

5つの選択肢のうち最も回答が多かったのは、「監査役等、監査人、執行側相互のコミュニケーションが活発化し、監査品質が向上した」というもの。これに関して、次のような回答が紹介されています。

企業の事業リスク等に関する監査人・執行側・監査役会等の間の議論が、「株主・投資家の理解」を意識した形で進展し、それが新常態(ニューノーマル)となった

通常の執筆でも、読者の関心を理解するからこそ、記載する内容が満足度の高いものとなります。同じように財務報告でも、読者である投資家を理解することが極めて重要です。このことは、拙著『ダイアローグ・ディスクロージャー』(同文舘出版)で紹介した「ダイアローグ・ディスクロージャー・ジャーニー」の最初のフェーズとして位置づけているとおり。この回答のように、株主・投資家を理解することこそ、財務報告の充実につながるのです。

その次が、「投資家・株主やアナリストといった財務諸表の利用者にとって理解が深まった」です。これに関しては、次のような回答が紹介されています。

従来は画一的文章で目を通すこともなかった監査人の監査報告書が活きた報告書になったように思え、弊社ステークホルダーには、良い情報提供と感じている

この回答も、株主や投資家という財務報告の利用者にいかに役立つかに意識が向いています。こうしたマインドがなければ、財務報告は真に充実しません。小手先のテクニックでは、読者に見透かされてしまいます。

いや~、ホントに感動しますから、一度、ご覧ください。財務報告の充実の背景には、こうしたマインドをもった監査役等や執行側が存在していることを改めて認識させてくれますから。

P.S.

2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した『事例からみるKAMのポイントと実務解説』の内容は、こちらの紹介ページをご確認ください。

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