Accounting

2020年8月期にKAMが早期適用された事例

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。

今日は2020年12月1日。その前日までが、2020年8月期の有価証券報告書の提出期限。つまり、当該決算期に関するKAM(監査上の主要な検討事項)の早期適用の有無が判明する日。

また、登場しましたよ、KAMが適用された事例が。ただ、ちょっと特殊な案件かと。

2020年8月期のKAM早期適用事例

今回、KAMが早期適用された会社は、非上場で金融商品取引法監査が適用されている鳴門ゴルフ株式会社。個別財務諸表の監査のみが適用されています。その監査人は個人の会計士。

KAMは早期適用されたとお話ししましたが、報告されたKAMはありません。「監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項はないと判断」されたからです。

とはいえ、単純にKAMが「ないと判断」された訳ではありません。条件が付されています。その直前には、「『継続企業の前提に関する重要な不確実性』に記載されている事項を除き」と記載されているからです。

GCの取扱い

対象企業の個別財務諸表の監査報告書には、KAMの前に、「継続企業の前提に関する重要な不確実性」いわゆるGCに関する事項が記載されています。これが、いわばKAMのようなもの。この「継続企業の前提に関する重要な不確実性」は、KAMとして記載してはいけない決まりとなっています。

確かに、GCの検討は継続企業の前提に関わるため、財務諸表監査で最も監査資源を投入して重点的に検討が行われる性質といえます。しかし、これをKAMとして記載するとGC以外の事項に紛れてしまうため、とても重要な情報でありながらも目立たなくなってしまいます。そこで、KAMと同じような性質ではあるものの、財務報告の利用者に対して注意喚起するために、あえて独立した区分で記載することが求められているのです。

対象企業に対する監査でも、こうした決まりに従って、GCに対する検討について、KAMとして記載することなく、「継続企業の前提に関する重要な不確実性」という見出しの下で説明されています。

不確実性がない場合の取扱い

こうした取扱いは、継続企業の前提に関する「重要な不確実性」がある場合に限ります。財務諸表にGC注記が付されるに至ったケースです。

これに対して、重要な不確実性がないために、財務諸表にGC注記が付されずに、記述情報における開示にとどまるケースもあります。企業が置かれた状況次第では、財務諸表にGC注記が付されることもあるため、監査人は継続企業の前提に関する検討を特に重要なものとして判断することが想定されます。

この場合、監査報告書には「継続企業の前提に関する重要な不確実性」として独立した区分を設けることにはならず、KAMとして記載するものと考えられます。ここで気をつけたいのが、KAMの見出し。「継続企業の前提に関する検討」と記載しては、財務報告の利用者が「継続企業の前提に関する重要な不確実性」があると誤解してしまいかねないから。

KAMの見出しを工夫すべき必要性

では、どうするか。そのヒントが、日本公認会計士協会からリリースされている監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」A41項に示されています。そこでは、次の記載があります。

そのような状況においては、監査報告書における監査上の主要な検討事項の記載において、重要な営業損失、利用可能な借入枠、負債の借換え又は財務制限条項への抵触の可能性、及びこれらを軽減する要因など、財務諸表又はその他の記載内容に開示された特定の事象又は状況に言及することがある。

このようにKAMの見出しを工夫することで、「継続企業の前提に関する重要な不確実性」と誤解されることなく、GCに関する検討をKAMとして記載することができます。ボクがKAMに関連したセミナーを行うときには、こうした工夫が必要なことも伝えています。新型コロナウイルスの影響を受けて、以前よりもGC検討が行われる状況が増えていると考えられるからです。

以前、KAMに関連したセミナーを解説する会計士が少ないと聞きました。そんなボクも、今のところ、KAM関連のセミナーについて具体化したものはありません。

そのため、ボクの解説を聞くには、プロネクサスさんで行ったWebセミナーを視聴するしか手段がありません。ただ、視聴ができるのは、2020年12月21日(月)17:00まで。残すところ、3週間。

工藤静香サンの楽曲『MUGO・ん…色っぽい 』のAメロ冒頭の歌詞じゃないけど、KAMについてお伝えしたいことは溢れ出てきます。お声がけいただければ、馳せ参じますよ。

P.S.

2020年3月期の上場企業を対象として、個々のKAMについて解説した「財務報告の流儀」シリーズがこのブログで投稿されています。ワンコインによる課金コンテンツのため、お試し版をこちらで用意しています。

P.P.S.

2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。

財務報告の充実の背景にある、企業側のマインド前のページ

IPOへの一番の近道次のページ

関連記事

  1. Accounting

    帰ってきた、「シン・収益認識」

    経理部長「大きな受注があったと聞きましたよ」営業部長「耳が早…

  2. Accounting

    嬉しすぎる書評

    本を書いたときに、コメントをいただけることほど嬉しいものはありません…

  3. Accounting

    KAM強制適用事例、第3号の登場

    こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。…

  4. Accounting

    2020年10月期にKAMが早期適用された企業は何社か

    2021年も2月に入りました。ということは、前月の1月末が、2020…

  5. Accounting

    八田進二・堀江正之・藤沼亜紀『【鼎談】不正-最前線』から学ぶ

    不正は起きるものである。 これは、八田進二氏、堀江正之氏、藤…

  6. Accounting

    リスクを過大に表現しないための見積開示セミナー

    その見積開示の注記。もしかすると、リスクを過大に表現しているかもしれ…

  1. Accounting

    Can You Keep A Secret?
  2. Accounting

    セミナー「見積開示会計基準実践講座」を収録してきました
  3. FSFD

    定性的なシナリオ分析のプロセスがわかる海外事例
  4. Accounting

    財務諸表の表示チェックリストをアプリ化したら
  5. Accounting

    コラム「唐揚げランチと収益認識の会計方針」を寄稿しました
PAGE TOP