こんにちは、KAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。
KAM(監査上の主要な検討事項)を分析にするときに、こんな「落とし穴」にハマっていないでしょうか。「KAMの記載は短いほうが良いか、長いほうが良いか」でお話しした、KAMを内容別に切り刻んでいく方法とは違う間違いを。
よくある、モッタイナイKAMの分析
あなたが見かけるKAMの分析とは、こんな感じなんじゃないだろうか。のれんの評価だったり、繰延税金資産の回収可能性だったりと、ある内容のKAMを取り上げたうえで、何が書いてあるかを説明するもの。
ちょっとだけ気が利くと、同じ内容の他のKAM事例との比較も加えていますね。あっちのKAMではああだったのに、こっちのKAMではこうだったと。やはり、何が書いてあったかどうかにフォーカスしています。
もっと気が利くと、企業の開示とも照らし合わせます。財務諸表の注記事項にとどまる解説もあれば、記述情報まで範囲を広げたものもあります。監査人の視点だけではなく、企業の視点も含めて検討しているため、分析の結果も多様になります。ただ、これも何が書いてあったかどうかの域を超えないことがあります。
このように、KAMとして提示されたものだけを分析していくのが、KAM分析の「落とし穴」なんです。体感覚的に、その落とし穴にまんまとハマっていることすら気づいていない解説が多いのではないでしょうか。
KAMを利用した究極の分析の仕方
KAM分析の「落とし穴」にハマらならい人は、KAMに何が書いてあったかどうかでは終わりません。なぜ、それがKAMなのかのそもそも論を検討します。裏を返せば、なぜ、他の事項がKAMになっていないかに目を向けるのです。
例えば、のれんの評価を取り上げたKAMを見たときに、「ああ、会計上の見積りだからね」と済んでしまっては、KAM分析の「落とし穴」にハマるだけ。そこで分析を深めたところで、手のひらの孫悟空状態。監査人が仕掛けたかもしれないトリックに騙されてしまいます。
このとき、のれんの評価を取り上げたKAMが提示されても、「いや、それよりも重要な項目があるよね。なぜ、そっちじゃなくて、のれんなの?」と指摘できると、上級者。KAMとされていない事項のほうが重要だと考えられる局面では、監査人がそれを選ばなかった理由や背景を探ることが有意義な分析となります。
その中には、合理的にKAMが決定されていると腑に落ちることもあります。「金額的な重要性や質的な重要性に照らすと、そういう決定の仕方もあるよね」と納得できるなら、問題ありません。
一方、「会計上の見積りを単純に選んでいるだけなんじゃないの?」「この監査人は企業と十分かつ適切な協議が行えていないのではないか」「企業から、これを書くなとプレッシャーがかかっているのでは」と勘ぐられるようでは、企業のガバナンスが良好とはいえません。
第4章には43の解説があります
KAMになっていない事項まで言及した分析は、むしろ、アクティブ運用の投資家に必須のハズ。企業がいくらカッコいいことを報告していても、こうしてガバナンスの状況が透けて見えるのですから、これ以上の有益な材料はありません。
こうした解説が、2020年3月期の上場企業で早期適用されたKAMに対して行われている書籍があります。それは、『事例からみるKAMのポイントと実務解説: 有価証券報告書の記載を充実させる取り組み』(同文舘出版)。
その第4章「その他の業種におけるKAM」では、2020年3月期の上場企業で早期適用されたKAMのうち製造業や金融・保険業以外の事例について、KAM分析の「落とし穴」にハマらない解説を行っています。
もちろん、すべてがすべて、こうした分析を行っているワケではありません。企業と監査人とが十分かつ適切な協議を行っていると推測できる事例も少なくないからです。ただ、KAMに何が書いてあったかどうかだけではなく、KAMとして決定されなかった事項まで含めた解説は、他にないでしょう。
第4章では、8社、実質的に報告されたといえる41のKAMに対して、43の解説を行ってます。具体的に挙げるなら、まず、こういった内容があります。
- 監査人と企業との重要度の違い
- 利用可能な外部データの具体例が示された優良事例
- 記述情報がKAMによって影響を受けかねない
- 会計上の見積りに関する重要な仮定に相違がある場合の対応
- 重要な仮定と感応度分析とが充実した記述情報
- KAMでITシステムが取り上げられる場合の留意点
- 個別財務諸表の監査報告書に記載されるKAMの問題点
- 会計上の見積りの重要な仮定レベルでの認識共有
- 重要な仮定の認識の違いに備える
- 会計上の見積りだけではKAMの決定理由にならない
- 連結と個別とでKAMを書き分けた好事例
また、KAMに何が書いてあるかについても、実務的な観点から抑えた説明も含まれています。
- 潜在的な影響を推測するために必要な記載
- 企業が専門家を利用するときに求められる姿勢
- 同じ言い回しでKAMが報告されるときの対策
- 投資家との対話や翌期の開示などに関心が集まる事例
- 文章作成にあたって気をつけたい「なお書き」
- 重要な仮定そのものがKAMとされた優良事例
- KAMで言及されないことに企業が備えること
- 監査プロセスを示すKAM事例
- 減損テストに関する企業の開示の優良事例
- 企業の開示の意図を反映させるためにKAMを添削
- 具体的なデータ名の記載で理解度が高まる事例
さらに、一般的な解説とは異なる見解を述べたものもあります。といっても言いがかり的なものではありません。監査基準にのっとった議論を展開しています。
- この一覧表でKAMの決定プロセスは透明化されたのか
- KAMとして取り扱われない理由を探る
- 同じ会計上の見積りの項目でも重要な仮定を書き分けた優良事例
- 監査役とのコミュニケーション単位とKAMの見出し
- 連結財務諸表監査のKAMにはならなかった理由
- 見積りの仮定の重要性と関連統制への言及とで優良な事例
- 「必要に応じて」の言葉で違和感を覚えられる可能性
- 同じ記載が多用されたKAMの意義
- 専門用語と正確性のバランス
- KAMの情報提供機能を果たすための制度上の課題
この他、2020年12月25日にASBJから、「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」として、ある業界における収益認識に関する取扱いが検討されたものが公表されました。KAM早期適用事例には、これに配慮したような書きぶりがあることも指摘しています。
- KAMをわかりやすく表現する工夫の前提にあるもの
- KAM対応は周辺の開示制度と密接な関係にある
- 読み手の期待に応えるためのKAMの報告の仕方
- KAMとして報告されなかった事象を探る
- 金額的な重要性を踏まえると、収益認識がKAMとなる
- ITシステムを取り上げたKAMの優良事例
- 明確な会計基準のない重要な取引を扱うKAMへの期待
- 記載の仕方を参考にしたいKAM事例
- 別個に報告する意義のあるKAM
- 慎重な表現と考えられるKAM事例
- 優良な企業の開示をKAMでさらに深めた事例
ボクが会計士だからといって、仲良しクラブ的な、差し障りのない解説ではありません。大手や準大手の監査法人に所属していては言いにいくいことも、KAM制度がより良き方向に進んでいくために、企業の開示が充実するために、財務報告の利用者に役立つために、本心をぶつけています。
そうした性格の解説は、ぜひ、本書をお手にとって、ご確認ください。ただ、本書は500ページに至るほどに厚みがあります。また、扱っている内容も極めてニッチ。店頭に並ぶ書店も限られると想定されるため、今すぐ予約をして、本書を確保することをオススメします。
P.S.
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P.P.S.
2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。