Accounting

見積り開示会計基準は、決算短信でこう開示された

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。

今日は、2021年5月14日。45日内の決算発表を前提とすると、2021年3月期の企業の多くが決算短信を開示していることになります。

注目したいのは、見積り開示会計基準に基づく注記。これが、有価証券報告書に収録される監査報告書でKAM(監査上の主要な検討事項)として報告される可能性があるからです。

加えて、記載例が提示されない中で、各社がどのような開示を行ったかについても関心が高まるところ。箇条書きなのか、表形式なのか、といった記載の仕方から手探り状態。

しかし、決算短信では、財務諸表注記のすべてが求められるワケではありません。速報性を求める性質上、主な注記の記載だけを求めています。そのため、見積り開示会計基準に基づく注記が必ずしも開示されるとは限らないのです。

そこでボクは、日々、発表される決算短信を調査していました。計算書類や有価証券報告書の財務諸表で注記を考えていらっしゃる企業もあるかと思いますので、その結果をシェアしますね。

決算短信で注記を行った企業

2021年5月13日までに発表された決算短信を対象として、見積り開示会計基準に基づく注記を開示した企業は、次に掲げる32社でした。なお、記載の順番は、直近の発表日から遡っています。

  • ㈱山陰合同銀行
  • 平和紙業㈱
  • CKD㈱
  • ㈱住友倉庫
  • ㈱AOKIホールディングス
  • ジェイ・エスコムホールディングス㈱
  • 第一工業製薬㈱
  • ㈱アイビー化粧品
  • 日糧製パン㈱
  • タカラバイオ㈱
  • ㈱ジーネクスト
  • アイフル㈱
  • ㈱ラック
  • ㈱ジェイ・エム・エス
  • 日本ギア工業㈱
  • 古河電気工業㈱
  • ㈱丸井グループ
  • ㈱安藤・間
  • 三井住建道路㈱
  • キョーリン製薬ホールディングス㈱
  • ㈱システナ
  • 全国保証㈱
  • 図研エルミック㈱
  • 富士石油㈱
  • 日本システムウエア㈱
  • 極東貿易㈱
  • スガイ化学工業㈱
  • ㈱ニッカトー
  • コネクシオ㈱
  • 三菱倉庫㈱
  • 日鉄ソリューションズ㈱
  • NECネッツエスアイ㈱

注記された項目の数

32社で注記された項目の数は、53。1社当たりの平均で、1.7。最大は、4。その分布状況は、次のとおり。

項目数注記した企業の数
1つ16社
2つ12社
3つ3社
4つ1社

1つだけ注記した企業が最も多い状況でした。企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」25項で「比較的少数の項目を識別することになると考えられる。」と示された考え方に沿った結果となりました。

注記された内容

見積り開示会計基準に基づく注記の内容について、ボクのほうでタグ付けして集計したところ、次のような結果でした。

注記内容注記した企業の数
繰延税金資産の回収可能性13社
固定資産の減損12社
貸倒引当金7社
棚卸資産の評価6社
その他の引当金4社
収益認識(工事進行基準)4社
工事(受注)損失引当金3社
退職給付債務2社
収益認識(変動対価)1社
投資の評価1社

KAMの日本での早期適用事例のように、減損と繰延税金資産の回収可能性が多いですね。将来計画に基づくため、不確実性が高まるからだと考えられます。

該当なしの事例

これらの企業の他に、「重要な会計上の見積り」はないと注記した企業もありました。それは、次の2社です。

  • ㈱PALTAC

翌事業年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある会計上の見積りはありません。

  • ユナイテッド㈱

新型コロナウイルス感染症について、今後の広がり方や収束時期等を正確に予測することは困難な状況にありますが、当社グループの事業活動及び業績への影響は限定的であることから、当連結財務諸表における会計上の見積り及び仮定に与える重要な影響はありません。

実際、こうした開示もありうるものと考えています。特に業績が好調で、かつ、減損を心配するような資産グループもなければ、翌期以降の会計上の見積りで不確実性が高いものが想定されないこともあるからです。

拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』では、重要な会計上の見積りに関する記述情報の箇所ではあるものの、「今後の実務の積み重ねを通じて、「該当なし」と明記する事例が増えてくることも考えられます。」(P.248)と解説しています。この点、有価証券報告書における開示状況に関心が高まります。

このような状況で、見積り開示会計基準に基づく注記が開示されています。これらの実際の注記について、ひとつの資料にまとめています。決算短信を発表し終わっているため、あまりニーズがないかもしれませんが、興味があれば、こちらもシェアしようかと考えています。

そんなニーズ、ございますか?

P.S.

まだ、決算短信が発表されていない2021年3月に、見積り開示会計基準に基づく注記のうち、減損会計について解説した記事をアップしています。固定資産の減損について注記したいが、どう書けばよいのかに戸惑っているなら、こちらを読んでみてください。

P.P.S.

見積開示会計基準に関する徹底解説について、書籍『伝わる開示を実現する「のれんの減損」の実務プロセス』でおこないました。こちらもご覧ください。

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