Accounting

KAMの適用2年目に、ますます問われるもの

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日本では、KAM(監査上の主要な検討事項)が適用されて2年目を迎えるのが、2022年3月期の決算。最近3ヶ月の間に、KAMに関する資料が続々とリリースされています。

  • 2021年12月20日、日本監査役協会「監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用初年度における検討プロセスに対する監査役等の関与について」
  • 2022年2月2日、日本証券アナリスト協会「証券アナリストに役立つ監査上の主要な検討事項(KAM)の好事例集」
  • 2022年3月4日、金融庁「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント」

こうして、適用2年目に向けた情報が、しかも、より有用な内容で記載されたKAMに期待が寄せられています。KAMとして取り上げられるテーマが前回と同じなのか、あるいは、異なるのか。異なる場合に、インサイトを与えるようなKAMが登場するのどうか。それとも、前回と同じテーマでありながらも、その記載内容を見直すのかどうかなど。注目は高まるばかり。

そんな中、ボクが当初、適用2年目で増えるだろうと予想していたテーマが、収益認識会計基準の適用初年度に関するKAM。昨年の夏、『旬刊経理情報』(2021年8月20日・9月1日合併号、No.1620)に「英国の開示事例から学ぶ 収益認識基準への監査役等の対応ポイント」を寄稿したとおり、英国企業にIFRS第15号が初めて適用された年度において、収益認識の適用初年度を記載したKAMが少なからず登場していたからです。

しかし、今の時点では、別のテーマに注目しています。それは、先日のブログでもお伝えした、ロシアとウクライナの件です。これらの国に投融資を行っていたり、事業展開していたりする企業では、事業の撤退を進めているところもあれば、債権や出資の回収に走っているところもあるでしょう。

 

収益認識のKAMが吹き飛ぶ理由

このように、通例ではない活動が短期間に、かつ、激しく行われると、財務諸表にも影響を及ぼします。これは、財務諸表監査においても、今回の件に対して監査資源がより多く投入されることにもなります。企業が置かれた状況によっては、これが2022年3月期の財務諸表監査において特に重要な事項として監査人から判断されることもあるでしょう。

すると、ロシアとウクライナの件に関する会計上の論点やそれに伴う監査上の論点が、KAMとして取り上げられる状況が容易に想像できるのです。その内容は、投融資の評価や在庫の評価、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性、コベナンツ抵触による継続企業の前提など、さまざまなものが考えられます。継続企業の前提や開示後発事象、見積開示会計基準に基づく注記などの開示面に着目されることも十分にあり得ます。

今回の件に直接関わっていない企業や監査人にとっては、あまり臨場感のない話かもしれません。しかし、関わりのある者にとっては、2020年3月期における新型コロナウイルス感染症とは別の意味で、不確実性が高いと感じているはずです。そうした現場では、収益認識の適用初年度に関するKAMが、もはや吹っ飛んでいることでしょう。

 

「その他の記載内容」に注意せよ

注意したいのは、この2022年3月期から、いわゆる「その他の記載内容」に関する手続が適用されること。監査人は、有価証券報告書でいうと記述情報の箇所について、財務諸表監査で知り得た情報と整合しているかどうかを検討するのです。この手続が何気にやっかい。

監査人が「その他の記載内容」に関する手続を行った結果、監査報告書に特に記載すべきことがなければ、財務諸表と記述情報とが整合していることを意味します。もし、記述情報でロシアとウクライナの件について財務諸表に重要な影響が及んでいると開示されていた場合に、今回の件の影響が大きいことについて、監査人は監査報告書を通じて伝えた形となります。

しかしながら、そのような場合にこれをKAMとして取り上げなければ、企業と監査人との間に認識の差があることが丸わかりです。しかも、「その他の記載内容」には異常がないとしているため、KAMのほうが異常だと財務諸表の利用者から解釈されるおそれがあるのです。「重要な事項に然るべき監査資源を投入していないのではないか」との疑念の目を向けられかねない。

 

開示後に待つのは投資家との対話

こうした目は、監査人側だけに向けられるものではありません。企業側にも、その可能性があるのです。投資家との対話の場で、「監査人と何を協議しているのか」と質問されてもおかしくはないからです。

もちろん、ロシアとウクライナの件について直接的な影響がない企業でも、同じ話。企業の開示と監査人のKAMとで、合理的な理由がなく重要な事項が異なると、両者の認識が共有されていないことが問われる可能性があります。その意味で、KAMの分析は、KAMだけを対象とすると、こうした点がすっぽり抜け落ちてしまうため、要注意。

2022年3月期以降の決算では、企業の開示とKAMとの整合性にますます注目が集まります。そう、思いませんか。

 

P.S.

KAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。

 

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