Business model

イノベーティブもユニコーンも注目すべきは気候変動銘柄

重要ではないと考えているものは、目の前にあっても気づかない。これは、脳科学の世界で知られていること。人は、重要と思っているものしか注意が向かないのです。

そんなことを気候変動に関することで痛感しました。ユニコーン企業の定点観測を行う中で、見落としていた企業がそれ。まさか、ベンチャーでも、気候変動に関連する銘柄が注目を浴びていたとは。

 

■もっともイノベーティブな企業のランキング

あるセミナー講師の話を聞いて以来、ベンチャー企業の世界情勢をチェックするために、アメリカのビジネス誌「Fast Company」を入手するようにしています。毎年、春前後に、最もイノベーティブな企業のランキングが掲載されるためです。

2022年の第1位は、Stripe社。ご存知でしょうか。この企業は、気候変動関連の銘柄なんです。同社は、オンライン決済企業に向けてソフトウェア「Stripe Climate」を提供しています。これを利用すると、売上の一部を野心的な二酸化炭素除去技術に資金を提供する戦略に参加できるのです。

他にも、気候変動の銘柄がランクインしています。化学産業の脱炭素化を手掛けるSolugen社(第2位)、都市を急速にグリーン化するBlocPower社(第4位)、温室効果ガス(GHG)排出量を独自に追跡するClimate Trace社(第5位)、オールインワンの気候変動対策を行うWatershed社(第6位)など。

この記事を見たときに感じたのは、アメリカの政権変更の影響。ホラ、アメリカって、共和党は気候変動に懐疑的なのに対して、民主党は積極的といいますよね。2016年から2020年までのトランプ政権は共和党だったことから、今になって、気候変動に関する銘柄が一気に注目を浴びたのではないかと。しかし、これは大間違い。

 

■世界のユニコーン企業のランキング

ベンチャー企業の世界情勢をチェックするにあたって、もう1つのリソースも活用しています。それは、スタートアップやベンチャー企業関連の情報を取り扱うCB Insights。こちらで、ユニコーン企業のリストが公表されています。

ボクはユニコーン企業の定点観測として、毎年、6月になると、これをチェックしています。今年も6月になったため、最新データを確認しました。いやいやいや、とんでもないことが起きていました。世界でユニコーン企業が、数も金額も急増していたのです。

ユニコーン企業の数は1,146社と、前年同期の704社から62.8%の増加。その評価額も総額3兆8,092億ドルと、前年同期の2兆2,823億ドル比で66.9%の増加。簡単にいうと、1.6倍以上の伸びを見せていたのです。

2017年の時点では、その数は213社、評価総額は7,387億ドルであったため、この5年間でどれだけユニコーン企業が誕生・成長しているかがわかるでしょう。特に、ここ2年間は急増しています。

その原因を探るべく、地域別の企業数や業種別の企業数、地域別の評価総額や業種別の評価総額、また、評価額別の企業数などを調べてみました。どれも、前期比較して。

その結果、全体の伸びを牽引しているのは、アメリカ企業でしたね。どの分析でも、かなりの割合を占めていました。ビジネスモデルはもちろんのこと、ベンチャー企業の成長を後押しする環境も整っているのでしょう。

 

■気候変動の銘柄に注目

ここで、気になっていたことを確認しました。「Fast Company」誌における2022年のイノベーティブ企業ランキングに入っていた気候変動銘柄はどのような状況かと。特にStripe社は、第1位に選ばれるくらいだから、ユニコーン企業に違いない。そう考えて、各社の状況を調べました。すると、次のとおり。

 Fast Company イノベーティブ・ランキングCB Insights ユニコーン・ランキング
Stripe1位4位(95B$)
Solugen2位627位(1.5B$)
BlocPower4位
Watershed6位1,112位(1B$)

Stripe社は、なんと第4位になっていました。評価総額は950億ドルと、ユニコーンを超えての「デカコーン」。もう一桁増えた「ヘクトコーン」まで、あと一歩の状況です。他の2社もユニコーン企業となっていましたね。

ところで、このStripe社、いつユニコーン企業になったか確かめたところ、2019年からトップ10に入っていました。2019年が6位、2020年が4位、2021年が2位、今年の2022年が4位。ユニコーン企業そのものには、2014年から加わっていたようで。トップ10の経年変化のリストを作り、また、同社に色も塗っていたのに、まったく気候変動の銘柄だとは気づいていませんでした。

 

■気候変動の会計と監査

さすが、マネーの世界は、世の中の動向を押さえていますね。リーマンショック後は気候変動が金融リスクの文脈で語られているため、政権がどうであれ、経済への影響を評価しています。その意味で、気候変動の銘柄に着目するのは至極当然の流れ。

だから、気候変動の情報開示が企業に求められます。それは、TCFD開示でとどまりません。財務諸表への影響も必至。そもそも金融リスクに着目した議論ですからね。また、TCFDの「FD」も財務情報開示の略語。財務諸表に影響が及ばないワケがない。それは当然に、監査にも及びます。

気候変動の会計と監査。ますます目が離せなくなりました。

Big Ben Tower London England City - mathewbrowne / Pixabayコラム「もしも、英国の監査委員会が、有報の『監査役監査の状況』を記載したら」を寄稿しました前のページ

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