2022年7月に、『伝わる開示を実現する「のれんの減損」の実務プロセス』がリリースされます。
減損といっても、減損会計基準の解説では終わりません。減損を取り巻く現在の制度開示は、減損会計基準の他にも、見積開示会計基準や有価証券報告書の記述情報の充実に加えて、KAM(監査上の主要な検討事項)もあるからです。さらには、気候変動リスクの影響まで踏まえる必要にも迫られています。
こうした制度開示について事例を挙げながら解説するともに、これらを有機的に関連づけたうえで減損リスクの実務プロセスを提案するのが、この本です。そこで、このブログでは各章を紹介するスタイルで、本書に込めた想いをお話ししていきます。
今回は、第2章の「減損会計基準等に基づく注記」についてです。
ここでのポイントは、何と言っても、のれんの減損に関する会計処理の解説です。今回の執筆にあたって、減損会計に関する実務書を数多くリサーチしました。ところが、のれんの減損について詳しく解説したものが、実は少ないことに気付きました。多くの本では、設備投資の減損に重点を置いています。
しかし、設備投資の感覚で、のれんの減損を考えてはいけない点があります。それを象徴する論点が、永続価値。
設備投資の減損会計なら、耐用年数の終わりが到来した時点で、将来キャッシュ・フローを獲得できなくなることが想定できます。したがって、残存耐用年数が20年未満なら、そこまでの検討で済みます。もちろん、それが20年を超える場合には、その後の将来キャッシュ・フローも考慮します。
一方、のれんの残存耐用年数が20年未満の場合に、設備投資の減損と同じような感覚で、永続価値を考慮していないような印象があります。もちろん、残存耐用年数とすることは、減損会計で規定されたもの。そこに反論するわけではありません。そうではなく、事業投資なのに、残存耐用年数までの検討で終わってよいのか、というのが素朴な疑問でした。
IFRS会計基準では、のれんを償却しないため、毎期、減損テストの実施が求められています。のれん自体の評価は当然にできないため、事業価値を評価していきます。その際、当然ながら永続価値も考慮します。企業価値や事業価値の評価をご存知なら、何ら違和感はないでしょう。ある時点が到来した瞬間にキャッシュ・フローが獲得できない状況は想定されないからです。
そもそも、ROE的にも無理な話。例えば、のれんの償却年数を5年と設定したとします。のれんと取得した事業とは切り離せないため、のれんを含めた投下資本を5年で回収する計算になります。つまり、ROEは20%。国内を前提としたときに、どんなに優良な案件なんですか、と。
そこで、減損の会計基準や適用指針を注意深く読み込むと、やはり永続価値も考慮することがわかります。また、この点について言及していた実務書は1冊しか見つけられなかったため、お悩みの論点かもしれません。そこで、本書の第2章では、この点を詳しく解説しています。
目次の構成は、次のとおりです。
1.減損プロセスの全体像
2.のれんの減損の判定単位(減損プロセスの前提)
(1)資産のグルーピング
(2)のれんの分割
(3)のれんの配分
(4)決算資料で引き継ぐべき2つの事項
3.のれんの減損の兆候(減損プロセスのステップ1)
(1)減損の兆候を検討しなければならない理由
(2)減損会計基準等における減損の兆候の例示
(3)企業結合会計基準における減損の兆候
(4)子会社株式の減損処理に関する留意事項
(5)リスクマネジメントに基づく判断
4.のれんの減損損失の認識(減損プロセスのステップ2)
(1)論点は割引前将来キャッシュ・フローの見積り期間
(2)原則法(より大きな単位)による判定方法
(3)容認法(資産グループに配分)による判定方法
(4)ステップ2の「見える化」に重要な事項
5.のれんの減損損失の測定(減損プロセスのステップ3)
(1)論点は割引率の設定
(2)原則法(より大きな単位)による測定方法
(3)容認法(資産グループに配分)による測定方法
(4)資本コストに基づく経営を踏まえた割引率
6.減損会計基準等に基づくPL注記
(1)要求事項
(2)PL注記の記載状況
(3)根源的な問題点
このように、のれんの減損に特有の論点について説明したうえで、減損会計が定める注記事項のあり方を解説しています。現在の制度会計に照らして、注記すべき事項や不足している事項などを提示しました。
もし、「設備投資の減損ならわかるんだけと、のれんの減損はちょっと」と不安があるなら、第2章に収録している図表「減損の判定プロセスとのれんに特有な論点」がオススメです。設備投資と対比しながら、事業投資であるのれんの減損について論点を一枚の図表にまとめているからです。
このように、のれんの減損について、会計処理における論点が何かが明確になるため、それに基づく注記事項に反映させるべき事項も理解できるようになります。第1章で紹介した、減損会計の公開草案における注記事項へのコメントとの関係も明示しています。「伝わる開示」を実現するためには、不可欠な作業がそこにはあります。
このブログではこの本を紹介したページを用意しているため、詳細が気になったときには、ぜひ、こちらをクリックしてください。