こちらのページにお越しいただき、ありがとうございます。会計不正への対応に関心をもって、このページに辿り着いているのではないでしょうか。書籍『会計不正~平時における監査役の対応』では、不正対応の知見がゼロからでも、10分間で会計不正への対応手続が立案できるようになることを目指します。
厳しく問われはじめた監査役の責任
監査役には、年々、会計不正に対応することの期待が高まっています。公益社団法人日本監査役協会による「監査役監査実施要領」では、平成19年4月の改定において、監査役による企業不祥事の対応が示されました。
また、金融庁の企業会計審議会が平成25年3月に設定した「監査における不正リスク対応基準」では、会計監査人である公認会計士や監査法人と、不正リスクの内容や程度に応じて適切に協議するといった連携が求められました。
一方、ここ十数年の中で、大和銀行事件やダスキン事件、足利銀行事件、ライブドア事件、大原町農協事件など、監査役の法的責任に関する裁判例や判例において監査役の責任を認めるものが登場するなど、監査役の責任が厳しく問われる傾向にあります。
しかしながら、内部統制システムの監視に努めたとしても、会計不正の発生を現実的に100%ゼロにすることはできません。また、会計不正が発覚した後に被害の拡大防止や会計不正の再発防止に努めたとしても、その発覚までの間で会計不正を見逃してしまったと認定されると、法的な責任が追求される可能性も十分に考えられます。
このような環境の下で、いざ会計不正に対応しようとしたときに、「具体的に何をすれば良いのだろう?」と悩むことがあるのではないでしょうか。腕を組み、眉間にシワを寄せながら検討しても、具体的な対応手続にまで落とし込めないこともあったことでしょう。
このとき、会計不正への対応手続を検討するにあたって、不正調査の専門家が実施しているアプローチが参考になります。不正調査の専門家には、公認不正検査士や弁護士、公認会計士などが挙げられます。
こうした専門家が実施している手続を監査役監査の中に取り込むことができたなら、会計不正への対応手続を立案して実施することができるようになります。
不正対応に欠かせない「仮説検証アプローチ」
会計不正への対応には、会計不正が実行されている事実を発見するための手続を実施することが必要です。このためには、「仮説検証アプローチ」と呼ばれる手法を適しています。これは、①情報の収集、②情報の分析、③仮説の構築、④仮説の検証のサイクルを回していくものとなります。
「こんな会計不正の手口が実行されている」という仮説を構築したうえで、その仮説が成立するかどうかについて検証手続を実施していくのです。その仮説を裏付ける証拠が得たときには、その会計不正の手口を発見したことになります。
ただし、仮説検証アプローチで最も難しいところが、③仮説の構築と④仮説の検証です。仮説の構築にあたって、「売上高の前倒し計上」や「棚卸資産の架空計上」といった会計不正の手口を具体的に挙げるためには、あらかじめ手口に関する知識が必要となります。
また、仮説の検証にあたって、検証手続に落とし込むためには、具体的な会計不正の手口が「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」実行されるかについて詳細に想定する必要があります。
これらをカバーするには、不正調査に関するセミナーや研修を受講する、不正調査委員会による調査報告書を数十本読み込むといった努力の継続が欠かせません。しかし、不正調査の専門家でもない限り、そうした研鑽に多くの時間は配分できないでしょう。
本書の特徴
そこで書籍『会計不正~平時における監査役の対応』では、まず、会計不正の手口を具体化するためのツールとして「会計不正のスキーム・マップ」を提示します。利益を増減させる要因となる損益計算書の科目と、手口の巧妙さとをマッピングさせることによって、会計不正の手口を具体化することができます。
次に、会計不正の手口を詳細化するツールとして「仮説検証アプローチのクイック・バージョン」も提案します。これは、不正調査の専門家の判断過程を7つのステップとして細分化したものです。料理のレシピに従うことでシェフの味を再現できるように、仮説検証アプローチのクイック・バージョンを用いると不正調査の専門家の手続を再現できるでしょう。
さらに、検証手続の立案に資することを目的として、8つの不正事例について、会計士と弁護士の視点を交えながら解説していきます。単に不正事例の内容を理解できるだけでなく、いざ検証手続を立案するために必要となる観点も得ることができます。
こうした内容について、会計不正に現場に直面した経験があり、また、会計不正を調査する第三者委員会の補助業務も行っている公認会計士と弁護士とがタッグを組んで解説していきます。
平成26年9月18日に、私たちが講師となって「平時における会計不正への対応~ゼロからの仮説検証アプローチ~」というセミナーを開催しています。このセミナーには、監査役をはじめ、内部監査の担当者、CFO(財務担当役員)、経理財務部門の管理者にお越しいただきました。当日のアンケートには、次のような声が寄せられています。
- 「仮説検証アプローチ(クイック・バージョン)の紹介、ありがとうございます。さっそく、社内で活用してみます」
- 「『リスクに対応するコントロール』が非常に役に立つ資料と感じました」
- 「会計不正の防止に内部統制システムの有効性を疑問に感じており、新たな対応を考えられるようになった」
このセミナーの内容を大幅にブラッシュアップさせて完成させたコンテンツが、書籍『会計不正~平時における監査役の対応』になります。
本書の構成
そのような特徴をもつ書籍『会計不正~平時における監査役の対応』の構成は、次のとおりです。
第1章 会計不正に対する監査役監査は今のままで十分か
この章では、監査役が会計不正により深度のある対応ができるようになるべき理由を説明していきます。
これによって、会計不正の発生に関する誤解がなくなるともに、監査役が会計不正に取り組むべき必要性や適格性が理解できるようになります。
第1章 会計不正に対する監査役監査は今のままで十分か
Ⅰ なぜ会計不正に対応しなければならないのか
1 本書の目的
2 不正の概念
3 会計不正の定義
4 察知すべき会計不正のサイン
Ⅱ 会計不正の発生に関する3つの誤解
1 【誤解1】当社には会計不正は発生しない
2 【誤解2】会計不正の発生可能性が低い
3 【誤解3】会計不正のサインはみつけられる
Ⅲ 会計不正へのより深度のある対応とは?
1 会計監査は会計不正の発見を目的としない
2 業務監査で会計不正の発見手続は実施されるか?
3 監査役の法的責任の動向
Ⅳ 監査役が会計不正に取り組むべき理由
1 関連プレイヤーの中で最も適任な者は?
2 会計不正に対応できるスキル
第2章 平時における会計不正への対応
この章では、不正調査で用いられる仮説検証アプローチを解説していきます。このアプローチは、会計不正の兆候がある「有事」の際に、その兆候に基づき会計不正の手口を仮説として構築するものです。
しかしながら、会計不正が発生していない「平時」では、会計不正の仮説を構築するための兆候がそもそも発生していません。
本章で解説する「会計不正のスキーム・マップ」を用いることによって、平時においても会計不正の具体的な手口を仮説として構築することができるようになります。
第2章 平時における会計不正への対応
Ⅰ ビジネスの現場における「仮説検証」
1 仮説に基づく必要性
2 仮説検証におけるメリットとデメリット
3 仮説検証のステップ
Ⅱ 不正調査における仮説検証アプローチ
1 概要
2 【ステップ1】情報の収集
3 【ステップ2】情報の分析
4 【ステップ3】仮説の構築
5 【ステップ4】仮説の検証
Ⅲ 平時に仮説検証アプローチを実施する際の留意点
1 平時における仮説検証アプローチの目的
2 仮説の「とりあえず構築」
3 会計不正のスキーム・マップ
4 注意すべき手口
Ⅳ 不正事例を理解するための2つのツール
1 不正事例を読む理由
2 【ツール1】業務プロセスの単純化モデル
3 【ツール2】会計リスクガバナンス
第3章 売上高の前倒し計上
第3章から第10章までは、実際に発生した会計不正の事例を解説していきます。「会計不正のスキーム・マップ」に沿って、営業活動に関連した事例を取り上げています。
具体的には、売上高の前倒し計上、仕入高の未計上、棚卸資産の原価付替、売上高の架空計上、仕入リベートの架空計上、棚卸資産の架空計上、売上高の循環取引になります。これらに加えて、資産の不正流用についても説明しています。
また、不正事例の内容を解説するだけではなく、会計士と弁護士とがそれぞれの視点で同じ事例について言及しています。このため、会計や法律の基礎や会計不正の対応におけるポイントなどが理解できます。
第3章 売上高の前倒し計上
Ⅰ 不正事例の概要
1 会社プロフィール
2 会計不正に至った背景
3 会計不正の手口の詳細
4 財務諸表に与えた影響
5 発覚からその後の対応
Ⅱ 会計士の視点
1 「期ズレは平気」という曲解を改めよ
2 売上計上の2つの誤解
3 「引渡し」が意味するもの
4 売上計上プロセスの単純化モデルと前倒し計上リスク
5 売上高の前倒し計上リスクへのコントロール
Ⅲ 弁護士の視点
1 売上債権についての与信・債権管理の視点でのチェックポイント
2 取締役は金商法上の責任を問われるか
3 「会計リスクガバナンス」による分析
4 内部通報制度の導入・見直し
5 新規株式上場の影
第4章 仕入高の未計上
第4章 仕入高の未計上
Ⅰ 不正事例の概要
1 会社プロフィール
2 会計不正に至った背景
3 会計不正の手口の詳細
4 財務諸表に与えた影響
5 発覚からその後の対応
Ⅱ 会計士の視点
1 費用の先送りは許されない
2 仕入計上プロセスの単純化モデルと未計上リスク
3 仕入高の未計上リスクへのコントロール
4 子会社の決算スケジュールは適時開示に耐えられるか
5 報告先は親会社ではなく株主
Ⅲ 弁護士の視点
1 売上原価の簿外処理を防ぐ仕組みづくりを
2 本社・本業より周辺エリア(子会社・非本業)に要注意
3 親会社の子会社管理責任
4 会計リスクガバナンス視点での分析
5 内部監査の活用
6 グループ会社の内部通報窓口を設置すべき場所
第5章 棚卸資産の原価付替
第5章 棚卸資産の原価付替
Ⅰ 不正事例の概要
1 会社プロフィール
2 会計不正に至った背景
3 会計不正の手口の詳細
4 財務諸表に与えた影響
5 発覚からその後の対応
Ⅱ 会計士の視点
1 工事完成基準における原価付替の4パターン
2 工事進行基準における原価付替のパターン
3 外注費計上プロセスの単純化モデルと原価付替リスク
4 原価付替リスクへのコントロール
Ⅲ 弁護士の視点
1 資産の架空計上・過大評価の不正のチェックポイント
2 職務分離の不徹底は「不正の温床」
3 不正を抑制する人事ローテーションとは
4 自社の一部で生じた不正事例は全社的点検を促す「イエローフラッグ」
5 会計リスクガバナンス
第6章 売上高の架空計上
第6章 売上高の架空計上
Ⅰ 不正事例の概要
1 会社プロフィール
2 会計不正に至った背景
3 会計不正の手口の詳細
4 財務諸表に与えた影響
5 発覚からその後の対応
Ⅱ 会計士の視点
1 売上債権の滞留は異常な事態
2 管理部門を軽視する姿勢は要注意
3 売上計上プロセスの単純化モデルと架空計上リスク
4 売上高の架空計上リスクへのコントロール
Ⅲ 弁護士の視点
1 売上債権・売上高についての財務分析的視点を踏まえたチェックポイント
2 非定型取引に対するモニタリングの強化を
3 「会計リスクガバナンス」による分析と社外取締役の重要性
4 指摘事項が改善されないことは会計不正の強いサインを示す「レッド・フラッグ」
第7章 仕入リベートの架空計上
第7章 仕入リベートの架空計上
Ⅰ 不正事例の概要
1 会社プロフィール
2 会計不正に至った背景
3 会計不正の手口の詳細
4 財務諸表に与えた影響
5 発覚からその後の対応
Ⅱ 会計士の視点
1 訂正報告書の要否判断のしかた
2 仕入リベート計上プロセスの単純モデルと架空計上リスク
3 仕入リベートの架空計上リスクへのコントロール
Ⅲ 弁護士の視点
1 特殊な商慣習がある取引は重点モニタリングする仕組み作りを
2 不正リベート等に関する早期発見・抑止策
3 有価証券報告書等、計算書類の訂正
4 内部統制システムの不備を指摘した監査役の法的責任
第8章 棚卸資産の架空計上
第8章 棚卸資産の架空計上
Ⅰ 不正事例の概要
1 会社プロフィール
2 会計不正に至った背景
3 会計不正の手口の詳細
4 財務諸表に与えた影響
5 発覚からその後の対応
Ⅱ 会計士の視点
1 子会社における月次決算のレベル感
2 棚卸資産計上プロセスの単純モデルと架空計上リスク
3 棚卸資産の架空計上リスクへのコントロール
Ⅲ 弁護士の視点
1 資産の架空計上・過大評価を回転期間の指標でチェックする
2 海外子会社への親会社による監視・統制の難しさ
3 リスクベースに基づく海外子会社における会計不正防止への取組み
4 内部調査委員会と第三者委員会との役割分担
第9章 売上高の循環取引
第9章 売上高の循環取引
Ⅰ 不正事例の概要
1 会社プロフィール
2 会計不正に至った背景
3 会計不正の手口の詳細
4 その他の循環取引の手口
5 財務諸表に与えた影響
6 発覚からその後の対応
Ⅱ 会計士の視点
1 兼務で無効化される内部統制
2 循環取引に関連するリスクとコントロール
Ⅲ 弁護士の視点
1 多様な商品・サービス、多様な取引類型を含む循環取引
2 取引関係者・商品・取引の商流の全体像を把握しよう
3 不正リスク発見・抑止につながる現物確認を工夫する
4 帳票類(契約書・契約関係書類等)を確認・分析する
5 IT業務統制の整備
第10章 資産の不正流用
第10章 資産の不正流用
Ⅰ 不正事例の概要
1 会社プロフィール
2 会計不正に至った背景
3 会計不正の手口の詳細
4 財務諸表に与えた影響
5 発覚からその後の対応
Ⅱ 会計士の視点
1 現金着服の概要
2 キャッシュ・インにおける着服への対応
3 キャッシュ・アウトにおける着服への対応
Ⅲ 弁護士の視点
1 最も割合の高い不正類型である資産流用等
2 小規模組織における職務分離・牽制機能の確保
3 効果的なモニタリング手法とその重要性
4 不正行為者にみられる会計不正のサインのチェックリスト
第11章 ゼロから始める仮説検証アプローチ
この章では、不正調査の知見がゼロであっても仮説検証アプローチを実施できるように、入門用のツールとして「仮説検証アプローチのクイック・バージョン」を提示しています。
そこでの7ステップを進んでいくことによって、会計不正の手口を詳細化できるとともに、仮説を検証するための手続を立案できるようになります。
第11章 ゼロから始める仮説検証アプローチ
Ⅰ 知見ゼロに立ちはだかる仮説検証アプローチの3つの壁
1 抽象性の壁
2 専門性の壁
3 懐疑心の壁
Ⅱ 仮説検証アプローチのクイック・バージョンの利用
1 知見ゼロでも使用できる入門ツール
2 7ステップで立案する検証手続
3 クイック・バージョンの本当の狙い
会計不正に巻き込まれる人がいる
会計不正の現場に立ち会った経験からわかることは、会計不正には、首謀者や協力者だけでなく、それに巻き込まれた人もいることです。
それは、社内監査役であればかつての同僚や部下かもしれませんし、社外監査役であれば信頼関係を築いてきた方かもしれません。
もちろん、会計不正に巻き込まれずに反対や阻止することが適切な措置であることは言うまでもありません。しかし、経営者や上司などから共謀を求められたときに、それに反対や阻止をすると会社には残っていられずに退職となると考えることもあるでしょう。転職環境が厳しい場合や扶養家族がある場合などには、簡単には会社を辞められない現実があります。
そのため、不本意ながらも会計不正に巻き込まれていく人が存在することは、私たちの経験だけではなく、いくつかの不正調査委員会による調査報告書にも記されているとおりです。
ただ、こうしてやむを得ず会計不正に巻き込まれた人の中には、それを阻止できる者の目に留まるように、何かしらのSOSを残しているケースがあります。そのSOSは、例えば、会計仕訳の摘要欄に「○○部長の指示による」と書き残すものから、その時期の計上としては不自然な科目や細目をあえて用いるものなど、多種多様です。
これらは、会計不正の首謀者や協力者らには見つからないようにしながらも、それを阻止できる者には見つけてもらえるように期待して発信されています。つまり、経営者や上司などにストップをかけられる立場の者に向けて発信しているのです。そう、それは監査役です。
経営者や上位管理者にモノを言える立場には、社外の会計監査人も挙げられます。とはいえ、会計監査人が会計不正を発覚した場合であっても、その是正を求める先は、従業員による会計不正であれば経営者と監査役であり、また、経営者による会計不正であれば監査役です。
つまり、誰が発覚しようと、最終的に会計不正を対処すべき立場にあるのは、会社の中では監査役に他なりません。
監査役がSOSを察知して早期に対処することによって、会計不正に巻き込まれた人の人生や経歴を傷付けずに守ることができます。是非、会計不正に立ち向かって、会計不正に巻き込まれた人を救って欲しいのです。
いったん会計不正に手を染めると、当初は少額であっても、その後に手口を繰り返して多額になっていく傾向があります。これは、早期に会計不正を発見しなければ、その被害は拡大していくことを意味します。
会計不正への対応を先送りにすると、もし会計不正が実行されていたときには、発覚が遅れてしまうため、あなたの同僚や部下、信頼関係を築いてきた方の傷が深くなる可能性があるのです。
書籍『会計不正~平時における監査役の対応』が提示する「仮説検証アプローチのクイック・バージョン」を早速、実務で用いて、不正対応の第一歩を踏み出すことを願っています。
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