もうすぐクリスマスですね。街並みにイルミネーションが増えてきました。温かいオレンジ色のライトアップを見ると、ほっこりしてきます。
クリスマスといえば、クリスマスパーティー。仲間や友達とホームパーティーをしたり、レストランで集まったりと、盛り上がる予定をいくつか立てているかもしれません。
そんなクリスマスパーティーという言葉で、勘違いした経験があります。それは大学生の頃。友達が「クリパ、どうする?」とか「クリパ、行くよね?」とか話しているのを耳にしました。
「クリパ」なんて、東京に出てきて初めて聞いた言葉。最初は何を言っているのか、わからない。でも、楽しそうに話しているし、ひとりでするものでもなさそうだったので、何かのパーティーであることには気づきました。
しかし、問題は「くり」のほう。12月に「クリパ」の言葉を聞いたものだから、きっと、楽しんで年越しをする「繰越しパーティー」のことだと勘違い。忘年会みたいなものかと思い込んだのです。
というのも、ボクがいた大学では、2年生から入ることができる会計士コースや税理士コースがありました。それは、通常の授業とは別枠で学校側が用意していたもの。1年生のときは、それらのコースに入るための簿記の部会で、日商簿記検定1級を目指して簿記の勉強をしていました。
その簿記では、決算日における在庫のことを「繰越商品」という用語で表現します。その略語は、「繰商(くりしょう)」。商業簿記ではモノを仕入れて販売するケースを前提とするため、在庫が出てこない問題はありません。
あまりにも頻繁に使うことから、簿記の勉強に勤しんでいたボクは、「くり」と聞くと、つい「繰商(くりしょう)」が思い浮かびます。そのため、頭の中で「クリパ」が「繰越しパーティー」だと解釈することに何の違和感もありません。
そんな状態だから、「クリパ」は、年を繰り越すために集まるパーティーだと信じて疑わない。でも、会話の様子からして、少しニュアンスが違うのかもと感じ始めます。そこで、恐る恐る「クリパって繰越しパーティーでしょ?」って聞いたら、友達は唖然。そりゃ、そうだ。
こんな風に、普段、何気なく使っている略語は、他の人からすると違う解釈をされることがあります。それは、企業の開示資料でも同じ。決算短信や事業報告、有価証券報告書などでビジネスの状況を説明する箇所があります。そこで、何の説明もなく略語が使われることがあります。
ある程度普及している略語であれば、問題はありません。今や「IT」と聞いても誰もが「情報技術」だと理解してくれますが、使い出された当時はカッコ書きで「情報技術」と説明を添えていたものです。信じられないと思いますが、10年ほど前でもそんな記載をしていたものです。
気をつけたいのは、略語を使うと、読み手に理解してもらえないこと。書き手側によほどの魅力がある場合には、読み手は略語も必死で解読して読み続けてくれます。しかし、そうではない場合には、読み手は途中で読むことを止めます。あなたの伝えたいメッセージを届けられなくなるのです。
ビジネス書の世界では、ふんぞり返っている読者を想定しながら文章を書くことを勧められます。いかに関心のない人に興味をもってもらえるかに細心の注意を払っているのです。そうした中で、読み手を無視して、何の説明もなく略語を使う暴挙はあり得ない。
ボクも著者の端くれの端くれとして、読み手を配慮しながら文章を書くように努めています。そこでは、納得してもらえるためのロジックが必要であり、また、感情を動かすための心理的なアプローチも必要です。さらには、読み手を巻き込むためにストーリーを語ることも必要です。それらをどう盛り込むかを考えて実践していくのが、楽しくて楽しくてたまりません。
そんな意味でも、略語には気をつけます。説明もなく、いきなり使っていないかどうかは、推敲で見るべきチェックポイントのひとつ。読み手がメッセージを誤解しないためには大事なこと。ビジネスでもメッセージの投げかけ方には要注意。そう、大学生のボクが「クリパ」を「繰越しパーティー」と勘違いしないように。
P.S.
文章を書くときに、読者を特定することの大事さを教えてくれたのは、このエンパシーライティング。もう、これなしに本を書くことはできません。
・中野巧『6分間文章術――想いを伝える教科書』