Accounting

収益認識の消費税はおそろしく大変

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

 収益認識の新会計基準。やっぱり、どうも好きになれない。なんて人も少なくないでしょう。

 今日、とある先生から、収益認識の新会計基準に関する税務についてレクチャーを受けていました。そこで、会計の処理と消費税の処理とが比較して説明されていました。法人税はほぼほぼ会計に同じなため、論点としては、会計と消費税との違い。

変動対価だと、こんな会計処理に

 そこで挙げられていたのは、変動対価の設例。1000個売ると単価5,000円のところ、2000個売ると単価が4,000円になるというもの。

 これまで、1000個売った年度では500万円の売上が計上され、また、翌年に1000個売ると400万円の売上が計上されました。そうですよね。

 しかし、収益認識の新しい基準では、2000個売るのが予想されるなら、1000個売った年度では、単語が最終的に4,000円になることを見越して、つまりは、2つの年度の単価をならして、初年度も次年度も450万円の売上を計上するのです。

 確かに、単価が低くなるのが見込まれるのであれば、そのように会計処理するのが妥当でしょう。最初から単価4,500円を想定した取引なら、同じ数量を販売している2つの年度で、売上が異なるのはおかしいのは分かります。あらかじめ単価が低くなることを前提とした会計処理をすることの正当性に何ら疑いはない。

買い手の会計処理はどうなる

 しかし。しかし、ですよ。

 この新基準はあくまでも売り手の話。買い手の会計処理は何ひとつ変わりがありません。仮に、買い手のほうも、単価4,500円で購入することを前提にして販売単価を4,700円と設定していたとします。

 どちらの年度も450万円で仕入れる前提なので、結果的にいずれに年度でも20万円の利益が出る計算。これは、ビジネスとして何もおかしなところはありません。

 ただ、会計としては、収益認識が新基準になったとしても、買い手には取引のとおりに会計処理を求めます。だから、初年度は500万円の仕入が、翌年度には400万円の仕入が計上されます。すると、仕入れたものがすべて売れたと仮定したときに、初年度は30万円の損失、翌年度は70万円の利益になります。

 累計では同じ結果ですが、単年度では利益と損失でえらい違い。どちらかの年度の株主になるなら、偏りが出るのは必至。もともと会計の発生主義という考え方は、同じような活動をしたら、同じような利益が出ることを想定したもの。ところが、この収益認識の新基準は、それを無視したことを要求するのです。

新会計基準の背景に思いを馳せると

 では、本当に、そんないびつな状態になることを、会計基準の作成者は望んでいるのでしょうか。会計基準を作る人たちが、買い手の会計処理に気が及ばないなんてありえない。当然に、そういう批判もあることを承知でリリースしているハズ。とすると、こんな新会計基準が出来上がった背景として、次の2つが考えられます。

 1つは、本当に買い手の会計処理のいびつさは気にしていないこと。損益計算書のトップラインさえ揃えた形になれば満足する、というもの。さすがに、そんな浅はかなことは想定しにくい。とすると、この選択肢は消えます。

 もう1つは、業務処理がややこしいと会計処理がもっと複雑になるというアナウンス効果を狙ったもの。今のビジネスの動向としては、とにかくシンプルに向かっています。価格体系がシンプルなのか、あるいは、提供サービスがシンプルなのか。どちらかがシンプルでないと顧客から選ばれない時代。

これからのビジネスのあり方

 そんな時代背景を想定すると、もはやビジネスの形態としてややこしいことはするな、というメッセージを出していると考えるほうが自然。むやみやたらに複雑な処理になるのは誰だって喜ばない。変動対価をはじめとしてややこしいことはするな、シンプルになれ、と会計基準が言っているようにさえ感じてしまいます。

 えっ、そんなに、ややこしくなるの、って?

 何、言っているんですか、消費税の対応まで考えたら、おそろしいことですよ。そうじゃなくても、消費税率が10%にアップするのに加えて、経過税率の8%だって、これまでの国税と地方税とで内訳が異なります。つまり、これまでの8%と、経過税率の8%とを区別しないと、消費税の申告納税にまったく太刀打ちできないってこと。あっ、そうか。税務からも、ややこしいことをするなとメッセージを出しているのかも。

 そんなことを想いながら受講していた研修でした。とにかく、消費税のことを考えるなら、ややこしいことは止めましょう、とにかく。悪いことは言わないから。

P.S.
 2020年8月23日に、緊急レポート「新・収益認識の対応プロジェクトが進まない理由」を作成しました。収益認識の新基準への対応プロジェクトが進まずに悩んでいる方々に向けてヒントになれば幸いです。

 PDFファイルで全68ページの小冊子です。文字がびっしりの資料ではないため、読みやすいと思います。無料で手に入れられるので、ぜひ、こちらのページからダウンロードしてください。

P.P.S.

こちらのE-Bookも、大した告知をしていないにもかかわらず、お手にとっていただいております。お役に立てば何よりです。

 

望む状態になりやすい簡単な取り組み前のページ

収益認識の新基準の消化仕入れと消費税次のページ

関連記事

  1. Accounting

    不正調査報告書から対応に直結させるA4一枚まとめ術

    会計不正――それは、誰もが望まない事態です。そのため、その発生を防止…

  2. Accounting

    明らかになった! 2020年3月期のKAM早期適用事例

    こんにちは。KAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。 KA…

  3. Accounting

    寄稿「統合報告の保証業務における『主要な検討事項』の有用性」

    こんにちは、企業のKAM対応のスペシャリスト、竹村純也です。…

  4. Accounting

    有報の役員報酬の開示はストーリーを語れ

    大金といえる金額を設定してください、と言われたら、いくらにしますか。…

  5. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.035 オリックス、あずさ

     文豪ゲーテが開示責任者なら、財務報告の流儀を求めたことでしょう。「…

  6. Accounting

    ABCバンブーメルマガ 2020年3月7日号

    新型コロナウイルスがビジネスに影響を与えていく中で、上場企業はそのこ…

  1. Accounting

    A4一枚で不正対応! 内部監査担当者必見のセミナー開催
  2. Accounting

    『東京改造計画』から学ぶイノベーションの起こし方
  3. Accounting

    KAMの2021年2月期の早期適用と2021年3月期の強制適用
  4. Accounting

    期末決算スケジュールの10連休インパクト
  5. Accounting

    『監査の品質に関する研究』からKAMの課題を学ぶ
PAGE TOP