もうご覧になられましたか、金融庁サンのホームページ。これすごいですよ。というより、より良い財務報告を進めていきたいと考えているボクにとっては、むしろ悔しいと感じるほど。それほど優れもののリリースがあったのです。
それは、2019年3月19日に公表された「『記述情報の開示に関する原則』及び『記述情報の開示の好事例集』の公表について」のこと。昨日のブログ記事「有報の英訳とKAMの決算スケジュール影響」と同じように、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告の提言を踏まえて取りまとめられたものが、これ。
ここで有価証券報告書の「事業の状況」の記載について、その原則とともに、好事例として実際の企業の開示を取り上げているのです。その範囲は広く、次の5つ。
・経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
・事業等のリスク
・MD&Aに共通する事項
・キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容等
・重要な会計上の見積り
これらの領域について、上場企業の開示事例の中から優れものを紹介しているのです。それにしても、この辺りの制度改正の背景を十分にはキャッチアップできていない企業さんもいらっしゃるハズ。好事例も含めた改正状況の解説セミナーとして、2時間くらいは余裕で行えそうなので、どこかでやってみようかしら。
閑話休題。
実は昨日、このうちの「重要な会計上の見積り」の開示について調査していたところでした。というのも、今年の4月と6月に、ボクの所属する法人の東京事務所・大阪事務所・名古屋事務所で計5回、KAM(監査上の主要な検討事項)のワークショップを開催するため。
このワークショップは、KAMの作成をトライアルしていく内容になっています。しかし、監査人がいくらKAMを頑張って作ったところで、それに対応して企業が追加開示しなければ意味がない。だから、どんな追加開示が必要になるかについても、あらかじめ手当しておく必要があります。その具体例をワークショップの中で紹介したくて、まさに昨日、「重要な会計上の見積り」について良い事例がないかを調査していたのです。
そうした中で、金融庁サンがそれをリリースしてくれたのです。しかも、資料の作りも綺麗。どこかに発注したのか、あるいは、スライド作成のスキルがアップしたのか。いずれにせよ、一度、ご覧いただきたいシロモノ。しかも、開示事例は今後随時更新していく予定とのこと。これは楽しみ。
ただ、ひとつ気になるとすれば、この取りまとめを規制当局が行っていること。こうした取り組み自体はとても有り難いものの、基本的には取り締まりを担う組織のため、あたかもお墨付きを与えたかのようにならないか、それを勝手に心配しています。
ホラ、例えば好事例として紹介していた企業が開示不正を行ったときに、金融庁サンにバッシングの矛先が向くことが容易に想像できます。反対にいえば、そのリスクも承知で今回のリリースに至ったってこと。より良い財務報告を目指す者の端くれとして感謝しかありません。
今回は金融庁サンが率先してリリースしたものの、本来的には民間側でこうした取り組みをやるべき。今後はKAMの事例も出てくるため、企業側の開示、KAMの記載ともに、良い事例を選別したうえでシェアする組織が必要なんじゃないでしょうか。
それは規制当局でもなく、会計基準の設定主体でもなく、さらには企業・アナリスト・会計士のいずれかに偏った団体でもなく。そんな組織が財務報告やKAMの事例を分析し、また、良い点を紹介していく。それが企業や監査人にフィードバックされて、翌年度の財務報告やKAMに反映されていく。そんな循環を通じて、各々のレベルの向上を図っていくのです。
もし、そんな組織が出来たのなら、ボクが今まで取り組んできたことをいろいろと活かせそう。例えば、財務報告のプレゼンテーションであったり、あるいは、一つ一つの文章のライティングであったり。また、事例分析なんていうのも、大好きな仕事。その分析結果に基づき、みんなが使いやすいように汎用的なメソッドやツールにすることも得意なほう。
だから、そんな組織があれば喜んでお手伝いしちゃいます。そんな組織、一緒に作りませんか。
P.S.
日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。