なんだか、切ないよ。あのラーメン屋さんに、いつものオヤジさんがいないから。
今日、新宿のとあるラーメン屋さんに行ってみました。初めて訪れたのは、20年ほど前のこと。その当時はひとつのお店だったところ、改装工事に合わせて、番頭さんがすぐ近くにラーメン屋さんを出したのです。ボクは番頭をしていたオヤジさんが好きで、そちらに通い続けていました。
のれんをくぐると、最初に聴こえてくるのは、オヤジさんの「いらっしゃーい」という元気な声。今思えば、これを聴きに来たといっても過言じゃない。また、オーダーが入ったときの、「あいよー」という声も好き。
どんなお客さんにも同じトーンで、同じ声量で元気な掛け声をかけます。繁盛店であったため、これらの掛け声がひっきりなしに店内に響きます。他のスタッフは、黙々とラーメンを作ることに集中しています。オヤジさんが最後のチャーシューとノリを乗せて出来上がり。
ところが、今日。そのお店で、すぐに席につけたのです。そう、お客さんが少なかったのです。今までは、昼も夜も満席が普通だったところ、随分と風景が変わってしまいました。
おそらく原因は、あのオヤジさんがいなくなったから。
1年ほど前にお店に行ったときにも、オヤジさんの姿が見えませんでした。かなりの高齢だと思うため、引退されたのかもしれません。今日もいない。あの「いらっしゃーい」が聴けない。
いつものメニューを注文して待っている間、お店を観察してみると、店内のスタッフがいきいきしていないように感じます。お客さんの数も影響しているのでしょうが、それにしても、オヤジさんがいた頃の様子とは違う。
注文したラーメンがやってきて、スープを味わい、麺をすすります。当時とそう変わるところはない。お店に流れているラジオも、当時のまま。しかし、オヤジさんがいないのです。
そう考えると、あのオヤジさんがいたから、このラーメン屋さんに通っていたのだと理解しました。これ、ビジネスで見落としがちな点。
つい、スペックで勝負しようとしてしまいます。麺の歯ごたえが良いだとか、スープが澄んでいるとか、チャーシューが特別だとか、そういったスペックで他の店よりも上に行こうとする。そうすることで集客できると勘違いしているのです。
しかし、スペックじゃないんです。最終的には、経営者のキャラ。これが最も大事なんです。
もちろん、一定のスペックを確保することは必要。いくらオヤジさんのキャラが立っていても、ラーメンが美味しくなければ、次の来店はない。それなりのスペックがあることが大前提。
また、そのスペックを維持・向上していく努力も必要。ある時期に美味しくても、時が立つにつれて、お客さんの好みも変われば、周りのお店の味が向上していく。オヤジさんのキャラが良くても、味が時代に追いついていなければ、お客さんは来なくなる。
実際、繁盛店が必ずしも味が美味しいとは限らない。また、潰れる店が美味しくないとも限らない。つまり、そこまで美味しくなくても繁盛することもあれば、美味しくても潰れるお店があるのです。味は繁盛のファクターのひとつではあるものの、唯一のファクターではないのです。
とすると、他のファクターで重要なものとは何か。会計監査という仕事を通じて数多くの企業を観察し続けた結果、ボクが至ったのは、経営者のキャラ。手掛けているビジネスで一定のスペックを確保・維持・向上しているなら、あとは経営者のキャラにかかっていると考えています。
一方で、経営者のキャラなんて関係ないビジネスの仕方もあるでしょうし、それを否定するつもりもありません。それはそういうビジネスのスタイル。良いか悪いかの区分じゃなく、好きか嫌いかの区分。
だから、あなたが提供するビジネスが一定のスペックを確保しているなら、次はあなた自身を少し前に出してみてはいかがでしょうか。これにご了承いただけるなら、元気よく返事をしていただけますか。「あいよー」と。