Accounting

横並び意識が強い会社の、KAMとの付き合い方

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

このブログで、マジックに参加してみませんか。所要時間は、3分もかからない。えっ、こんなオッサンの手品に付き合いたくないって。これでも絶賛なんですよ。と、自画自賛していると、散々な目にあったりしてね。では、始めます。

「1」と「2」と「3」を思い浮かべて、今、ピンときた数字は何でしょうか。

 実は、冒頭で心理的な作用を仕掛けました。これは、「プライミング効果」と呼ばれるもの。人は、先に与えられた情報によって、その後の行動が影響を受けやすい。そんな作用を意図的に操ることが、この効果。

 この効果がうまくハマったなら、あなたが思い浮かべた数字は「3」。他の数字を選んでいたなら、ご愛嬌ということで。

 で、仕掛けをばらすと、冒頭の説明に「さん」という言葉を散りばめました。【参】加、【3】分、オッ【サン】、絶【賛】、自画自【賛】、【散】々、という具合に。また、このブログ記事の写真も、ハートとバツとが3つずつ。こうして「さん」をあらかじめ耳に入れてたり、視覚で触れたりしておくことで、ついつい「3」の数字を選びたくなるように仕掛けているのです。

 このプライミング効果を財務報告に関連して使うことができます。例えば、KAM(監査上の主要な検討事項)への対応。あなたが上場企業の経理部門や財務部門などで財務報告に関わっているなら、監査人からKAMの適用について説明を聞いているでしょう。

 KAMとは、監査人が、財務諸表監査の監査報告書に、監査のプロセスを記述するもの。従来は定型の文章しか記載されていなかった監査報告書に、KAMとして監査人が自由記載する文章が追加されるのです。このKAMには、3月末決算なら2020年3月期に早期適用が認められるため、監査人から協力を求められている企業もあることでしょう。

 ところが、あちこちの情報を聞いていると、企業側としてはKAMの早期適用に消極的な姿勢が多いようで。というのも、監査プロセスを記載する過程で企業のリスクがさらされる可能性があることや、企業側に追加の開示が必要となる可能性があることから、積極的にはなれないのかもしれません。

 KAMを早期適用した場合には、その企業の開示姿勢が高く評価されることは、どのアナリストも口を揃えて話しています。KAMの早期適用に協力する企業は、高く評価される。このことは、2018年12月に開催したセミナー「上場企業へのKAMインパクト」で時間をとって解説したところ。

 ところが、早期適用しなくても良いという消極派のほうが、積極派を上回っている模様。上場企業のすべてを母集団とした統計的なデータは持ち合わせていませんが、どうも、そういう雰囲気。

 その中でも、横並び意識が強い業種に属している会社や、そういう業種でなくても横並び意識が強い会社では、「ウチがわざわざ先頭を切らなくても良い」と考えるかもしれません。同業他社の状況が見えてくるまでは待ちたい、という気持ちが強い。

 しかし、横並び意識が強いからこそ、KAMの早期適用に協力する意義があります。その理由は、プライミング効果。

 横並び意識が強い業種なら、どこの企業も早期適用には協力しないことが想定されます。その結果、KAMが強制適用される2021年3月期になった対応していくこととなる。このとき、周りの出方を探りながら対応を進めていかなければなりません。ただ、KAMそのものは監査人が記載するため、情報交換がどこまで可能なのかは不透明です。

 そうした中で、あなたの会社が率先してKAMの早期適用に協力すると、どうなるか。そこでのKAMの記載内容のレベルが、同業の中でお手本となるのです。つまり、それと同じレベルのKAMに同業他社が追随するのです。

 もちろん、KAMを書くのは監査人です。ただ、KAMを書かれる企業としては、同業のKAMのレベルを意識して監査人と協議するハズ。そのため、早期適用したKAMの記載に近いレベルに収束していくと想定されるのです。

 すると、「同業他社があのレベルでKAMが書かれているから、ウチの会社のKAMも少なくとも同じレベルで書かなきゃいけない」というプレッシャーから解放されます。「えっ、そこまで書くの」というレベル感をコントロールすることにもなるのです。しつこいようですが最終的には監査人の判断のため、別の結果となることもあり得ます。

 そういう意味では、先日のブログ「KAMに相当する事項、リリースされたってよ」でお知らせした事例は、プライミング効果として大きな意味を持っています。日本語で書かれた本気のKAMはこれしかないため、監査人はもちろんのこと、企業側も業種を超えて参考にされるでしょう。勝手な憶測ですが、もしかすると「KAMの記載レベルはこれだ」と先手を打ったのかもしれません。

 このように、企業側としても、もっと戦略的にKAMの早期適用への協力に取り組んでも良い。その価値は十分にあります。

 だから、このブログで、KAMの早期適用に協力してみませんか。そうそう、たった今の文章もプライミング効果ですよ。

P.S.

日本におけるKAM早期適用事例の分析について、当ブログでは「財務報告の流儀」というシリーズ投稿で解説しています。ただ、ワンコインの有料コンテンツとして提供しているため、「お試し版」をこちらで用意しています。

P.P.S.

2020年3月期に早期適用されたKAMについて分析した結果は、拙著『事例からみるKAMのポイントと実務解説』にてご覧いただけます。まずは、こちらの紹介ページをご確認ください。

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