Accounting

相性問題から収益認識の新基準に迫る

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。)  

最近、耳にしなくなった言葉に、「相性」があります。あなたとボクとの相性のことではありません。それはまた後でお話しするとして。

 ここでの相性とはパソコンにまつわるもの。これを理解していないと、なぜ収益認識の新基準があんな面倒くさいステップを踏むのかが永遠に謎となってしまいます。

パソコンとの相性問題

 パソコンには、複数のパーツから構成されています。本体でいえば、CPUもあれば、メモリもあれば、ボードもある。また、その周辺機器として、モニタもあれば、プリンターもあれば、外付けのメディアもある。

 これらのパーツは、一つ一つを見れば良品であるにもかかわらず、組み合わせたときに正常に動かないことがある。これをパソコンの世界では、「相性が悪い」と呼びます。1990年代や2000年に入った頃には、普通に起きていた症状。

 また、この相性は、ソフトウェアにもありました。表計算や文書作成のアプリケーション。今じゃ略して「アプリ」と呼ぶもの。あるアプリをインストールすると、別のアプリと競合するために、パソコンの動きが悪くなるのです。これも、「相性が悪い」と呼びました。

 さらに、パーツとソフトウェアにも相性の良し悪しがありました。パソコンを自作している人にとっては、こうした相性は大きな問題でした。また、パソコンやソフトウェアが正常に動作しないと、「相性が悪いね」の一言で済まされたこともよく聞いた話。

 今のスマホ世代には、何を話しているか、さっぱりわからないでしょうね。スマホとアプリの相性がどうのこうのって話は、まず聞かない。実際、「相性 スマホ アプリ」で検索してみても、その結果はほとんど相性占いのアプリの紹介ページ。やはり、今のスマホ世代には相性問題は遠い世界のことのようで。

相性問題が販売の仕方に影響を与えていた

 そんな相性問題を思い出したのは、先日、ソフトウェア業界のことに詳しい会計士サンとお話しする機会があったから。今でこそ、ソフトウェア会社は開発だけの案件でも取引が成立しますが、昔はそうではなかった。ソフトウェア開発は、ハードウェアの販売とセットだったのです。その理由が、相性問題。

 いくら、素晴らしいソフトウェアを開発しても、それがハードウェアの上で動かなければ意味がない。特にセキュリティソフトが悪さをしていたそうです。

 しかし、発注した企業にとっては、何千万円、何億円とかけて開発したソフトウェア。それが正常に動かなければ、開発会社に大きなクレームをつけることは必至。場合によっては、訴訟に持ち込むこともあったでしょう。

 そのため、ソフトウェア開発会社は、ソフトウェア開発を事業としながらも、ハードウェアの販売も一緒に行わざるを得なかった事情があったのです。ハードウェアの販売は引き渡せば売上に計上されます。しかし、ソフトウェアは場合によっては進行基準によって売上が計上される。こうして、売上計上のタイミングが異なりかねない取引が混在したのです。

もうひとつ、保守というサービス提供も

 また、ソフトウェア開発には、保守がつきもの。引き渡したときには正常に動いても、その後、何かのはずみで変な動きをしたり、止まったりすることもある。その原因の多くは、引渡しのときに発見されなかったプログラムのバグ。そのバクをとるのは、ソフトウェアを開発した会社。

 プログラムやシステムという成果物は、引き渡すことによって売上に計上される。一方、保守サービスは、その成果物を引き渡した後の一定期間にわたって売上が計上されていく。こうして、売上計上のタイミングが確実に異なる取引が混在することになります。

 このように売上計上のタイミングが異なりかねない取引が混在している場合であっても、契約書はたった一つとなりがち。販売先がひとつのため、契約書が一つとなるのはごくごく自然な流れ。とはいえ、混在取引では、契約書の単位が売上計上の単位にはなりえない。

提供するサービスを分解しなきゃね

 そこで、契約書に含まれている取引を分解しようという考え方になります。だからこそ、これまで、ソフトウェア開発を行っている場合には、こうした取引の慣行を踏まえて、契約書の中の売上計上の単位に気を払ってきていました。

 ところが、収益認識の新基準が登場することによって、その余波はまったく関係のない業界にも及びます。というのも、収益認識の新基準は、あらゆる業界で適用できるようにデザインされたため。

 そのため、混在取引を行っていない会社まで、この分類をしなければならなくなったのです。それが、収益認識の新基準でいうところの、ステップ1とステップ2。だから、この2つのステップは、混在取引を行っていない企業にとって、極めて相性が悪い。スマホ世代のように、「これ、なんのこと?」という疑問は当然のこと。関係のないことを強いられているのですからね。

 おっと、相性の話に戻りましたね。冒頭での、あなたとボクとの相性をまだお話ししていませんでした。そりゃもちろん、良いに決まっている。だって、ここまで2,000字近くの文章に付き合っていただいたのですよ。相性が悪けりゃ、ここまで辿り着けない。というワケで、今後もよろしくお付き合いくださいませ。

P.S.
 2020年8月23日に、緊急レポート「新・収益認識の対応プロジェクトが進まない理由」を作成しました。収益認識の新基準への対応プロジェクトが進まずに悩んでいる方々に向けてヒントになれば幸いです。

 PDFファイルで全68ページの小冊子です。文字がびっしりの資料ではないため、読みやすいと思います。無料で手に入れられるので、ぜひ、こちらのページからダウンロードしてください。

P.P.S.

こちらのE-Bookも、大した告知をしていないにもかかわらず、お手にとっていただいております。お役に立てば何よりです。

『超悟り入門』から煩悩を学ぶ前のページ

受講者が変われば、コンテンツの仕上げ方も変わる次のページ

関連記事

  1. Accounting

    2021年の後発事象セミナーの裏側

    3時間、話しまくってきましたよ。それは、後発事象をテーマにしたセミナ…

  2. Accounting

    これからの「税効果注記」の話をしよう

    2019年3月期の決算の目玉は、税効果会計の注記。BSで非流動とする…

  3. Accounting

    ビジネスモデル関連の機関誌に、記事が掲載されました

    もしも、会計士が、ビジネスモデルを探求する組織の機関誌に登場したら。…

  4. Accounting

    収益認識対応を進める秘訣

    本日は、とある企業さんで、収益認識の勉強会。勉強会といっても、座学で…

  5. Accounting

    これが、「見積開示キャンバス」だ

    既視感。前に見たことがあるような感覚のこと。先日、見積開示のセミナー…

  6. Accounting

    投資家サイドの意見はこうだった

    最近、このブログでは、有報の話が続いています。前半の部分の記述に経営…

  1. Accounting

    新型コロナウイルスの記述情報の海外事例
  2. Accounting

    学びの姿勢を感じたセミナー「内部監査の機能を高めるための『KAM」の活用法』」
  3. Accounting

    財務報告の流儀 Vol.020 三井物産、トーマツ
  4. Accounting

    本の表紙を憧れの人に描いてもらいました
  5. Accounting

    未適用の注記から考える、将来の会計や開示
PAGE TOP