最近の飲食店では、タブレットで注文するスタイルが増えてきましたね。朝に行った牛丼チェーンでも、お昼に行った鶏肉の居酒屋チェーンでも、夜に行った魚の居酒屋チェーンでも、席にあるタブレットで注文をします。これ、ビジネスモデル的には大きな意味があります。
ビジネスモデル・キャンバスでいう「チャネル」が、タブレット。これによって、顧客に提供する価値を届ける方法が一変します。従来は、まず店員がお客さんの席に行き、次に店員がお客さんの注文する内容を記録し、さらに店員が聞いてきた注文内容を厨房に伝える。大きく、この3つのステップがありました。これが、タブレットになると、どう変わるか。
まず、注文を聞きに行く店員を確保しなくても良くなります。特に混雑している時間帯になると、店員の数よりも注文するお客さんの席やテーブルが多くなると、すぐに注文を受け付けられない事態になります。これは、お客さんにとってはストレスになる一方で、お店にとっては機会損失となる。
これがタブレットでの注文に切り替わると、すべてのお客さんが一斉に注文しても、瞬時に受け付けることができます。注文を聞きに行く店員が1人もいなくても、この状態が可能になります。しかも、客単価がおそらくは1,000円に満たないような牛丼チェーンでも導入されるほどに、タブレットを使用するコストが安くなっている。
次に、お客さんの注文する内容を記録する必要がなくなります。従来はお客さんの注文を、店員が伝票に記録する手間がありました。いわゆる、転記があったのです。転記する局面では、元の情報を移し間違えやすい箇所。タブレットにお客さんに直接入力してもらうことによって、転記を一切、なくすことができる。つまり、注文の聞き間違えをなくなるのです。
また、タブレットが席やテーブルと紐付いている限り、どの席やテーブルからの注文なのかを間違えることがありません。加えて、どの注文が先なのかを間違えることもない。「それ、こっちの注文だよ」や「こっちの方が先だよ」とお客さんからクレームが来ることがない。
もっとも、この場合、お客さんがタブレットでの注文に慣れている必要があります。先日、夜に行った魚メインの個室居酒屋チェーンでは、隣りのテーブルのお客さんが、タブレットで注文を入力したものの、注文の確定までは行わなかったそうです。いわゆる、買い物かごに入ったままの状態。そのため、「注文したものが来ない」と店員にクレームをつけていました。お客さんの慣れも不可欠なことを感じましたよ。
さらに、お客さんの注文をひとつの情報としてまとめることができます。店員が注文内容を厨房に伝え間違えるリスクがなくなる。
例えば、生ビールを注文するときには、いくつかの言い方があります。「生ビール、1つ」もあれば、「生、1つ」もある。「中生、1つ」もあれば、「ジョッキ、1つ」もある。こうした言い方にバリエーションがあると、それを理解できる必要があります。外国の人が店員だと、生ビールの注文を受けるだけでも大変なのです。
それが、タブレットでたった1つの表現で注文されるため、それを受け取る側も1つの表現だけ覚えていれば良い。AIの世界でいう「中国語の部屋」に同じ。これは、その言葉の意味を知らなくても、その言葉の形から何をすべきかを理解し、かつ、それに応えることができると、あたかも中国語を知っているかのように見える現象のこと。
ある料理の注文を受けて、厨房では、画面にこんな表示がされるイメージです。32番の袋から取り出した食材を、89番の袋に入ったスープとともに3分間温め、61番の袋に入った薬味をふりかければ完成、という具合に。ね、何を注文されたのかがわからなくても、調理ができるってワケ。
タブレットによって、こんなメリットが、しかも安く手に入るなら、導入しない手はない。そんなことを考えながら、牛丼を食べ、鶏肉を食べ、お魚を食べていました。これも、ビジネスモデルの研究のため。研究熱心なボクは、次にどのお店に行こうか。ご一緒、します?