Business model

『100日ファン化計画』から顧客との関係性を学ぶ

(記事にはプロモーションが含まれることがあります。) 

ビジネスパーソンの中には、顧客をつかむことだけに必至な人がいます。新規顧客の獲得だけがビジネスだと思いこんでいる人。営業に走り回ることが、社内で最も価値のある仕事だと勘違いしている人がね。

 新規獲得の獲得はビジネスを成長させるひとつの要因であることは間違いない。しかし、その一方で、顧客を流出していては元も子もない。まだ流出していなくても、流出予備軍が沢山いては同じこと。そのため、顧客をつなぎとめることにも同じくらい注力すべき。

 そのことを裏付けるように、ビジネスモデル・キャンバスでは、ビジネスの要素として「カスタマー・リレーションシップ」、いわゆる、顧客との関係性が挙げられています。これを無視しては、ビジネスモデルが成立しないのです。

 ビジネスモデル・キャンバスを教えているときに、顧客との関係まで考慮することに驚いたという声もあれば、これが理解できない、イメージできないという声もあります。また、ここの理解がカギだと感じるという声を聞くこともある。

 その要因のひとつには、ビジネスモデル・キャンバスの教え方にあると考えています。各要素の流れを重視すると、まず「顧客」があり、次に「提供する価値」がある。それを顧客に届ける「チャネル」があり、また、顧客はそれを受け取ると「顧客との関係性」が生まれる、という流れ。これが、入門用の解説。

 この流れは、ビジネスモデル・キャンバスの各要素が関連を持っていることをひとつの軸で説明するには優れています。それぞれの要素がそれぞれ分断しているのではなく、有機的につながっているからこそビジネスモデルの力を発揮できることが理解できるからです。

 しかし、ビジネスモデル・キャンバスで挙げる要素は、9つ。ある1つは、他の8つとも関連しています。入門用の解説だけに囚われていると、「顧客との関係性」は「チャネル」で「提供する価値」を受け取った後にしか生じないと勘違いされてしまいがち。

 ところが、ビジネスモデル・キャンバスの左側で考えてみたときに、キーリソースが必要になることもあれば、キーアクションが重要になることもあります。また、キーパートナーが欠かせないこともあれば、コストも重要なものが生じることもある。

 一方、ビジネスモデル・キャンバスの右側で考えてみたときに、顧客がドライなら、顧客との関係性は密接したものにはなりえない。また、提供する価値が一回限りのものなら、顧客との関係性は時間軸で事後に長くはならない。

 他にも、チャネルの段階から顧客との関係性を考慮すべきことが重要な場合も考えられます。さらに、得られる収入を高めるために、顧客との関係性を見直すこともあります。

 このように、「顧客との関係性」というビジネスモデルの要素は、他の8つの要素と密接につながっているのです。このことは、カスタマー・エクスペリエンス、つまり、顧客体験を理解すると、なお、腑に落ちます。

 顧客定着のスペシャリストであるジョーイ・コールマン氏は、『100日ファン化計画』(ダイレクト出版)の中で、すばらしい顧客体験を生み出すためのフェーズを8つに整理しています。簡単に説明すると、次のとおり。

(1)顧客になる前の「品定め」
(2)購入を祝福する「自認」
(3)購入後の後悔を鎮める「肯定」
(4)提供する価値を受け取った瞬間の「立ち上げ」
(5)その後の習慣を形成していく「順応」
(6)成果を手にする「完遂」
(7)顧客ロイヤリティを高める「養育」
(8)紹介や推薦を行う「支持」

 このうち、(1)から(4)は、ビジネスモデル・キャンバスでいう「チャネル」に相当すします。すると、「顧客との関係性」は、残りの(4)から(8)まで。

 このように整理するなら、「顧客との関係性」とは、提供する価値をその後も継続して使用してもらうこと、実際に成果を出せるように後押しすること、熱狂的なファンに育て上げること、他のお客さんを紹介してもらうことなどと具体的な取り組みとして落とし込めます。

 こう説明すると、よりイメージが湧いたのではないでしょうか。もちろん、これらは、いずれもビジネスモデル・キャンバスの他の要素と密接に絡んできます。それは、さきほど説明したとおり。

 「顧客との関係性」を無視しては、ビジネスモデルは成立しない。それでもまだ、新規顧客の獲得をしている自分だけが偉いと言い続けますか。もし、言い続けるなら、顧客どころか、キーリソースやキーアクション、キーパートナーまでもが流出しかねませんよ。ご注意を。

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