収益認識の新基準への取り組み、進んでいますか。専門雑誌『週刊経営財務』(税務研究会)によれば、3月末決算会社では2019年6月の株主総会が終わってから対応を進めている企業が多いそうで。
そんな関係もあってか、今日は、とある会計士と収益認識の新基準について話をしていました。その会計士は監査の重要性の基準値を援用すべきかどうかについて悩んでいたのです。そこでボクは、重要性の考え方について意見を求められたというワケ。
重要性はお任せあれ
というのも、ボクが、以前、専門雑誌『旬刊経理情報』(中央経済社)で、「会計上の“重要性”の勘所」という記事を書いていたから。日本の会計基準で示されている重要性のルールをまとめたうえで、体系的に整理した内容を寄稿していたのです。
この記事を書いたのが、2015年3月のこと。その後、2018年10月になって、国際会計基準審議会は、「重要性がある」の定義を明確にしました。ボクの寄稿とは違う切り口でしたが、国際的なとりまとめよりも3年7ヶ月も前の段階で、重要性についてとりまとめていたのです。自分で自分を褒めてあげたい。
それはさておき。収益認識の新基準の重要性について聞かれたボクは、こう答えました。
「それは監査の重要性だから、エラーを許容できるかどうかの金額。しかし、ここでは会計上の重要性のため、会社の規模によっては、それではあまりにも金額が少なすぎることがあるよね。
すると、なんでもかんでも原則どおりに会計処理する羽目になってしまう。重要性の概念を持ち出す隙がないことになるでしょ。それは、会計基準が想定している重要性とは異なりかねないこともある。
また、監査の重要性の基準値を使うと、毎期、変わってしまうのも課題のひとつ。もちろん、会社の経営成績が変動するし、また、財政状態のサイズも違う。とはいえ、実務を着実に運営していくためには、ある程度、一定水準で重要性を区切りたい気持ちがあるのも事実。
だからと言って、監査の重要性の基準値の変動幅の下限とすると、また、会計の重要性が小さくなりすぎてしまう。だから、監査の重要性の基準値を無批判に当てはめるのはどうかと考えている。
会計の重要性とは、会計処理の簡便と表示の簡便の2つがあるよね。簡便な会計処理として認められるのなら、それはエラーとは言い切れない。つまり、監査の重要性の基準値を持ち出す場面ではないとも言えるでしょ。
もっとも、簡便な会計処理とは言えないほどに、経営成績や財政状態を歪める結果になるときには、それはエラーとみなされることもあると思う。これがやっかいなんだけど、監査の重要性の基準値を無視できない局面もあるということ。その観点も持ち合わせておかないと、後で監査人と揉めることになりかねない。
簡便な会計処理を適用するなら、それを適用しても、こんなに影響がない、あるいは、軽微だと会社が説明する必要があるよね。適用初年度だけじゃなく、その後も定期的に簡便な会計処理を採用し続けることの正当性を主張してもらう。
ひとつ、気をつけたいのは、経営者の視点としても、その簡便な会計処理が経営管理として許容できるかどうか。現場サイドではできるだけ簡便な会計処理を採用することで、作業の負荷を減らしたい。それが経営者の視点と違うなら、経営をミスリードしてしまう。
企業グループとして、企業単体として、事業部門として経営判断を誤らせないほどに簡便な会計処理であることは大前提だよね。経理部門だけの都合で決めちゃ絶対にダメ。」
な~んて話をしていました。その会計士は腑に落ちたようで、「その方向だよね」と返答しました。でも、肝心な点があります。これは見過ごしてはいけないこと。
それは、ボクの意見は単なる私見。権威も何もないため、これを有り難く受け取ってはダメだ、ということ。ただ、専門家はもっと私見を発信しても良いのでは。共有することが、日本にとって役に立つなら、こんなに素敵なことはありません。
あなたの情報発信、待ってます。
P.S.
2020年8月23日に、緊急レポート「新・収益認識の対応プロジェクトが進まない理由」を作成しました。収益認識の新基準への対応プロジェクトが進まずに悩んでいる方々に向けてヒントになれば幸いです。
PDFファイルで全68ページの小冊子です。文字がびっしりの資料ではないため、読みやすいと思います。無料で手に入れられるので、ぜひ、こちらのページからダウンロードしてください。
P.P.S.
こちらのE-Bookも、大した告知をしていないにもかかわらず、お手にとっていただいております。お役に立てば何よりです。